第14話 事後評価
第03節 竜の山へ〔3/5〕
翌日。
俺たちとシーナ王女は、オードリーさんを交えて今後の話をすることになった。
「まず、アディ君。改めてになるけれど、状況を報告してください」
「基本的には、昨日言った通り。第八測量班が飛竜の襲撃を受けた地点から東方を中心に森妖精の若長・ゼロスの感覚頼りに走査したところ、その巣になる岩場を発見し、これを殲滅した」
「巣を発見して殲滅、ってことは、斃したワイバーンはあの1頭だけじゃないってことね?」
「あと11頭いる。全部俺の〔無限収納〕に入れてある。他に卵などがあったかどうかは、現在シェイラとゼロスが確認中だ」
「……全く、相変わらずのようね。
で、ギルドマスターとしての要望を伝えるわ。
今回旅団【緋色の刃】が討伐したワイバーンは、あの1頭のみ。あくまでも第八測量班を襲撃した個体を撃破しただけ、ということにして。その代わり残り11頭に関しては、素材一式全て【緋色の刃】の所有を認めます」
「俺たちはそれで構わんけど、何故わざわざ1頭だけ、とするんだい?」
「『ワイバーンを斃す』。それ自体英雄的な行為よ? 白金札のパーティが総力を以て成し遂げるような。それに付随する宣伝効果も踏まえて、アディ君とシェイラちゃんの二人を白金札に、サリアさんを金札に昇格させるべき、という声も出ています。
けど、これに関して町長代理から横槍が入りました。
先の『賢人戦争』で、アディ君は対人戦闘能力を、シェイラちゃんは斥候・暗殺戦能力を、サリアさんは空間攻撃能力を、それぞれ証明しています。けどそれはあくまで人間相手のモノ。魔物、それもワイバーンに対してさえ圧倒的なものがあるなどということになれば、今、各市各領が分析している【緋色の刃】の戦力評価を上方修正することになるでしょう。
現時点で、ネオハティスがそれほど強大な戦力を保有していることを、他市他領に知られる訳には参りません」
「『強い味方は頼りになるけど、強大な味方は脅威にしかならない』ってか」
「そうですね。おまけにアディ君は先日、ロージスで遊んで来ていますでしょう? ここからも良く見えましたよ。
そちらは証拠がありませんからただの噂話で終わりますけど、ワイバーンは証拠が残っているのですから、言い逃れが出来ません。結論として【緋色の刃】が斃したのは、ワイバーン1頭。そして諸般の事情から、今回の討伐は昇格評価の対象からは外します。
その1頭、昨日納品していただいたワイバーンですが。これは解体し、それぞれ素材を売却しますが、基本的にネオハティス籍の冒険者や市営警備隊の装備に使います」
「あ、なら提案。竜鱗製の楯を二枚作って、それぞれビジア領主とボルド市長に進呈したらどう? 友好の徴に、として」
「良いわね、それ」
「で、余った竜爪と竜牙と竜骨と竜鱗、それから肉類は全て【ラザーランド商会】で買い取らせていただきます」
「お願いするわ。
最後に【造反者】の件。
今回の依頼失敗に関しては、【緋色の刃】が事後処理しているので罰則は無しとなっておりますが、当然ながら報酬も出ません。
一方で水晶花の泉で倒れていたカレンさんを保護してくれた冒険者に対する謝礼――事後ですが、銅札依頼として発注しました。その報酬です――と、救護院での治療費は、ギルドより請求させていただきます」
「え? ちょっとそれは、可哀想過ぎるんじゃ――」
「スノーさん。貴女にとっては身内だからそう思うのかもしれませんけど、冒険者にとっては死の危険も当然考慮すべきリスクのうちです。相手が小鬼かワイバーンかは関係ありません。
確かに、ギルド側にも不手際はありました。それは認めましょう。ワイバーンの出現リスクを計算に入れていなかったことは事実ですから。
けどそれを踏まえても、依頼を請けた冒険者がその件で苦情を言えるのは、護衛対象である測量士たちを全員無事に連れて帰ってきた後です。誰一人守れなかった、救えなかった以上、今回のクエストは失敗としか評価されないんです。
失敗した冒険者に対する救出費用は、基本的に救出された冒険者が負担すべきもの。例え逃走中に〔亜空間収納〕の中身を全て喪失していたとしても、それは変わりません。自分の身を自分で贖ってこそ、冒険者と呼ばれるのですから」
この話題になってから、カレンは俯いて一言も発していない。当然だ。この程度の冒険者の掟を知らずして、これまで冒険者をやって来れた筈がない。
「支払いに関しては、月が巡るまでは待ちましょう。
けど支払い余力が無いというのであれば、労働奴隷になってもらうということになります」
「……はい、わかりました」
「ねぇアディ! 何とかならないの?」
「何とかって? 俺たちが【造反者】の負債を肩代わりするとか?
