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転生者は魔法学者!?  作者: 藤原 高彬
第七章:「建国の師父は人文学者!?」
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第07話 遭遇

第02節 飛竜事件〔3/7〕

◆◇◆ ◇◆◇


 この日の明け方。

 星が天を横切り、轟音(ごうおん)と共に東の空に落ちた。


 東の空は(あか)く染まり、(あたか)も太陽が二つ昇ったかのようだったという。


◇◆◇ ◇◆◇


「ねぇ今朝の星、見た?」

「幸か不幸か寝心地が良すぎて眠れなくてな、かなり早く目醒めたから、よく見えた。

 つぅかあの音で起きないのは、うちのケインくらいだろう」

「確かに俺は寝起き最悪ですけどね。こんな分不相応としか思えない寝台じゃぁ熟睡出来ませんよ。もっとも、その音で目を醒まして、何が起きたのか知ったのは食堂(ここ)に来てからですけどね」


 食堂で。

 白パン(あり得ないくらいに柔らかい)に蜂蜜ハチミツ魔蜂(キラービー)の蜜だという……)を塗り、ベーコンエッグ(魔鶏(コカトリス)の卵と魔猪(ボア)燻製(ベーコン)で作っているそうな)と牛乳(ミルク)牝魔牛(カウ)の乳……もうどうでも良い)と香茶(こうちゃ)(これだけは普通だ、と思ったら、(わず)かだが疲労回復の魔力を帯びているのだという)とデザートにオレンジ(これこそ普通の果物だけど、こんな北の果てで普通に食べられるのが信じられない)で朝食を採りながら、早朝の事件を話題にしていた。


 それにしては、町の人たちは全く動じていないのが不思議だけど。


◇◆◇ ◇◆◇


「ええ、その手の騒動を起こすのは、いつも決まっているんです。

 その人が仕事でロージス地方に向かったと聞いていますから、さもありなん、というのが市民に共通する感想ですね」


 ……何よそれ?

 冒険者ギルドの受付嬢が、庭の花壇で花が咲いたというレベルで星が落ちた話をするって、どういうこと?

 というか、古来『星が落ちる』っていうのは、神話でも伝説でも、神の怒りに(さら)されたっていうレベルの話の(はず)。日常会話でもなければ笑い話でもないでしょうに。


 と、もやもやしたものを抱えていたら。


「ギルドマスター。護衛の冒険者たちっていうのは、その人たちですか?」

「ええそうよ。ボルドの銅札(Cランク)旅団(パーティ)造反者(レベリオン)】の方々です。

 皆さん、皆さんが護衛する測量士(サーベイヤー)の方々です。これから6日間、騒動(トラブル)が起きないように仲良くしてくださいね」


 ……ただの受付嬢だと思ったら、ギルドマスターだった件について。


「あ、ごめんなさい。私ネオハティスの冒険者ギルドのギルドマスターをしております、オードリーといいます。今更ですけど、よろしくね」


 そろそろ驚き疲れた。確かにこの町は、「色々変」だわ。


◇◆◇ ◇◆◇


 測量士たちとあたしたち【造反者(レベリオン)】はお互いに自己紹介をした後で、早速現場に向かうことになった。

 道中測量士から聞いた話は、新鮮でありまた「色々変」なことばかりでもあったのだが。


 あたしが昔聞いた、『不帰(かえらず)の森』の逸話(エピソード)の一つに、こんなのがあった。

 森に入って迷うというのなら、迷わないように(しるし)を付ければ良い。

 そう考えたある冒険者の一行が、樹の横を通り過ぎる(たび)に樹に傷を刻んだのだという。

 そして一日が経過し、さて野営をしようというタイミングで、何かの気配を感じて後ろを振り向いたら、つい先程まで無かった(はず)の樹がそこに屹立し(そびえたっ)ていた。

 しかもその樹には、彼らが刻んだ傷が、それも三つもあったのだという。

 二つ目の傷を刻んだときに気付け、と言いたいが、実はこの樹は樹妖(ドライアド)で、彼らと一緒に動いていたようだ。

 この時点で傷が(しるし)として役に立たないことを悟った彼らは、大慌てで森を出るべく走ったのだという。しかし夜闇の中走った所為(せい)で(当然のことながら)方角を見失い、森を出るのに五日掛かったという。それでも、まだ森の浅いところだったから無事に脱出出来たのだ、と言われる。


