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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第37話 難民問題

第08節 国づくり・民づくり〔1/6〕

 新暦元年、1月4日。


 新年の1月1日から3日までは、休日。

 サリア発案だが、それ以前にこのネオハティスで制定された最初の祝日である。

 この3日間(正しくは、1月3日までの連続した7日間を公休期間として制定している)は、お金稼ぎではなく、家族とともにゆっくり過ごすことをルールとして定めたのだ。

 勿論(もちろん)、休みの日だからこそ忙しくなる人たちもいる。例えば、食堂や公衆浴場の従業員たち。娯楽施設が少なく(それ以前に“娯楽”という概念自体がこれまで(ほとん)どなかった)、いきなり「今日は仕事しないで良いよ」と言われても、多くの人たちは喜びより不安の方が先に立つ。しかし、この町には遊ぶ為に人生(というより「二生(ぜんせとげんせ)」)を費やしている、サリアという稀有(けう)な人材がいる。今はまだ浴場リゾートだけだが、これからは娯楽施設も増えていくだろう。

 同時に観光業も考える必要がある。住民税収の減少は有り難くないから、他国への移動はこれまで通り制限を設けるけれど、国内の移動は考える価値があるだろう。芸術だって、これまでは貴族の道楽だったものを、一般市民にまで広めていくべきだ。

 そんな、民の休日の過ごし方を検討しているうちに、俺にとっての三箇日は終わってしまった。町長(セラ)代理(さん)には(「この期間は役人・官僚などは(むし)ろ仕事をしちゃいけない日なの!」と説得し、休みを取らせたのだが)「人に休めと言っておきながら自分は休まないとはどういうこと?」としこたま(しか)られたけど、それはともかく。


 仕事始めとなる、4日。

 各ギルドのマスターと、町行政の閣僚たちを集めて、今年最初の会議が開かれた。


「最初に考えるべきことは、難民問題だ」


 会議の口火を切ったのは、俺の発言だった。


「けど、人口を増やすことは喫緊(きっきん)の課題よね?」


 セラさんの疑念も(もっと)もだ。人口は増やしたいが、難民は抑制しなければならない。歴史ある大国ならともかく、新興国にはこの相反する問題が最初の難敵となる。


「多くの移民を受け入れたい。

 けど、既にこの町の民となっている人たちと同じ扱いをしても良いモノか。それもわからない。

 加えて国を興すことを考えると、無造作に人を増やし、その結果国の害になったら困るという問題もある」


 移民に国を乗っ取られる。こんなこと、前世では新興国に留まらず多くの国で起こっていた。


「でもアディ。十年後を考えたら、今の市民と一年後に帰化する市民の間に差はないんじゃない?」

「というか、昨日帰化した人と、今日帰化する人の間に差を付けたら、やっぱり問題だと思うよ?」


 スノーとサリアも攻撃に加わった。確かに、鎖国主義を貫くのも一案だが、現在のネオハティスの人口と構成比を考えると、鎖国で国を富ませるのは限度がある。


「なら逆に、移民のルールを厳格に定め、今の市民たちにも同様の基準で適用させれば良いのか」

「それはそれで、今の市民たちから暴動が起きるかも」

「かもね。ならその基準を、お互いが納得出来る線で整えれば良い」

「具体的には?」


 今この会議室にオブザーバーとして同席している(実はまだネオハティスに籍を移していない)、要するに帰化希望者に該当する人物がいる。カレンだ。

 もし帰化のハードルが上がるのなら、彼女は直接その被害を受けることになるので、戦々恐々としながら話を聞いている。


「例えば、こういう感じだ。

 まず難民・移民希望者は、救護院で一ヶ月間の看護を行う。この間の怪我や病気は、行政当局で責任を持とう。

 一ヶ月が過ぎたら、旧ハティス市民同様、一定の生活費を貸与(たいよ)した上で、救護院から出てもらう。そして、それぞれで仕事を探してもらうんだ。


 ここまではこれまでと一緒。

 だけど一年後。

 その帰化希望者には、二つのことを要求する。

 一つは、経済力。これは世帯単位で構わないけれど、貸与した生活費の返済の目途(めど)が立ち、且つ世帯全員の生活を維持出来るだけの収入を確保すること。

 もう一つは、学力。初等教育として制定する読み書きと初級算術など。これを最低限身に付けてもらう。但し、基準日となる一年後に、満12歳未満または数えで14歳の正月を迎えていない子に限り、この条件は免除とする」


