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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第11話 宝剣

第02節 飛竜事件〔7/7〕

◇◆◇ ◇◆◇


 あたしが見ているこの情景。これは一体何なんだ?


 天空の王者と呼ばれる飛竜(ワイバーン)より(たく)みに空を舞う(キャット)獣人(ピープル)の女と、ワイバーンを見下ろす高さから見たことも無い魔法でワイバーンたちを撃ち(たたき)落す、普人族(ヒューマン)の男。


 まるで何かの夢のようだ(瑞夢(ずいむ)か悪夢かは知らないけど)。


「あまり気にしない方が良いわよ。あの二人、色々変だから」


 あたし(と森妖精(エルフ)の男)を護衛する、大楯を持った女性(サリア)が笑っている。


「『色々変』、ね。この森に来てから、ネオハティスの町に来てから、何もかもが変だったわ」

「それはそうでしょう。だってこの森は、ボルド評議会とビジア領主に認められた、(アディ)の土地だから。

 変な男が作った町なら、変な町になるでしょう?」


 と、呑気(のんき)に話をしていたら。


 アドルフに翼を撃たれ墜落したワイバーンのうちの1頭が、あたりにその血を()き散らしながらもこちらに向かって口を開く。火炎吐息(ブレス)の前兆だ。


「させない!」


 サリアはそう(さけ)ぶと、虚空から大量の水を生み出した。……無詠唱(えいしょう)だけど、これは水属性魔法〔(ウォーター)蛇竜(・ドラゴン)〕? それにしても、なんて発動速度。それになんて規模。


 サリアの〔水蛇竜〕は撃ち出されたワイバーンのブレスと正面から激突。

 と、同時に周囲が霧に包まれた。

 その数瞬後に押し寄せてくる、衝撃波。けどそれもサリアの大楯に阻まれた。その余波が髪を(もてあそ)び、それを押さえながらあたしは、サリアがワイバーンのブレスを(しの)ぎ切ったことを理解した。


 あとで聞いた話だけど。

 サリアは〔水蛇竜〕をブレスにぶつけると同時に、〔水蛇竜〕を構成する水を(〔氷結(フロスト)(フィールド)〕という魔法を使い)強制的に蒸発させたのだという。それに(ともな)いブレスの熱は根こそぎ奪われ、ただの息吹(いぶき)になり果てたのだとか。

 説明を聞いても良くわからないけど、一つはっきりわかったこともある。


 ヒトの身でワイバーンのブレスを正面から相殺(そうさい)出来る、この女性(サリア)も絶対変だ。


◇◆◇ ◇◆◇


「カレン、受け取れ!」


 と、上空のアドルフが、鞘に入った一振りの剣を投げ落としてきた。

 あたしには、その剣の(つか)(さや)(ほどこ)された装飾に、見覚えがある。

 剣を鞘から抜くと、幼い日に憧れた、()緋色(ヒイロ)の刃が見て取れた。


 ……あたしは、この剣に見惚(みほ)れ、この剣を振るう日を夢に見て、剣を学び始めたんだ。


「カレン、(いや)シーナ(・・・)王女(・・)

 目の前のワイバーンは、この群れの(おさ)だ。

 アンタと、フェルマールの宝剣『ゴルディアス』で、この事件の幕を引け」


 父王(とうさま)に認められ、国宝たる剣を下賜(かし)されたにもかかわらず、敵に寝返り国が滅びる一因となった、『剣聖』エドワード・マーシャル騎士爵。彼が離反したことにより永遠に失われた(はず)の宝剣が、ここにある。


 万感の想いを胸に、あたしは『ゴルディアス』をワイバーンの首に振り下ろした。


◇◆◇ ◆◇◆


 ……(いや)、あの場合は刺突(つき)だろう、J(じょうしきで)K(かんがえて)

 その図体を考えれば、切断することが出来ないんだから、より深く刃を沈めることを考えないと。


 と思っていたら、ちょうどシーナ王女(カレン)からは見えない角度で、シェイラがワイバーンに(とど)めを刺していた。


 そして(しばら)くして残心(ざんしん)(ということにしておこう。途方に暮れていた、と言ったら残念過ぎるから)を済ませ、カレンはこちらに歩いてきた。


「これ、有り難う。

 でも、これ――」

「あぁ、それは『賢人戦争』での鹵獲(ろかく)品。

 そのうちムートが成長したら渡そうと思っていたけど、良ければアンタにやるよ」


「待って。

 ちょっと待って。色々聞きたいこともあるから」

「良いよ。けどここじゃ何だから。

 こいつら(ワイバーン)片付けてから、町に帰ろう。

 スノー、……ルシルもそろそろ仕事が終わった頃だろうし、ムートとロッテも待ってるからな」


◇◆◇ ◇◆◇


 一体全体、何が何だか。

 というか、ルシル姉さまも、ムートも、ロッテも、(ネオハティス)にいるってこと?

