第06話 「開拓村」というモノは
第02節 飛竜事件〔2/7〕
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あたしは銅札冒険者のカレン。仕事を求めてネオハティスと呼ばれる開拓村に来ていた。
「あとは、そうですね。日数はかかりますけど、測量士の護衛依頼はお勧めかもしれませんね」
見た目嫋やかな、けれどこの魔界村の冒険者ギルドで受付嬢をしているだけあってなかなかに強かなこの女性は、他のクエストの紹介もしてきた。
「測量士、ってのは何だ?」
「この森を迷宮と看做すなら、攻略するのに地図士が必要でしょう?
森を攻略するマッパーを、この町では『測量士』と呼んでいます。
この町の測量士は、一切の魔法を使わずに『不帰の森』を踏破して、その奥にある森妖精の集落に、それも何度でも行き来することが出来るんですよ?」
リーダーの疑問(あたしも知りたかった)に、受付嬢が笑顔のままで答えたけど、
……あり得るの?
確かに、『不帰の森』のエルフの集落に足を踏み入れたことのある冒険者は、何人か確認されているわ。その全員が歴史に名を残すような、偉大な冒険者たちよ。
けど、その彼らでさえ集落を再訪することは出来なかったと聞いてる。
エルフ以外は、再び集落に帰ることが無い。だからこそ『不帰の森』という名称が与えられているのに。
そこに、嵩がマッパーが、何度でも?
「勿論護衛は必要ですけどね。
その護衛任務は、拘束期間こそ長いですけど、実入りも良いし様々な副産物――魔獣や魔石や魔力を宿した薬草など――も手に入ると、結構人気あるんですよ?」
そのクエストに興味を惹かれ、あたしたちは測量士の護衛をすることにしたの。
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「あぁ最後にもう一つ」
ギルドを出ようとしたら、受付嬢が声をかけてきた。
「この町では、『イェン』という通貨で取引されています。
フェルマール金貨も使えますが、フェルマール金貨を使うと『奴は余所者だ』とまで言われますので、イェンに両替しておいた方が良いですよ。
手数料無しで換金出来ますから」
「その『イェン金貨』? ってのは、どんなんだい?」
「金貨ではありません。これが10,000イェン紙幣です。フェルマール金貨一枚と同じ価値があります」
「紙? そんなモノ、誰でも偽造出来るんじゃないか?」
「ふふっ、そう仰ると思いまして、用意してあります。
こちらが偽造イェン紙幣です。区別が付きますか?」
「否、全くわからない」
「そうでございましょう。これは真札と同じ場所で造られた、公認の偽造紙幣ですから。
それではご覧ください。
『いあ! いあ! しょごす ふたぐん』」
受付嬢が呪文を唱えると、真札は不思議な紋様の光を発した。
「真札は、このように呪文を唱えると紋様を浮かび上がらせます。
この呪文はこの町の住民なら子供でも知っていますので、偽札を掴まされる心配はございません」
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フェルマール金貨をイェン紙幣に両替し、そしてついでに受付嬢に場所を聞き宿屋を目指した。
この町唯一の宿屋。
しかし実態は宿屋ではなく、この村に入植する際一時的に住民が入居した仮設住宅だったのだという。まだ住民全員が家を持っている訳ではなく、また来訪者に対する宿場も用意出来ていないから、空いた部屋を宿代わりに使用しているのだそう。
が、何? これは。
ランプではなく、火属性の魔法でもない。熱も無く、揺らぎも無く、ただ眩いばかりに輝く照明。
綺麗に磨かれた鏡と、清潔な寝具。部屋の隅々まで埃の欠片も無い。
捻るだけで水が出る上水と、水の勢いで汚物を流す厠。
続き部屋になっている、大量の湯を湛えた風呂と、城で使っていたものより遥かに香りが良く汚れも落ちる、石鹸。
これが、その場凌ぎで宿屋に改装した建物の、設備?
あたしたちは、王侯貴族を歓待する貴賓室を求めたつもりはないわ。最底辺の、とは言えないけれど、一般的な冒険者なら誰でも入れる程度の部屋で良いと言った筈よ。
それとも。何らかの形であたしたちの素性が知られ、気を利かせてこんな部屋を用意したというのかしら? だとしたら余計なお世話ね。
これは一言言わなければ、と思って部屋を出たら、リーダーたちとも遭遇した。皆同じことを考えていたみたい。
で、階下に降りて女給の一人を捕まえると。
「申し訳ありません。何か粗相が御座いましたか?
