第24話 ローズヴェルト公国
第05節 小麦戦争 Round-2〔2/6〕
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この世界で、国家は『王』が治めるのが基本である。
勿論、王の上に立つ『皇帝』もあるし、宗教国家では『教皇』が王を兼ね、都市国家では『市長』が王を兼ねる。王を立てずに市民の合議で国家を運営する共和国の場合、『首相』が王の代わりとなる。
しかし、公国。この国家形態だけは、少々特殊なのである。
カナン暦704年現在、公国を称する国家は2つ存在する。
一つはカナリア公国。
もう一つはローズヴェルト公国だ。
公国は、「既に亡んだ」王国(帝国)の王家(皇家)を宗主とし、旧主に代わり国を再興することを目的とする国家であると宣言しているのだ。
カナリア公国の国是は、カナン帝国の旧領回復。それゆえ事あるごとに近隣諸国に戦争を仕掛けている。
そして、ローズヴェルトも公国を称した。
ローズヴェルト伯がフェルマールの譜代の家臣であり、王家に忠実であったことは国の内外を問わず広く知られている。
つまり、『公国』を名乗ったということは、現在消息不明のムート王子を担いでフェルマールを再興させる、という意思表示に他ならないのである。
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ローズヴェルト公国の調略。
この任務の為に、ルビーは派遣された。
「まさか、シルヴィア。お前が生きて戻って来たとはな。
だが、ボルドからの使節を名乗るのは何故だ?」
「文字通りボルド市、より厳密にはボルド市とビジア伯領の同盟の使節として、ローズヴェルト公王陛下にお目通りを願っているからです」
「……メーダラ領を包囲する為の同盟か。だが何故わざわざそんなモノに協力しなければならない? 我がローズヴェルトとしては、メーダラ、ボルド、ビジアの三領が相争い疲弊したところを待って、陛下の名の下に調停すれば、一石二鳥、否三鳥ではないか」
「そしてローズヴェルトの名で旧フェルマールを再統一し、ムート王子を捜し出して傀儡に仕立て上げるという訳ですか」
「言葉を慎め、シルヴィア。抑々お前が健在だということは、ルシル王女もまた無事だということか? ならすぐにでもお招きしろ。
王女殿下は今ボルドに身を寄せておられるのか? だがローズヴェルトの方が気候は穏やかだし、戦乱の危険も遠い。殿下にとってはこちらの方が安全だろう」
「殿下は王国を再興するおつもりはありません」
「何を言うか。王女殿下が立たないで、一体誰が立つというのだ?」
「殿下は以前、こう仰っておりました。
『敵である諸外国に侮られ、味方である貴族たちに見放され、剰え守るべき民に刃を向けられた。その時点で、フェルマールという王国は存続する理由を喪った』と。
その上で、一体誰の為に至尊の冠を戴けというのですか?」
「だからこそ、だ。王国を侮った諸国を攻め滅ぼし、王家を裏切った諸侯を誅し、そして陛下を害し奉った平民どもに報いを与え、今一度王権を立て直すべきだろう」
「誰の為に? 殿下はそれを望んでいない。望んでいるのは貴方だ、父上!」
「シルヴィア。お前も殿下にお仕えする騎士ならば、殿下を説得するべきではないのか?」
「今一度繰り返します。誰の為に?
父上の栄耀栄華の為に殿下を利用するというのであれば、その方が遥かに不敬でしょう?」
「わ……私の独り善がりだと言いたいのか、お前は!」
「再三問いましょう。誰の為に?
殿下が望んでいないことをさせようというのなら、それは当然誰かの為でしょう?」
「当然、フェルマール王国それ自体の為だ!」
「では父上の考える王国とは、一体何ですか?
国土ですか? しかし人間が敷く国境線に、大地は何ら意味を見出さないでしょう。
民ですか? しかし王家を排すると決めたのはその民です。
貴族たちですか? なら王家亡き今、それぞれが王を僭称なされば宜しい。それとも責任を押し付ける相手が必要だというのですか?」
「シルヴィア、お前……。
だが、全ての民が王家を排することを求めた訳ではない。未だに王家の方々の御戻りを心待ちにしている民も多い。ならそれに応えるのが――」
「昨年。難民団がこの領を頼って来られたそうですね」
「いきなり何を言い出すんだ?」
「何故彼らを保護しなかったのです? 今父上が仰ったように民の気持ちを一番に考えるのなら、難民たちだとてフェルマールの国民でしょう?」
「だが、現実にはそれは不可能だった。我が領とて無限の生産力がある訳ではないからな」
「あの難民団に、ムート王子とロッテ王女がいたとしても、ですか?」
「……何だと?」
「事実として、父上は難民たちと共に王族の御二人を見捨てられたのです。
御二人にとっては、離反した貴族たちと父上に、どれだけの違いがあったと思いますか?
一方難民団は、自分たちの食糧にさえ不安を抱えながら、幼い御二人を温かく迎えた。
そしてその難民たちを受け入れたのは、ボルドに籍を置く、ある一人の商人です。
その商人自身にも思惑があった。それは事実です。
けれど、そのおかげで難民たちが救われたのもまた事実なんです。結果的に王族の御二人が、その商人の庇護下に入ったことも。
仮にその商人が、御二人がいることを知ったうえで難民たちを保護したのだとしても、難民たちがその商人に向ける感謝の気持ちに陰りはないでしょう。
父上。父上は既に、知らなかったとはいえ王族の方々を直截見捨てておられるのです。
今更フェルマール王家を立てるような言葉を口にしても、見苦しいだけではありませんか? 少なくともルシル王女やムート王子、ロッテ王女は父上の言葉に絆されたりはしないでしょう。
けれど、それでもなお旧フェルマールの忠臣として、最後の御奉公をしたいと思うなら。
生き残った王族の皆様がたが、静かに暮らす手伝いをするという選択肢を選ばれたら如何でしょうか?」
「……私は、既に王子様がたを見捨てていた、というのか……」
その事実は、流石に衝撃的だったようだ。
「だが、何故王家に対する最後の奉公と、ボルドの同盟に参画することが関係する?」
「ルシル王女と私は、今は王族でも貴族でもなく、件の商人の部下として、一平民として暮らしております。ムート王子とロッテ王女も件の商人の下で健やかにお過ごしくださっております。
そして、此度の同盟は、件の商人の個人的な繋がりで結びついているのです」
「……何だと?」
「ビジアの領主夫人は、件の商人の義妹です。そして件の商人が此度の戦争に関与することになったきっかけは、彼の養母が率いる難民団を戦略に組み込んだメーダラへの報復です。
王族三人が頼り、貴方の娘が籍を置く商会に、貸しを作っておくことは、父上にとって損はないのではありませんか?」
(2,936文字:2016/03/20初稿 2017/04/01投稿予約 2017/05/09 03:00掲載予定)
・ ちなみに、カナリア公国の公王家とカナン帝国の皇家の間には、何ら縁戚関係もありません。ただ史上最大の帝国の後継を僭称することで、世界最大の国家となることを夢見ているだけです。地球で例えるのなら、中央アジアの小部族の族長が、「俺はチンギス=ハーンの末裔だから、モンゴル帝国の極大時の領土全てを統べる資格がある!」と言っているようなものかもしれません。
・ シルヴィアは、アディに付き合って『国家とは何か?』ということをさんざ考えさせられている為、ローズヴェルト伯爵(公王)の国家観が納得出来なかったのでしょう。




