第32話 新人狩り
第06節 冒険者という生き方〔4/8〕
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その日もまた、アディとルビー、シェイラ・サリア・スノーという組に分かれて依頼を請けていた。
その日のサリアたちの依頼は、薬草採集であった。
「お嬢ちゃんたち、木札かい? 良かったら近くの薬草の密集地を教えてやるよ」
ギルドを出て数歩、歩いたところで声を掛けられた。見たところ長剣を腰に帯びた銀髪の優男と、弓を持った森妖精、そして短刀を腰に挿した金髪の女の三人だった。
「貴方たちは?」
「俺たちは銅札旅団【森の覇者】のメンバーだ。俺の名前はロラン」
と、優男。
「自分はシータ、この女はヘルダだ」
「ちょっと、この女呼ばわりは止めてくれる?」
続いてエルフが名乗った。
それに伴いサリアたちも名乗る。
「これで晴れて知り合いになれた訳だから、一緒に行こう。良いだろう?」
このロランの言葉にシェイラは、
「どうします? お二人の意見に合わせますよ」
と判断をサリアとスノーに投げ、サリアは
「イベントフラグ進行中と見た。CG回収の為には選択しない訳にはいかないわ」
と答え、スノーは
「私たちが右も左もわからないのは本当のこと。教えてくださるというのなら、素直に頭を下げるべきでしょう」
とこちらも同行の意を示した。これによりシェイラたち三人は、【森の覇者】の三人と合流して都市の外に出ることになった。
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ボルドの北には対岸が見えない程の大きな河が流れており、その河の向こう側が森になっている。その森は『不帰の森』と呼ばれるフィールド型迷宮であり、更にその向こう側に世界最大のダンジョンと謂われる『竜の山』がある。
その大河の南側の河畔を暫く歩いたところで、ロランがぽつりと口を開いた。
「そろそろ、良いかな?」
「そうですね、頃合いです」
応じたのは【森の覇者】の誰でもなく、シェイラであった。
「え――」
「何故この娘が答えるの?」という表情をした金髪女を、シェイラは抜く手も見せずに抜刀した大脇指『白鷺』で縦に二つに両断した。
そして瞬きの間も置かず、森妖精の眉間に苦無を投擲した。
「しぇ、シェイラちゃん、何を――」
「わかっていらっしゃるのでしょう? この者たちが新人狩りだということを」
「それは……」
「わかっていながら、先手を譲るほどの寛大さは持ち合わせておりません」
「ヘルダ! シータ! おのれ、よくも!」
抜剣し、斬りかかってくるロランを躱しながら、シェイラは小脇指『千鳥』をその腹に埋めた。
「サリアさん、よくご覧ください。これが貴女の見たがっていたCGです」
そう言うとともに、ロランの腹に埋まった『千鳥』をそのまま横に振り抜き、『白鷺』でその首を刎ねた。
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「な……なんてことを! あたしはこんなの見たくなかった」
「ですがこれが貴女たちの選んだ結果です。
二人とも、この連中と出会った時にこれが新人狩りだと薄々気付いていた筈です。にもかかわらず、この連中と同行することを選んだ」
「でも、こんなこと望んでなかった!」
「ではどのようなことを望んでいた、と?
都市の壁は、市民を守ります。その対価として、市民は市に税を納めるのです。
逆に言えば、市の外に出るということは、誰も守ってくれないということ。たとえ襲われても誰も助けてくれないし、殺されてもその犯人を捜しません。
だからこそ、この場合の最適解は『関わり合いにならない』ことなんです」
「でも、だからって殺すことはなかったじゃない!」
「彼らは私たちを見て、それなりに身形が整っていることから、貴族崩れとその御付き、と思ったのでしょう。間違いとも言えませんしね。
だから、身包み剥いで一財産、身体を売らせて二財産、飽きたら奴隷商に売ってもう一財産、とでも思っていたのでしょうか。
けど、思わぬ反撃にあった。
彼らが生きて帰ったら、その後どうなると思います?
彼らのやっていたことは、市中やギルドで知られて良いことではありません。市の法が裁かなくとも、ギルドの規定が彼らを裁きます。それを回避するにはどうしたら良いか。
私たちの口を封じるしかないんです。
彼らのパーティは銅札だと言っていましたよね?