何分開拓村、それも仮設で造った建物でありますので、行き届かないところが多々あるかと存じますが、仰ってくだされば早急に手配させていただきますので」
「否そうじゃなく。
俺たちは貴賓室を希望したつもりはない。正直そんな金もないしな。
もうちょっと普通の部屋で構わないんだが、変えてもらえないだろうか?」
「えっ? えっと、その……
申し訳ありませんが、あの部屋以下となりますと、あとは軒先か道端で横になってもらうことになりますが。
確かに私たちが難民であった時代から見るとあの部屋でも夢のような心地ではありますが、今では孤児たちでも同じ程度の部屋を持っておりますから」
色々待て。
あの部屋が最低レベルだっていうんなら、最高レベルの部屋はどんなん?
というか、一国の王女が住んでいた城より快適な環境が、この村の最低レベル?
あぁもう! どこからツッコんだら良いのかわからないじゃないの。
取り敢えず色々諦めて、部屋に戻って気持ちを落ち着けることにする(ソファもベッドもふかふか。流石にベッドは城の自分の寝台の方が柔らかかったが)。
……落ち着けるか! 寧ろどんどん不安になるわ。
という訳で、さっさと食事にして、酒でも飲んで酔っ払って寝てしまおう、と食堂に出てきたら。
御品書きが出てきて好きなものを選べるのだという。
あたしたち【造反者】のメンバーは普通に読み書き出来るけど、読める人の方が少ないんじゃないの?
しかも、メニューの中身も色々酷い。
『魔猪の煮込み』とか、『牡魔牛のステーキ』とか、『魔鶏の香草焼き』とか、魔獣食材がずらりと並んでる。……日常の食材という言葉に嘘はない、ということみたい。『精霊草と水晶花の茎のサラダ』って、どちらも体力回復とか状態異常回復とかの魔法薬の素材としてかなりの値段で取引される薬草なんですが。そのままサラダに、って、この町の人間は一体何を考えているの? こんなものが余所でこんな値段で提供されたら、暴動が起こるわよ。
そう思いながらも、『魔猪の煮込み』と『精霊草と水晶花の茎のサラダ』のセット(単品で注文するより安いうえに、白パンまでついてくる。しかもパンはおかわり自由ときた)と、酒はブッシュミルズを注文した。どれもこれも、戦前の優雅な(と思っていた)生活が虚しくなるほど、美味しかった。
(2,988文字:2016/05/21初稿 2017/05/01投稿予約 2017/06/28 03:00掲載予定)
【注:「魔界村」は株式会社カプコンの登録商標です。
©CAPCOM CO., LTD. 1986, 2013 ALL RIGHTS RESERVED. 】
・ もうおわかりの事かと思いますが、カレンさんはどこぞの雪娘姫の妹さんです。一人逞しく、冒険者になって生活していました。戦前(学園時代)には彼氏がいた筈ですが、どうやら戦乱のごたごたで逃げられたようですね。
・ 【造反者】は、基本対人戦メインのパーティです(魔獣や魔物との戦闘をしない訳ではありませんが)。その為、迷宮の攻略はしておらず、結果照明石(仮)を見たことはありません。
・ この町、これでもまだ自重してるんですよ? 水回りとか、お掃除とか、変なチートに頼ってませんから(照明はこの町ではどこにでもあるありふれたモノ。「チリ一つない」のは従業員さんの技量)。あ、でも料理は調理済みの物を〔アイテムボックス〕で保存していますので、いつでも出来立てを提供出来ます。廃棄の少ない、世界に優しい飲食店経営です。
・ 照明石は、そのままでは明るすぎるので、豚革の薄皮で減光させています。
・ 「コカトリス」は、「チートスキルは売り切れだった (仮題)」(n7671do)第440部分によりますと、どうもマングースさんが原典だったようです? けど本作品では和風ファンタジーの常識に則り、鳥の魔物、それも鶏の魔物化したものとして登場しています。みたいな?
・ 言うまでもありませんが、イェン紙幣の真贋鑑定の為の呪文は、リリスとアディの悪趣味なジョークです。流石にサリアは頭を抱えました。




