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生成魔術師の処方箋  作者: 夕綾るか
第二章

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第十三話 水の都ミスティーレア①


「お嬢ちゃん、ミスティーレアに行くのかい?」


 隣に座っていた老女が地図を広げた私に話しかけてきた。


「はい……」

「んじゃ、気をつけな」

「え、何を……?」


 気をつけろ、と注意を受けるほど治安の悪い街ではないはずだ。

 私が首を傾けると、そのお婆様は眉を顰め、耳打ちをするように小声で囁いた。


「水が減っているんだ……それに汚染も進んでいる。原因がわからない上に、疫病まで流行りだしたんだよ……」

「そう、なんですか……」


 ミスティーレアはオルクス侯爵領だし、このことをジェラルド様は知っているのだろうか。

 しかし、彼は今、王都で宮廷文官として勤めている。対処は彼の父であるオルクス侯爵がしているだろうから、彼はまだ知らないのかもしれない。


「お嬢ちゃんはミスティーレアに行ったことがあるかい?」

「いいえ……」


 頭の中でいろいろ考えていたが、お婆様はそんな私に構わず話を続けた。


「そうかい。前のミスティーレアを知っている者が今のミスティーレアを見たら、きっと驚くだろうよ」

「そんなに違うのですか?」

「ああ、違うなんてもんじゃない……」


 頭を抱えたお婆様の落胆具合に、ミスティーレアとの関係性の深さを思わせた。

 写真や資料でしか見たことはないが、ミスティーレアは『水の都』と呼ばれるのも納得の、どこかしこで水が流れ、水面が太陽の光を反射しキラキラと輝く、とても美しい街だ。

 それがそれほどひどい状態なのだろうか。


「領主様が対処されていらっしゃるのでは?」

「さあね……良くなるどころかどんどん悪化していく一方だしな。何の対処もしていないようにしか思えん……」


 ミスティーレアの街に着いたら、少しお金を工面しようと思っていたのだが――今の話を聞く限り、それは難しそうだ。


(収納して生成しておいた薬、売りたかったんだけどな……)


 お金は複製できない。いや、やろうと思えばできるのだが、番号や記号の同じ紙幣、同じ傷のある硬貨、そんなものを作ったら偽造になってしまう。

 魔法石や装飾品などの宝石類も同様に、同じ形、同じカット、同じ成分のものを複製するのは犯罪だ。

 例え私にしかオリジナルかコピーか見破れなくても犯罪者にはなりたくない。


 いくら財布が寂しくても、プルティウスで薬を売ってお金を工面することはできなかった。三年間の学園生活でかなり顔見知りができたし、私が薬なんて売ったら、どこで噂が回るかわからなかったから。

 だから、ミスティーレアで調達しようと思っていたのに。


 計画が狂い、小さな溜息を吐き出した。宿泊代で軽くなってしまった財布を思い出し、不安で鞄ごと胸にぎゅっと抱きしめる。


 それにしても――本当にオルクス侯爵は何も対処していないのだろうか。


(そこまでひどい状態になっているのに、何の対処もせず、どんどん悪化させている?)


 私自身、一度もオルクス侯爵に会ったことがないため、どんな人物なのかはわからない。それにミスティーレアのことも領地に関する資料を読んだだけなので、詳しいことまではわからない。侯爵夫人になっていたら、もっと内部の資料まで読むことはできただろうけど。


(とにかく、実際に見てみなければ――)


 早朝に出たおかげで日暮れ前にはミスティーレアに着くことができた。


「え……? ここが、ミスティーレア……」


 きっと暗闇が迫る時間帯だからだろう。

 そう思いたいと願うほど、ミスティーレアの街の空気はどんよりと沈み、湿度の増した街には得体の知れないモヤが掛かっていた。


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