だとしたら、他のパーティ・メンバーが私たちの口を封じに来るかもしれません。
或いは彼らはパーティ・メンバーにも秘密で新人狩りをしていたのなら、別の後ろ暗い仲間を率いて口封じに来るかもしれません。
今日この場で、完全な形で決着を付けなければ、この先いつまで続くかわからないんです。
そして、私たちだけならそれでも構わないかもしれません。
けど私たちの家族には、シンディさんやアナさんたちといった、戦う力を持たない人たちがいます。場合によっては彼女らが危険に曝されるかもしれないんです。他ならぬ、私たちの所為で。サリアさん、それは正しいことですか?」
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「シェイラちゃん、貴女の言うことは正しいわ。私たちの考えが甘かった。
けど、それじゃぁどうすれば良かったの?
ううん、“新人狩り”対策は、『関わり合いにならないこと』が正解かもしれない。
けど、本来の依頼内容の薬草採集は? 私たちがこの辺りのことを知らないのは、間違いのない事実なのよ」
「スノーさん、それではこの都市の冒険者たちは、どうやって薬草の最初の一束を手にしたと思いますか?」
「……誰かに聞いた?」
「それも一つの答えです。信頼出来るパーティの先輩。他の一件で知り合った先達の冒険者。もしかしたら、行き擦りの冒険者が親切に教えてくれると言った幸運に巡り合うことが出来たのかもしれません。
つまり、まず信頼出来る相手を見つけるのが先で、運に頼るのはその後でしょう。
スノーさん、貴女は【森の覇者】を信頼に足る相手であると判断する何かがありましたか?」
「……」
「そういうことです。
その他に、ギルドの職員に聞くとか、薬草を扱っている商店の店主に聞くとか、誰かに聞くにしても他の選択肢もあるのです」
「その人たちが嘘を吐かないという保証は?」
「その人たちにとって、私たちのような木札冒険者に嘘を吐いて、何の利益があります?
私が冒険者を始めたばかりの頃、ご主人様は良く仰いました。『相手の立場でモノを考えろ』と。
【森の覇者】の三人は、私たちを騙して得る物がありました。けど、ギルドの職員や商店の店主には、それで得る物など何もないのです。
その限りに於いて、彼らの言葉を信頼することが出来るのです」
なお、シェイラは“自称”博物学者であるアディの弟子である。アディは既にこの周囲の植生を一通り確認し、薬草の群生地と思わしき場所の候補を挙げていたのであった。
(2,982文字:2016/01/31初稿 2017/01/01投稿予約 2017/02/14 03:00掲載予定)
【注:「スチル」「CG」はゲーム用語で、特定のイベントに於いて見ることが出来る画像のことを言います。PCゲームでは、収集した「スチル」は後から観賞することが出来、またその際全体の何%のスチルが解放されたかなどがデータとして表示され、プレーヤーは100%になるまでゲームを繰り返すのです】
・ 本章第10話で語った国家論。図らずともその通りの情景です。王家が平和ボケをしていた(ロランたちを信じた)結果、国民が後始末しなければならなくなった。国民が平和ボケをしていた(リスクを他人事のように思っていた)結果、国家が戦いを強いられた。二人はまず、この意識改革をしなければならないでしょう。
・ そして、今だから言えること。本作のブラバの元凶である、第一章のアレクvs.セマカ。あれは、間違いなくアレクが悪いんです。日本の法律でも正当防衛が成立するでしょうし、この世界の法でも市外の私闘は司法の適用外だから罪に問われることはありませんが、でも冒険者ギルドで絡まれた時に上手く対処出来ていれば、それで終わった話ですから。
なお、プロット的には。アレクの「最初の殺人」は、正当防衛だの大義名分だのが成立しない、「アレクが悪」の形で行わせたかったのです。その結果、アレクはそれ以降の自身の行動に、大義名分を掲げる資格を失いました。「それが正義だから」ではなく、「正邪に関わらずその意志ゆえに」彼はその刃を振り下ろすのです。彼と、彼の薫陶を受けたシェイラは。




