第四話 同士の発見と共生
上級魔術師である兄の治癒魔法は今や最高レベルに達していた。
その兄が私にかけてくれた治癒魔法を収納している私の治癒魔法ももちろん最上級だ。
そして、そんな優秀な兄と同じ血を分けた私が使える収納魔法も恐らく、最上級なのだろう。
今や、単純に魔法を収納し抽出するだけではなく、収納した魔法を調合して生成し、自分だけのオリジナル魔法にして抽出できるようになっているのだから。
もしかしたら、転生者チートかもしれないけどね。
他にも、薬草を収納し、調合してから抽出したり、一度精製したものを複製し、そのまま保管しておけたりもする。
ただ、魔法を生成するのには保管容量にそれなりの空きが必要なため、一度にたくさんのものを保管しておくことはできないのだけれど。
私は私の収納魔法をとても気に入っている。
卒業後は婚約者であるジェラルド様と結婚し、侯爵夫人になった際、この収納魔法で彼と一緒にオルクス侯爵家を繁栄させていきたいと思っている。
今はまだ――誰にも打ち明けられずにいるけれど。
◇
卒業をあと一ヶ月後に控えたある日のこと。
学園から帰った後、機嫌の悪かったシャーロットに散々当たり散らされて庭に横たわっていると、どこからともなく足元の覚束ない一匹の黒い猫がふらふらと近づいてきて、私の前でパタリと力尽きた。
(敷地内に迷い込んだ猫ちゃんかしら……?)
芝に横たわったまま、ぼんやりと見つめていたが、そのうち呼吸が浅くなっていくのを感じる。
私は痛みだけを“収納”し、上半身を起こしてその猫を覗き込むと、黒いと思っていた毛はこびりつき乾いた血であることに気がついた。
ピクリとも動かなくなった猫にそっと手をかざす。
「《収納》」
猫の傷を収納すると、僅かにシャーロットの魔力を感じた。
「あなたも……シャーロットにやられたの?」
もう一度、手をかざし、兄の治癒魔法と浄化魔法を生成する。
「《抽出》」
出来上がった魔法を“抽出”すると、黒猫はあっという間に真っ白で気品漂う姿に変わった。
そして、ゆっくりと目を開く。
「おはよう、猫ちゃん。気分はどう?」
白猫は小さく「にゃー」と鳴き、頭を上げた。
私と互いに向かい合う形で座り、見つめ合う。
「あなた……綺麗な猫ちゃんね。お行儀も良さそうだし……」
そっと手を伸ばすと、治療の御礼なのか、私の手のひらにすりすりと頬を寄せた。
「ふふっ、可愛い」
嫌がられていないことを確信したため、そっと抱き上げてみる。
最上級の浄化魔法で綺麗になった毛並みはふわふわで触り心地も最高だった。
「人懐っこいのね? だから、シャーロットに……」
私は申し訳なくなり、ふわふわの白猫を優しく抱き締めた。
「にゃぁ」
私の胸の中で柔らかい声を上げ、まるで「大丈夫」と言っているように感じられた。
「ありがとう。優しいのね。きっと……どこか良いところの――」
白猫と視線を合わせるように脇に手を入れ掲げる。
「――御令息、なんじゃない?」
思いがけず性別を確認してしまった私の手から逃れるように白猫は体をひねると、美しい姿勢で着地した。
「にゃん」
まるで言葉を理解しているかのような鳴き声と行動にやはり飼い猫なのではないかと思った。
「あなた、やっぱりどこかの飼い猫なんじゃない? もしそうなら……きっと今頃、飼い主さんが心配しているよ?」
白猫は小首を傾げ、「にゃ」と短く鳴いた。
「お家はわかる? ちゃんと帰れる?」
私の問いかけに、ピッと背筋を伸ばし「にゃん」と鳴いてから、私に背を向け歩き出した。
「大丈夫そう、ね……」
迷いのないその足取りにホッと安堵するも、どこか少し寂しく感じていた。
しかし、日が暮れ、辺りが真っ暗になった頃。
半地下の窓からいつものように月を眺めていると、不意に光が遮られ、影がさす。
「ん……?」
見上げてみると、月明かりがまるで後光のように先ほどの白猫を照らしていた。
「にゃーぉん」
ここを開けてくれ、とでも言いたげな鳴き声につい、半分しか開かない窓を開けた。
白猫は迷わず、私の部屋に飛び込んできた。
「どうしたの? やっぱり、お家わからなかった?」
部屋の中を汚すまいとでもいうように、手足を夢中で舐めていた白猫が顔を上げた。
「にゃん」
肯定するように鳴くと、私の足元にすり寄った。
思わず顔が綻ぶ。
「あなたがいなくなってから、ちょっと寂しかったの。もしよかったら、しばらくここにいてくれる?」
シャーロットの被害者同士、どこか連帯感のようなものが芽生えていたのかもしれない。
そして、その同士には帰る場所があることに、少し羨ましさを感じ、いつもの夜がどこか寂しく感じてしまっていたのだと思う。
そんな同士が戻ってきてくれたことに、申し訳ないが、舞い上がってしまった。
「にゃん」
先ほどの肯定と同じ鳴き方に胸が鳴る。
「じゃあ、これからよろしくね。えっと……」
名前を呼ぼうとして、わからないことに躊躇う。
「にゃーぁ」
白猫は私が名前を呼ぼうとしたことに気がついているように鳴いた。
「ねえ、白猫ちゃん。あなたに名前、付けてもいい?」
白猫は「にゃん」と一鳴きし、屈んでいた私の膝の上に飛び乗った。
「ルーク」
月明かりに照らされ、キラキラと光り輝く毛並み。
「光って、意味だよ」
私に差し込んだ、一筋の美しい光。私を導いてくれる、光。
「ルーク、これからよろしくね?」
「にゃん」
ルークは私の胸に頬を擦り寄せると、満足そうに一鳴きした。