  抑々(そもそも)、この男は一体何者? どう考えてもただの銀札(Bランク)冒険者とは思えない。


 サリアはこの男がネオハティスの町を作ったと言っていた。

 けどこの町は、難民となったハティスの民が、新たな生活の場として開拓している町でしょう?


 一方的にワイバーンを(ほふ)るその戦闘力といい、フェルマールの国宝たる宝剣を気軽に放るその振る舞いといい、それ以前にこんなワイバーンの巨体を次から次へと〔インベントリー〕の魔法で収納していくその()(よう)といい、訳がわからない。


◇◆◇ ◇◆◇


 「町に帰ろう」。アドルフという男はそう言ったが、しかし間もなく日没(というか、随分(ずいぶん)日が西に傾いていた時間に開戦した筈なのに、日没までに決着が付いたという事実がもう、ね)でありまた急激に気温が下がってきたこともあり、少し歩いてすぐに野営の準備に取り掛かった。


「ねえ、サリア。結局あの男って、一体何者なの?」

「初対面から問答無用で呼び捨てする、そのことに違和感を覚えないアンタのお姫様根性に一言言いたいけれど、今は取り敢えずどうでも良いわ。


 アディが何者か、ね。

 あいつ、結構色々な肩書(かたがき)を持っているから。


 『(カンタレラ)戦争』直前に、マキアの(くわだ)てを見抜き、また敵国スイザリアの物資を接収してフェルマールの軍に提供した、ハティスの冒険者・アレク。

 ビジアの賢者姫の師匠にして、その義兄(あに)

 『賢人戦争』で、フェルマール最強を(うた)われた『剣聖』エドワード・マーシャル騎士爵を一騎討ちで(たお)した、『剣聖殺し』。

 ボルド市でハティスの民を受け入れた、ボルド評議会の議員でありまた商会【セラの孤児院】の出資者(オーナー)

 ネオハティスの町の出資者(スポンサー)で、今またその財力一つでメーダラ領とボルド市の戦争に介入している、【ラザーランド商会】の会頭。


 けど、アンタの納得出来る肩書を言えば、こうかな?


 ムート王子・ロッテ王女の保護者で、ルシル王女の守護騎士、アレクサンドル・セレストグロウン騎士爵。


 それがアイツのもう一つの名前よ」


 ルシル姉さまを守る、『フェルマール最後の守護騎士』アレクサンドル・セレストグロウン騎士爵。

 それは、あたしたち【造反者(レベリオン)】が捜していた騎士の名。

 その男に、あたしはこの町(ネオハティス)で既に出会っていたんだ。

(2,815文字⇒2,407文字:2016/05/24初稿 2017/06/01投稿予約 2017/07/08 03:00掲載 2022/06/03誤字修正)

・ ドラゴンのブレスは、(第三章第33話で語りましたが)「高熱を帯び、燃焼の概念を持つ魔力」です。が、サリアの〔氷結圏〕でその『熱』を奪われ、また『燃焼の概念』も物質の引火温度以下まで冷却されたことで効果を発揮することが出来ず、結果その定義そのものを相殺されたのです。

・ サリアは最近〔氷結圏〕の魔法の為に、〔アイテムボックス〕(ランドセル)に大量の水をストックしています(『賢人戦争』では雨を待たなきゃならなかったことの反省で)。つまり、正確には大気中の水蒸気を凝縮して生み出す〔水蛇竜〕の魔法ではありません(一種の奇術?)。それはともかく、それにより生み出した〔水蛇竜〕とブレスの激突による自然蒸発分と、〔氷結圏〕による強制蒸発分で一気に周辺の温度が下がったことで、蒸発した水分もすぐに水になり、即ち霧になったのです。なお〔氷結圏〕の魔法は霧にも作用しますから、更に温度は低下します。

・ 例えば、HP数千の敵を相手に残りHP 10まで削った挙句、ラストアタックをカレンに任せたら、8しかダメージを入れられなかったような残念さ。

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