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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第35話 国土

第07節 新しい歴史〔3/4〕

「だって、貴女は『ベスタ大迷宮』のダンジョンマスターでしょう?」


 オードリーさんは、あっさりと。

 その重大な秘密を、人前(ひとまえ)で口にした。


 勿論(もちろん)、人前といっても、ここにはほぼ俺の身内といって差し支えの無い人たちしかいない。しかし、そうそう簡単に暴露(ばくろ)されて良い内容でもない。


其方(そなた)の夫は、(さき)のギルドマスターは、余程口が軽かったと見える。

 如何(いか)な自身の家内(かない)相手とて、守秘義務が課せられた情報をほいほいと語るとは」

「心外ですね。夫は守秘義務が課せられた事実を、たとえ寝所であっても口にする男ではありませんでしたよ。

 私が貴女の正体を知ったのは、ハティスのギルドマスターを継いだ後。

 引継ぎの書類の中に、機密指定の印が押された、貴女のことが記された書類がありました。

 代々のギルドマスターのみ閲覧出来る、引継ぎが終わっていなければ閲覧さえ認められない書類の中に、です」


「でも、それをこの場で語ってしまっては意味のない話になるのではないですか?」


 何となくツッコミを入れてみた。俺自身が暴露する(ばらす)つもりだったことを隠して。


「けど、クリスさんの正体が真竜であるというのなら。

 それ(・・)もまた、リリスさんの正体と同一レベルの機密事項になります。

 同じく、アディ君がDM(ダンジョンマスター)だということも。

 それらを知ったここにいる人たちに、リリスさんの正体だけ隠す意味は、私には見当たりません。

 なら、この場に於いてはそれ(・・)の機密指定を解除しても、同じな(はず)です」


「……だ、そうだ。

 リリス、反論は?」

「ない。ギルマス殿の(げん)に軍配が上がろう。

 そして、そういうことなら、語るべきであろうな」


 リリスはそう言って、迷宮(ダンジョン)(コア)迷宮(ダンジョン)(マスター)、そして“ドラゴン”という存在のことを、皆に説明した。


「何というか、いきなり世界の謎に対する(すさ)まじい答えを示されて、どう反応したら良いのかわからないわね。

 というか、アディ君、『竜の(ドラゴンズ)食卓(・テーブル)』だけじゃなく、『ベスタ大迷宮』さえも支配下に置いたってこと?」

「どうやらそのようです。

 というか、『ベスタ大迷宮』の支配権は以前からあったようですけど、今の今まで知りませんでしたし」


(――道理で鉱石採集に行っても、魔物との遭遇(エンカウント)が少なかった訳だ)


「……何か?」

(いえ)、別に」


「では、これから二つのダンジョンのマスターとして、貴方はこれからどのように振る舞うの?」

「まず、『ベスタ大迷宮』。こっちはあまり考えていません。

 ただ、『竜の(ドラゴンズ)食卓(・テーブル)』の地下を『ベスタ大迷宮』と直接接続して、管理をリリスに委ねることを考えています」

「地下を? 何の為に?」

「俺の構想には、魔物が蔓延(はびこ)るダンジョンは必須です。『竜の食卓』にも幾つか魔力溜りを作り、ダンジョンを造ろうと思っています。

 なら、その大深度地下が『ベスタ大迷宮』と接続していても、大した問題にはならない筈です」

「何故ダンジョンを?」

「当然、冒険者が(いど)む対象として。


 絶対安全な揺り籠(ゆりかご)の中では、人間に限らずどんな生物(いきもの)(しゅ)として成長出来ません。

 その一方で、ある程度安全が確保された場所でなければ、人間の文化は花開かない。

 だから、その二つを住み分けるんです。


 冒険者が挑む、魔物の領域の更に奥にはダンジョンがあり、そしてそのもっと奥には世界で最も深い大迷宮が控えている。

 一方で一般の人々が暮らす街には安全が約束され、心置きなく文化・芸術活動に没頭出来る。

 両者はけれど、薄皮一枚(へだ)てた両隣。(わず)かに空気が揺らいだら、安全な街は魔物が跳梁(ちょうりょう)し冒険者が走り回る戦場になる。だから、人々は命懸(いのちが)けで安全な街を守らなければいけないんです」


