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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第41話 空間魔法とDMチート

第08節 国づくり・民づくり〔5/6〕

 迷宮(ダンジョン)(マスター)は、その領域内の空間を支配する。それは誰でも知っている。

 しかし、多くのDM(ダンジョンマスター)は、単純な空間拡張にのみその力を使っている。少なくとも俺の知る限り、空間接続を使っているDMは、リリスしかいない(それほど多くのDMと面識がある訳ではないが)。


 俺は最近、空間転移魔法を研究しているが、それゆえにわかることもある。

 空間を拡張するだけであれば、一定割合で空間を膨張(ぼうちょう)させれば良い。しかし、空間を()じ曲げ接続したりする為には、時間と空間を完全に把握する必要がある。

 〔空間把握〕。これは、俺がDMとなったことにより使えるようになった権能の一つだ。

 しかし、“把握”するだけでは空間を(ゆが)めたり接続したりすることは出来ない。


 タギ=リッチーは、“空間”が何であるのかを(知識として)知らない。

 クリスは、興味がない。

 リリスは、取るに足りないものだと思っている為、空間と時間の関連性に気付かず、結果『ベスタ大迷宮』は時間と空間が乱れに乱れた場所になってしまったのだ。


 前世の常識で、第一次元「縦」、第二次元「横」、第三次元「高さ」、第四次元「時間」、と一般に言われる(「時間」は第四ではなく第零ではないか? という意見もある。根拠として、空間を認識出来なくても、時間を認識することは出来るからだ、というのだが)。


 それはともかく。アインシュタインの特殊相対性理論によれば、マクロのレベルでは時間(第四次元)と空間(距離:第一~第三次元)の概念は等しくなる。一光年という距離は、光が一年掛かって進む距離であると同時に、一年前の映像であることも意味する。もし一光年を一瞬で渡ることが出来るのなら、それは一年前の過去に(さかのぼ)ることが出来るのと同じ意味を持つのだ(出発点でそれを観測出来るのは、一年後になるから)。


 閑話休題。

 空間転移が、光速移動に等しいと考えれば、当然そこでは空間が(ゆが)む。それを補正する為には、空間のみならず時間も正確に把握する必要があるということだ。


 それらを考えると、DMの権能の一つ〔空間把握〕は、正確には〔時空(じかんとくうかんの)把握〕というべきものである。限定された空間内であれば時間を認識する必要が無かった為、クリスさえ気付かなかった、それが現実である。


◇◆◇ ◆◇◆


 空間転移を実現する、その最大のヒントは、最近の俺の代名詞となりつつある神話級魔法〔星落し(スターフォール)〕。それであった。


 〔星落し〕は、肉眼で認識することさえ出来ない遠方のモノを呼び寄せる、一種の召喚魔法であるということが出来る(前世の虚構(ファンタジー)で「召喚魔法」というと、空間を渡って現れるものしか想定されなかったが、「召喚」の語義は単純に上司が部下を呼び出すことだ。なら通常空間を通って現れたとしても、それを「召喚」と呼ぶことに差し支えはない(はず))。

 そして、〔星落し〕の研究を始めた頃、俺は真剣に思ったものだ。「天の星を落とそうとしているのなら、それが実現出来る筈がない」と。

 けど、逆に考えてみよう。もし召喚の対象者が巨大な質量を持っているのなら。

 召喚者の方が、被召喚者のもとに飛ばされてしまうのではないだろうか?


 なら、動かしようがない“場所”そのものを召喚したら。逆に召喚を試みた術者は、空間を渡ってその“場所”に至るのではないだろうか?

 もっとも、通常その“場所”を魔法的に認識することは難しい。しかし。


 今の俺は、DMとして、目的地の空間をその権能で〔把握〕することが出来る。なら。


 それにより、俺は自身の迷宮(ダンジョン)内に限定して、〔空間転移〕を実現することが出来るようになったのである。但し、その消費魔力量は絶大。俺の保有魔力量の8割近くが持って行かれる為、連続使用は出来ないということになる。


 だが、それだけでは終わらない。迷宮外で〔空間転移〕を実現するには、どうしたら良いか。


 それも最早(もはや)簡単なこと。


 これもまたDMの権能、〔魔力操作〕を使う。

 〔魔力操作〕は、迷宮内に魔力の濃淡を作ることが出来る。それにより【竜の(ドラゴンズ)食卓(・テーブル)】内にダンジョンを複数造ろうと思っているのだが、同じやり方で魔石を合成することが出来る。

 そして、魔石が合成出来るのなら、その魔石を指標(マーカー)として、その場所に転移することも出来よう。


 魔石以外の何某(なにがし)かをマーカーにすることが出来れば最善だが、今の俺にはこれが精一杯。取り敢えず空間転移を実現出来たということを歓ぼう。


 ちなみに。マジックアイテムを製作する為には、魔石と魔力を宿す宝石の二つが必要だとされているが、魔石製作時点で特定の魔法を()めておけば、魔力を宿す宝石を用意する必要はなくなる。それだけでもコンパクトなものを作れるようになるのだ。


◇◆◇ ◆◇◆


 ところで、『竜の食卓』から硫酸の安定供給が得られたことで、鍛冶師ギルドで開発中であった火薬の研究が文字通り爆発的に発展していた。


 化学的には、硝石(硝酸カリウム)から濃硝酸を精製し、濃硝酸と濃硫酸から混酸を精製する。ここまでくれば、ニトログリセリンの生成は時間の問題。

 あとは不安定なニトログリセリンを安定的に使えるように加工した産物であるダイナマイトと、点火剤としてのニトロセルロース(シングルベース火薬)、更にニトログリセリンとニトロセルロースを混ぜたダブルベース火薬の開発。欲を言えばダブルベース火薬にニトログアジニンを混ぜたトリプルベース火薬まで開発出来れば理想的だが、現実にはダブルベース火薬とダイナマイトで充分目的は達成出来よう。


 四大(しだい)精霊論、地球の歴史に照らして当て()めれば神秘学全盛の時代。それも魔法が実在する為に、錬金術さえ魔法に頼り、結果それは科学が萌芽する土壌になり得ない。その時代に、「ニトロ化」という化学現象を見出(みいだ)すことは、系統学的にあり得ない。

 そして、どこぞの転移者なり転生者なりが異世界チートで黒色火薬の合成に成功したとしても、(その転移者/転生者が化学者でもない限り)ニトログリセリンやダイナマイトの開発は不可能。原料も揃わないだろうし、抑々(そもそも)個人で出来る事には限度がある。だから俺はギルドに開発を委ねているのだから。


 その結果得られた技術格差は、ネオハティスの鍛冶師が他国に引き抜かれでもしない限り(くつがえ)されることはないだろう。

(2,673文字:2016/08/10初稿 2017/07/31投稿予約 2017/09/06 03:00掲載予定)

【注:召喚の厳密な語義は、第二章第23話の脚注を参照願います。ここではだいぶ省略して表現しています】

・ 硫酸の製法の一つに、硝石と硫黄を燃焼させて水蒸気(水)と反応させる、という方法があります。また、黄鉄鉱(二硫化鉄)の精製(製鉄)の過程でも硫酸は得られます。しかし、亜硫酸ガスを水に溶かして作るのが一番簡単です。

・ 火薬の製法・材料について、説明はかなり簡略化しています(一部は不正確・不明瞭)。大丈夫だとは思いますが、あまり詳しく描写すると余計な問題が生じるかもしれないので。ちなみに、「シングルベース火薬」「ダブルベース火薬」「トリプルベース火薬」の総称を「無煙(ガン)火薬(パウダー)」と言います。

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