後ろ向きに前向きなんですね
ニュースがいつも同じような内容で、気が滅入りますね。
「コーヒー持ってきたけど。アイスとホット、どっちがいい?」
「じゃあ、ホットで」
そう伝えると、少女は湯気のたっていないコーヒーを目の前に置いた。カップを触ってみると冷たい感触。アイスだ、これ。
「またそうやって、しょうもないことをする…」
「ごめんごめん。はい、こっちがホットね」
笑う意地悪少女から今度こそ湯気のたっているカップを貰い、一口すする。うん、温かい。
「それで、話って何です?」
「シロカはこれからどうするのかなって」
「帰る方法を探そうかなと思っています。やり残したことがありますので」
「そっか。そうだよね」
何か言いたそうにカップをペタペタ触る少女。落ち着かない心情の表れだろうか。普段の振る舞いからは感じ取れなかったが、意外とナイーブな人なのかもしれない。明るい振る舞いのせいで内心が見えない人なんて、腐るほどいるものな。
そういう人に対して自分ができることってないんだよな。力があっても、魔法が使えても、人の心は変えられない。
「…」
そんなもどかしさを覚えつつ、ただただ少女が話を切り出すのを待ち続ける。そしてコーヒーの湯気が見えなくなる頃に、少女は言葉を紡ぎ出した。
「えと。どうやって探すつもりなのかな。帰る方法って」
「人に聞き回るしかないでしょうね。どれくらいかかるかはわかりませんが」
「だよね。そうだよね」
「あの、もしかして手伝ってくれるんですか?」
私がそう言うと、少女は真空色の瞳を大きく開き、花のような笑顔で私を見た。
「うん、そうさせて欲しいんだ」
「何でそんなことを。本当に女神にでもなるつもりですか」
「悪い言い方するなぁ、シロカは」
「口が悪いのは、…昔からです」
あまり意識したことはなかったが、昔はもう少し善人寄りな性格をしていた気がする。嫌な言い回しをすることが増えたのはいつからだろうか。
「で、何で神様になろうと?」
「してないよ。その、アタシさ。母親を探してるんだ」
「お母さんを?」
「うん、アタシ母親に捨てられたんだ。だから見つけて文句言ってやろうかなって。そのためにアタシは生きてる」
どこか遠くを見るような空虚な瞳で話をする少女。さっきまでは晴れやかだった天空の瞳は、今は雲がかかっているようだった。
「…後ろ向きに前向きなんですね」
「かもね」
だが、それは私を助けてくれる理由にはならないと思うのだが。そう思っていると、まるで私の考えを読んだかのように少女が唐突に口を開く。
「そういうわけだからさ。前向きに生きるためにも、人助けってのをさせて欲しいのだよ」
「そういうことにしておいてもいいですけど」
それだけが理由じゃないだろう。助けられる人なんて、私以外にたくさんいる。その中で私に固執するということは、きっと少女は他にも何か私に感じていることがあるはずだ。それが同情か、哀れみかはわからないが。
「まぁ、聞き出すのはそのうちでいいでしょうけど」
「え、何の話?」
独り言を呟いたつもりだったが、バッチリ聞かれていたようで少し恥ずかしい。
その恥ずかしさを拭うように、顔を逸らしながら手を差し出した。
「それじゃ、今日からよろしくお願いしますよ。おねーさん」
「おねーさんって、初めて呼ばれたなぁ」
「だって、名前知りませんし」
「そっか。アタシの方は自己紹介してなかったもんね。…ブレッドだよ、よろしく」
少女。いや、ブレッドはそう言うと、私の手をギュッと握ってニコッと笑う。それは曇りなど感じられない、太陽のような眩しい笑顔だった。




