第05話 来訪者
第02節 飛竜事件〔1/7〕
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カレンは、銅札の女冒険者である。
旅団【造反者】に所属している、前衛攻撃手だ。
【造反者】は、リーフ王国、カナリア公国、スイザリア=リングダッド二重王国の三(四)ヶ国と、彼のフェルマール戦争に於いて王家に叛き敵国に通じた貴族領地に対し、恨み憎しみを持っている冒険者によって組織されている。誰もお互い過去を問わないが、皆貴族か豪商、騎士か兵士の家系だったのだろう。カレンもそうである。
だから冒険者としての依頼に於いても、それらの国々の民や旧フェルマール王都フェルマリアの市民であれば、微罪でも容赦なく殺戮したし、そうでなければ大悪人であってもなるべく殺さず法に照らすことにしていた。
彼らは、基本的にローズヴェルト公国の公都ローゼラントの冒険者ギルドに籍を置き、公国内で活動をしていた。
そんな折、メーダラ領(王国を名乗ったが、公国内でそれを真に受ける者は殆どいなかった)とボルド市の間で遠からず戦端が開かれそうだ、という噂が聞こえてきた。
当初は(フェルマール戦争時の)中立領同士の争いなのだから相手にする必要は無い、と無視をしていた。しかしその後、その直前に終結したアプアラ領によるビジア領侵攻時に、ボルド市で徴募された冒険者が傭兵としてビジア領の防衛戦に参加していたという話を聞いたのだ。
アプアラ領は、赦すことの出来ない大逆の領地である。そのアプアラの敵であるビジアは、中立領であっても敵の敵だから味方と解釈出来る。そのビジアの味方であるボルド市は。そしてボルド市と敵対するメーダラ領は。
更に、今回のメーダラ領がボルド市の戦争に於いて口実として利用されようとしているのは、旧ベルナンド辺境伯領の街ハティスの住民たち。彼の『毒戦争』に於いて、全軍を支える補給を担った街の住民たちである。加えて、ボルド市側でハティス市民の受け入れを表明した商会【セラの孤児院】は、フェルマールの最後の守護騎士と謂われるアレクサンドル・セレストグロウン騎士爵が出資していることも、有名な話だ。
現在セレストグロウン騎士爵は、彼が守護する王女ルシル姫とともに行方不明とのことだが、もしかしたら。
【造反者】がボルドの冒険者ギルドに転籍を希望したのは、だから当然のことでもあった。
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【造反者】がボルドに来てから、しかし戦争の気配は全く見えなかった。そしてルシル王女はおろかセレストグロウン騎士爵の影さえ見ることは出来なかった。
ちなみにこの頃、某王女と某騎士爵はほぼ毎日難民村で忙しく働いており、冒険者稼業は事実上開店休業状態だったので、ボルドの冒険者ギルドとその周辺で聞き込みをしても、掠る筈もないのだが、当時彼らはそんなことは知らなかったのである。
そうこうしているうちに年が明け、難民たちは開拓地に入植を始めた。
開拓地には、冒険者の仕事がある。これは冒険者にとって常識である。
その一方で、開拓村は貧乏なので、満足のゆく報酬を受け取れないかもしれない。これもまた常識だ。
しかし、開拓村とボルド市は、そんなに離れていない。なら観光がてら開拓村に行き、仕事が無かったり報酬が割に合わなかったりしたら帰ってくれば良い。そう考え、ボルドのギルドに出向願を出し、ボルド河を渡ることにしたのであった。
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開拓村『ネオハティス』。
入植が始まったばかりだというから当然かもしれないけど、多くの建物は建設中のよう。そして、冒険者ギルドが入居している建物も、如何にも「仮設建築」というべき簡易なものだったわ。
「いらっしゃい。見ない顔ですね。
転籍ですか? それとも出向?」
あたしたちがギルドに足を踏み入れると、すぐに受付嬢(見た目は若々しいけど、実際は随分年嵩のようだ)が声をかけてきた。
「取り敢えず出向です。
居心地が良くて稼ぎも好ければ転籍させてもらうかもしれませんが」
「この町は色々変ですから、合わない人にはとことん合わないと思いますけど、気に入ってくださればとても居心地の良い町だと思います。是非長居してくださいね」
うちのリーダーの毒を隠した言葉を、受付嬢は笑顔で流した。
若く見えるけど、数年の難民生活を経てここに辿り着いたことを考えると、見た目通りの嫋やかな女性という訳ではないのでしょうけど、言うに事欠いて「色々変」とは何事よ?
「で、俺たちが請けられる依頼にどんなのがある?
余所の町の常識が通用しそうにないから、助言してくれると助かるんだが」
リーダーの牽制。
冒険者がギルドで受けられる依頼に、それほど大きな地域差はないわ。敢えて言えば迷宮の門前町が特殊だという程度。だから「常識が通用しそうにない」というのは、あくまで受付嬢に合わせているだけでしょう。
「そうですね。銅札の冒険者に雑用系というのもどうかと思いますが、かといってこの町では採取系や討伐系も銅札のクエストになりますので、危険と報酬の兼ね合いから効率の良いのは、……農園周辺の害獣討伐、でしょうか?」
「この町では、銅札の冒険者にキツネ狩りをさせるつもりか?」
「キツネなら可愛いんですけどね。
そのクラスなら妖狐、他に魔牛の変異種の出現も確認されています。魔猪クラスは既に日常の食材ですよ?」
まて。
色々待て。
最低が妖狐で、魔猪クラスは日常の食材?
どこの魔界なのよ、ここは?
「この町のすぐ西側に、『不帰の森』と呼ばれるダンジョンがあります。
昔から、何処からが『不帰の森』なのかわからないという話もあったのですが、この町に住む高名な学者先生は、この森全体が一つのダンジョンで、寧ろ『不帰の森』はその一部に過ぎないんじゃないか、っていう説を唱えています。
それが正しいのかどうかは知りませんが、ここの森では普通の野獣より魔獣の方が遥かに多いんです。
よって、木札の討伐依頼というモノは、この町にはありません。
町の外での活動それ自体が、ダンジョン内での活動に準じ、銅札相当と看做されるんです。
鉄札の依頼となると、治安維持関係かボルド河の浚渫関係と、あまりお勧め出来るクエストはありませんね」
……冗談ではなく、ここは魔界か何かだったみたい。
(2,481文字《2020年07月以降の文字数カウントルールで再カウント》:2016/05/21初稿 2017/05/01投稿予約 2017/06/26 03:00掲載 2021/02/23脱字修正)
【注:「どこの魔界なのよ、ここは?」という台詞は、〔佐島勤著『魔法科高校の劣等生4 九校戦編〈下〉』アスキー・メディアワークス電撃文庫〕の登場人物の台詞を原典としています】
・ 「人を内心年増呼ばわりした小娘、後でシメる」(ネオハティス町のギルドマスター氏、談)
・ 「『高名な学者先生』って、俺が学者を名乗っているのは自称だし、吹聴してまわった覚えはないんだけどね」(某「魔法学者」――現在所用で出張中――、談)