「つまり、無条件で助けてもらえ、その後も生活費を支給してもらえる。そんな生活が出来るのは、最初の一年間だけだ、ということね?」

「もし支給した生活費を使い果たしてしまったら、追加はないよ。その場合は一年経たずとも町を出て行ってもらう」


 ボルド時代から難民問題で頭を悩ませていたサリアは、この解決法に一定の理解を示してくれた。とは言ってもまだ納得出来ていないようだが。


「でも、難民が就くことの出来る仕事って、そんなにたくさんある?

 実際シンディさんも、ボルド出身じゃないっていうだけで、ボルドのギルドから鉄や炭を売ってもらえなかったじゃない」

「あの時の、ギルドの姿勢は間違ったモノじゃない。こっちとしては気に食わないけどね。

 そしてそう考えると、ネオハティスに来る難民が、あの当時のシンディと同じ思いをすることは想像に(かた)くない。


 だから、公共事業の口を開けておく」

「軍役とか?」

(いや)、前世では軍役は国籍取得の手段の一つだったけど、ネオハティスではやりたくない。装備の持ち逃げとかされたら問題(コト)だからね。

 街道整備、樹木の伐採(ばっさい)末摘花(すゑつむはな)の里を作る為の石切(いしきり)や輸送。河の流れが変わるから、その浚渫(しゅんせつ)。女性には洗濯とか炊き出しとかもある。他にも街並みのゴミ処理など、出来る仕事は幾らでもある。

 つまり、その帰化希望者を、冒険者ギルドの木札(Eランク)に仮認定するってことになるかな? その場合、彼ら専用の受付窓口が必要になるだろうけれど」


「じゃぁ今冒険者ギルドで鉄札(Dランク)以上を持っている人は?」

「その人は通常通り依頼(クエスト)を請ければ良い。これはあくまでも、仕事がない人への救済措置だ。

 で、ついでにそちらで毎日読み書き算術の勉強会を開かせれば、二つ目の条件も達成出来るだろう」

「嫌がったら? それに、子供たちだけは免除される理由は?」

「嫌がったとしても。この町では既に、読み書きが出来なければ日常生活も(まま)ならない。紙幣に『何イェン』と書いてあるかもわからないだろうからね。

 そしてネオハティスの子供たちは、今では5歳の子供でも字が書け、数を(かぞ)えられる。仕事をする必要のない子供の帰化希望者は読み書きが出来なくても問題ないかもしれないけれど、読み書きが出来なければ他の子らと一緒に遊ぶことも出来なくなる。なら放っておいても子供たちの方が先に、読み書き算術をマスターするだろうさ」


 そう。「帰化の条件」というよりも、この町で暮らすなら「出来なきゃ困る」という問題ばかりなのだ。


「まぁそれとは別に、招聘(しょうへい)しなければいけない職種もいるしね」

「それは?」

「例えば、神殿関係者」

「……いらないんじゃない? 今の市民に、神殿が無くて困っている人はいないわよ?」


 スノーが市民の気持ちを代弁する。が。


「今の市民は良くっても、今後帰化する市民の為には必要になるだろう?


 他にも、幾つかの職種のギルドが必要だな」

(2,995文字:2016/08/08初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/29 03:00掲載予定)

・ ここでは語られませんでしたが、帰化に際する学力試験。そこには、アディの国に対する「忠誠義務」が盛り込まれます。現在日本で例えて言えば、漢字書き取りで、「韓国が領有権を主張し実効支配している、日本海にある日本の島の名前を漢字二字で書きなさい」みたいな問題も出題されるのです。答えられなかったり間違えたりしたら、「漢字力不足」との名目で不合格。解答用紙の返却はしませんから、或いは小論文問題の記述(解答)内容によっては、充分な学力があっても「不合格」に出来るのです。

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