 閑話休題。

 この町の測量士たちは、森の樹ではなく、地面に杭を打ちそれに番号を振ることで、現在地と方角を確認しているのだという。

 それを記録しているから、測量が終わった場所のことはかなり正確にわかるのだという。


 へえ、ふ~ん、ほぅ、と聞いていたら、測量士たちは「ちょっと寄り道をしよう」と森の一角でいきなり歩く方向を変えた。

 歩くこと(しば)し。森が開けたと思ったら、そこには小さいながらも清浄な雰囲気の泉があった。


「この泉の水は飲めますよ。ただどうやら数少ない湧水(わきみず)らしく、この泉周辺では魔獣たちは争うことがありません。だから私たちも、この泉周辺は魔獣討伐禁止ポイントに設定しています。

 ちなみに、泉の(ほとり)には水晶花の群生があります。少しでしたら採取しても構いませんよ?」


 ……森の中で、一株見つかれば珍しいといわれる水晶花が群生している。成程(なるほど)、サラダに供することが出来るくらい採取出来る訳だ。

 そして、森を知っているからこそ、測量士たちは迷わずこの泉に来れる。もしかしたらそれこそ他の群生地も知っているのかもしれない。


「ええ、幾つかの群生地(コロニー)を知っています。

 だから、本来ならこの町での薬草採取系の依頼(クエスト)は、文字通りただの御遣いクエストなんです。だけどそれじゃぁ冒険者たちの経験にならない、ということで、群生地の所在は()されたままそのクエストが発注されるのです。

 どういう場所でどういう花が見つかるのか。それを知れば、この町・この森の外に出た後も役に立ちますからね」


◇◆◇ ◇◆◇


 目的地点に到着するまで、何度か魔獣と遭遇した。

 流石(さすが)に「最低レベルが妖狐(フォックス)」、というのは大げさだが、一角兎(ホーンラビット)から魔羆(マッドグリズリー)まで、多様の魔獣が現れた(なお魔羆と戦うのは愚者のすることだから、息を潜めて通り過ぎるのを待つことにした)。


 そして目的地点に着くと、測量士たちは(しるし)のついた棒や覗き窓のついた棒を立て、何やらやった挙句、一方に(しるし)のついた棒を大地に打ち付けた。そしてまた別の場所に棒を立て、以下同文。はっきり言って、何をやっているのかはわからない。

 が、その彼らの作業中に外敵の脅威から守るのが、依頼の内容だ。あたしたちは彼らの邪魔にならないように、周囲を警戒することにした。


 そして一日が過ぎ、二日が過ぎ、三日目。

 あまり脅威になりそうな魔獣は出現せず(だからそんなに苦労せずかなりの数の弱小魔獣を狩り、良い稼ぎになったと内心ほくそ笑んでいた)、このまま残りの日数が過ぎたら本当に美味しいクエストだな、と、(わず)かながら気を緩めていた。


 けど、気を引き締めていても緩めても、大した違いはなかったのかもしれない。


 東の樹上に飛竜(ワイバーン)が姿を現したのだから。

(2,793文字:2016/05/23初稿 2017/05/01投稿予約 2017/06/30 03:00掲載予定)

・ 町の人の会話:「ねえねえ今朝星が落ちたの、見た?」「ええ。凄かったわね。落ちたのはロージス地方かな?」「そのあたりよね」「……そういえば、アレク君って今――」「アレクじゃなくてアドルフ、でしょ?」「ああそうだった。それはともかく、彼、今、ロージスに出張中、って話じゃなかった?」「そう、聞いてる、……わ」「……」「……」「さて、朝食の準備しなくちゃ」「私も鶏舎から卵を取ってこよう」<こんなもんです。

 ついでに、ビジア領主夫妻(諸般の事情により、現在寝所を分けている)の会話:「ミリア、今日は起きるのが随分遅かったな」「はい、ちょっと昔を思い出していて」「昔? いやそれより、大変なことが起きているようだ。すぐにロージスに調査団を――」「必要ありませんわ。おにぃちゃんが遊んだだけですから」「……遊んだ?」「子供の頃はもう少しおとなしかったのですけど、おにぃちゃんも大きくなって、遊びも派手になったんですね」「……そういう話なのか?」「ところで今日の朝食は何ですか?」<訓練された旧ハティスの民は、皆こんなもんです。

・ ちなみに、前回の星の落下時。時系列を追ってハティス市民の様子を見ると。

 “いつまでも消えない”流れ星を観測する⇒シェイラの帰還⇒旅商人から、モビレアに星が落ちた事件を聞く⇒アレクの帰還⇒(情報が交錯し)星が落ちて混乱したモビレア市でアレクが物資を調達したと噂される⇒アレク出征⇒流言は修正されたが、同時に当時アレクはモビレア市に居たことが確認される⇒星の落下とアレクに何らかの関係があるのでは? と(まこと)しやかに語られる:で、今回の事件に遭遇して、「あぁそういうことか」、という感想になるのです。

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