第16話 とある異界の……
第03節 戦後処理〔5/7〕
さて。発電にかかる物理学方程式は、単純に表すと次の通りとなる。
『電力=磁力×運動』。
その内、運動は無属性魔法で作り出せる。つまり、方程式が次のように変わる。
『電力=磁力×魔力』
本来は、どれだけ魔力があっても、それを使って磁力を電力に変換することは出来ない(つまり、ここで示されているような単純方程式ではない、ということだ)。しかし、【磁界誘導】の魔法が完成したことにより、磁力を電力に変換することが可能になる。
手元にある磁石の磁力を、魔力を以て電力に変換(発電)する。
そしてその電力を、もう一度魔力を以て磁力に変換(電磁力生成)する。
これを繰り返すことで、際限なく電力(或いは磁力)を増幅することが可能になる。つまり、方程式はこう変わるのだ。
『魔力=電磁気力』(触媒として磁場を要す)
それでも、単純増幅では変換効率が悪すぎる。だから手持ちの磁石を運動させる。
具体的には、空間に作った仮想回路の内側を紐で繋いだ磁石を振り回すことで、より効率的に魔力を電力に変換するのだ。
それにより、夢の「電気属性」魔法を、実現させることが出来る!
厨二病患者として生を享け、魔法世界に転生したからには、それをしないで何とする?
そういう訳で、俺がこの世界で研究した、電撃魔法の目録とその顛末を以下に記す。
◇◆◇ ◆◇◆
○雷撃…………失敗。
そもそも電気は、導体である回路の中を流れるものであり、回路の存在しない(つまり撃ちっ放しの)電撃などは有り得ない。ましてや敵を貫通し更に一直線に突き抜けるなど、それは既に電撃魔法とは言えない。
○雷撃の槍…………失敗。
大気はかなり優秀な絶縁体である。その大気中を目標に向かって襲い掛かる電気の槍。
それを実現する為には、落雷のような大気を絶縁破壊する程の大電力が必要になる。そしてそれだけの大電力を生み出しても、すぐに大地という導体に流出してしまう。射程80cm程度では、実用価値は無い。寧ろ、ワイヤーを直接繋いで電気を流す、電撃線の方が使える。
○磁力剣………部分的成功。
磁力で砂鉄を剣の形に成型して、または鞭のように自在に形を変えて使用する近接魔法。
事実上成功したが、剣の形を維持するのに想像以上の魔力を必要としまた制御が大変だった。ましてや鞭のように自在に形を変えて、となると、制御だけで手いっぱい。
だが、同じことを別の魔法で代用出来る為、電撃魔法として活用する意味がない。
無属性魔法Lv.2【群体操作】で、砂鉄に限らず砂を剣の形に成型し、無属性魔法Lv.1【物体操作】派生05.〔状態保全〕で固定すれば、同じことが出来る。ただし、これら魔法で作った剣は、普通の金属剣より脆くまた斬れ味も悪い。非武装を前提としている環境での暗殺戦にしか使途は無いが、俺の〔無限収納〕の存在がそれさえ無意味にする。なお、【群体操作】による剣の生成は、派生07.〔砂剣〕として定義しておくことにする。
○雷光…………成功。
神話級魔法。
大地の磁場を誘導し、落雷位置を指定する魔法。
難しくはないが、上空に雷雲が無いと使えない。
無属性魔法Lv.4【気流操作】派生07.〔気候操作〕を成立させたうえで使用する、二段構えの魔法? 魔法を発動させてから効果が発揮されるまで、季節によっては準備に丸一日以上かかりそうだが、季節によっては連発も可能。
○超電磁砲…………失敗。
そもそも、「超電磁砲」と呼びうる電撃魔法手段は、ざっと数えて三つある。
一つは、『電磁斥力場投射砲』。
一つは、『電磁軌道投射砲(リニア・レールガン)』。
一つは、『磁場射出砲(コイルガン/フレミング砲)』。
原理としては、『電磁斥力場投射砲』は同極反発力を利用して弾丸を撃ち出す方法、『電磁軌道投射砲』はリニアモーターカーの原理で弾丸を加速させて放り出す方法、『磁場射出砲』は「フレミングの法則」に基づき生まれる運動力で弾丸を投射する方法である。
彼のアニメの超電磁砲は、描写は『電磁斥力場投射砲』だが、ムックによる解説は『電磁軌道投射砲』のそれ。だからこそ「レールガン」とルビが振られる。
しかし、『電磁軌道投射砲』だと加速距離(ある程度の長さの砲身)が必要になる。また、『電磁斥力場投射砲』だと弾丸を帯磁させ且つ砲身と同極にする必要があり、これは現実的には弾丸を単一磁極粒子化する必要が出てくる。その為どう空想科学的発想を用いても、それを実現することは出来ない。
残るは『磁場射出砲』だが、すくなくとも無属性魔法Lv.1【物体操作】派生02a.〔射出〕以上の威力(弾丸初速)を生み出そうとすると、膨大な電力が必要になる。
結局、磁力剣と同じで電撃魔法に頼る必要は無い、という結論に落ち着いた。
○荷電粒子砲………不可能。
荷電粒子を亜光速まで電磁加速させて射出する魔法。
そもそもその為の加速器を魔法的に生み出すことが出来ない。何故ならば、質量を有する荷電粒子を亜光速まで加速させる(特殊相対性理論に拠れば、速度が光速に限りなく近付けば、質量が実質無限大に限りなく近くなる。その無限大の質量をぶつけるのがこの兵器の効果)為には、事実上無限の加速距離が必要になり、それを現実的なレベルにまで落とし込んでも、直径数kmの加速器の中で数万回周回させて、ようやく光速の90%近くに達することが出来るというのが現実だ。魔法的に途中経過を省略するとしても、個人の携行サイズの加速器をイメージすることは出来ない為、実現可能性は無い。
◇◆◇ ◆◇◆
正しく、実際には使用出来ない『禁呪目録』を作っただけに終わった。
だが、〔砂剣〕や〔気候操作〕そして〔電撃線〕など、有用(或いは活用可能性のある)な魔法を副次的に完成させられたのは、成果と言えるだろう。
ついでと言っては何だが、スライムロードを屠った際〔冷却〕と同時に使用した気圧操作の魔法を、無属性魔法Lv.4【気流操作】派.生08.〔高圧気流〕として定義した。気圧を制御出来れば、空気からアンモニアを生成出来る。それこそ「夢がひろがりんぐ」というモノだ。
(2,965文字:2015/12/12初稿 2016/09/01投稿予約 2016/10/23 03:00掲載予定)
【注:本話で研究される電撃魔法は、ゲーム、ラノベ、アニメその他で使われる電撃魔法をそれぞれ原典としており、タイトルから連想出来る特定のアニメからのみ引用しているものではありません。
「空気からアンモニアを生成出来る」とは、「ハーバー・ボッシュ法」(https://ja.wikipedia.org/wiki/ハーバー・ボッシュ法)による窒素固定法を指して言います。但し実際には、アレクは知識として知っている(空気を300気圧まで加圧することでアンモニアが生成出来る、というレベル)だけで実際の手順まで知っている訳ではありませんので、試すのなら膨大な時間を試行錯誤に要することになるでしょう。
「夢がひろがりんぐ」というのは、ネットスラングです】
・ うちのIME、「れーるがん」と打つと「超電磁砲」と変換されるのですが。これを一般名詞と解釈しても宜しいでしょうか?
・ 「単一磁極粒子」(モノポール)は、現在この宇宙では発見されていません。
・ 各超電磁砲の漢字名称と荷電粒子砲の英語名称は、筆者の独創です。