 それが、俺が見出(みいだ)した「理想の街」の姿。

 政治家や官僚、軍人のみならず、一般市民も自覚して、命懸けで平和を維持することが出来るなら。

 そこは多分、楽園になる。

 無垢(むく)にして無知なる者が住まう楽園(エデン)とは違い、賢くあることを求められる、そんな楽園に。


「それから、『竜の食卓』と『ブルゴの森』について。

 こっちは、ちょっと大掛かりなことを考えています。だから、機を見る必要があると思っています」

「大掛かりなことって、なに?」

「一言で言うと、ボルド河の流れを変えるんです」


☆★☆ ★☆★


 ボルド河。

 『竜の(ドラゴンズ・)(ピーク)』を巻くように流れる大河である。


 が、DM(ダンジョンマスター)となり、竜の山の地下までその知覚が及ぶようになってわかったことがある。


 ボルド河の水源は、『竜の山』。ここまでは誰でも知っている。しかし、それだけではないのだ。


 大きな伏流(ふくりゅう)水が2本。『竜の食卓』と『ブルゴの森』の地下を通りボルド川に(そそ)いでいる。

 また、大きな伏流水が3本、『竜の食卓』の地下を(くぐ)り、直接海に流れ出ている。


 この計5本。特に圧を掛けることなく、全て『竜の食卓』の地表に自噴(じふん)させることが出来るのだ。


 うち一本はマグマ溜りの近くを通過する為熱水となっている。つまり、その辺りでは飲料水や生活用水の水源にはならないが、温泉の源泉になる。


 だから残り4本を、DMの権能で『竜の食卓』に導き、そこから先は地表を流れる川とする(勿論(もちろん)、地下に水が浸透しないように土に手を加える必要があるが)。

 『竜の食卓』の地上に、川と運河を縦横に走らせ、それを利水とする。


 余剰の水は更に下流のネオハティス市の近くを通り、ボルド河に注ぐ。


 この結果、オークフォレスト市とボルド市の間の水量は激減することになるだろう。


★☆★ ☆★☆


「けど、この結果ブルゴの森周辺、つまりはネオハティスのみならず、オークフォレスト、ボルドなどの周辺都市にも、かなり大きな地震に見舞われることになるんです。

 だから事前に予告して、入念に準備をしてからやりたい」


 ちなみに。温泉の源泉となる伏流水は、大水脈(すいみゃく)に合流する()水脈としても幾つか存在している。

 そのうちの一つは珍しく『竜の食卓』表層に露出しているが、おそらく亜硫酸ガスが噴き出す地獄のような風景となっているだろう。とはいえ亜硫酸ガス(化学的には二酸化硫黄)が豊富に産出しているのなら、ほぼ無限に濃硫酸を採取出来る。現在鍛冶師ギルドが苦戦している硝石のニトロ化も進むだろう。


 そして、塩。

 現在のネオハティスの民は水属性魔法による相転移を常識として理解している。なら、海水からの製塩は難しくない。海水の水分を水蒸気に相転移させたうえで塩化マグネシウム(にがり)潮解(ちょうかい)(吸湿させて液化させること。にがりは塩より先に液化する)させれば良いのだから。


 土地と民。水と塩と食料。

 更には資源と安全並びに危険。

 国を成立させる為に必要なものは、これで全て(そろ)うのだ。


 そしてこれで。

 国を造る土台が整った、ということになる。

(2,958文字:2016/08/03初稿 2017/06/30投稿予約 2017/08/25 03:00掲載予定)

・ 『ベスタ大迷宮』の管理をリリスに委ねる。言っていることは普通ですが、その内容は単に正当な管理者に「管理放棄物件」の管理を促していることに他なりません。なお、今後『ベスタ大迷宮』に挑戦する冒険者は、絶望しかなくなるでしょう。何故なら、どこまで深く攻め込んでも、そこにはダンジョンマスターもダンジョンコアもいないのですから。しかも、空間が歪んでいる為「明確な意味での最深部」もないという。

・ 「水脈」(すいみゃく)は「みお」とも読み、「澪」という字を当てることもあります。但し、「水脈(すいみゃく)」という場合は伏流水の筋、「(みお)」という場合は港湾・河川等の船舶の喫水を確保されている船道、と使い分ける場合もあります。

・ ここでは「硝石のニトロ化」と言っていますが、正確には硝石(硝酸カリウム)から濃硝酸を精製し、その濃硝酸をニトロ化することを指しています。

・ エルフは、森のはずれで藻塩を作っていました。藻塩は美味しいけれど、既に味が付いている分使える料理の幅が狭まるのが玉に(きず)。けれど、使い分ければこれもまた特産品。

・ 製塩についての知識は、ペリヱ様(ユーザーID:61621)の「異世界の塩事情」(n2148cv)を参考にさせていただきました。……あまり活かせていないけど。

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