それともスノー個人の小遣いでそれを代わって支払うか?
どちらにしても、【造反者】は自分の失敗のツケを自分で贖うことさえ出来ない三流冒険者パーティだった、と内外に公表することにしかならないよ?
スノー。カレン……シーナ王女っていうのは、お姉ちゃんが何でもかんでも世話をしてあげないと一人では生きていけないような娘なのかい? 昔はそうだったかもしれないけど、今は一人でちゃんと生きているんだろう? なら、自分の負債を自分で背負うことも一人前の証だよ。
俺たちに出来るのは二つだけ。
割の良いクエストを紹介することと、
カレンが奴隷落ちしたら買い取ってあげること、くらいだろう」
「……わかったわ」
「アディくん、割の良いクエスト、って何か考えているんですか?」
「一言で言ったら今回の事件の反省を込めて、森の中を強行調査する。
そしてワイバーンのような危険な魔獣が市民に害をなす前に、先制して全滅させる」
「それってつまり――」
「そ。『竜の山』を攻める」
この森が『竜の山』の一部なら。迷宮主たる真竜なり迷宮核を破壊することで、少しは魔獣たちの動きも変わるだろう。
年内に。雪が降る前に。暦が変わる前に。
今年最後の作戦は、山登りだ!
(2,831文字:2016/05/28初稿 2017/06/01投稿予約 2017/07/14 03:00掲載予定)
・ 本章第01節第02話を読まなかった方の為に、補足説明。
「暦が変わる」というのは、ネオハティスではカナン暦705年冬の三の月5日目を新暦元年1月1日とし、太陽暦を導入することにしており、それを指しています。
・ 冒険者ランクの金札と白金札は名誉ランクです。こればっかりは実力と、何より実績で評価されます。評価基準は原則戦闘力。ただ歴史上、交渉力(外交力)で白金札になった冒険者もいたとか。
・ サリアは『賢人戦争』で〔氷結圏〕を披露していません(実際は〔白魔〕との複合魔法として使用していますが)。そしてサリアの〔白魔〕は、通常のそれより遥かに範囲が広い(一軍を丸々包める)ものの、単位面積当たりの冷却力は弱い、一種のデバフ効果(コートを羽織れば対抗出来る程度)の魔法としか評価されていません。
・ 旧ハティス時代(第一章)のゴブリン討伐戦で、冒険者ギルドはアレクに平謝りしました。けどこれは、アレクが生還し、且つ小鬼領主を討ち取ったうえで情報を持ち帰った(つまり、依頼は完全に達成していた)からなのです。当時の一件でも、もし情報の一欠片も持ち帰ることなく逃げ帰ってきたのなら、ただ依頼失敗と処理されて、ペナルティが課せられたでしょう。
・ 本来は、後始末の為に出撃した【緋色の刃】への報酬も【造反者】が負担すべき負債です。が、これは飛竜の情報提供の報酬と相殺、という名目で請求していません。




