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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
37/54

37.パート事件

ABCチェーンから薬剤師が一人派遣され、私はその人と二人で薬局を引き継いでいくことになった。今度はしっかり薬問屋への支払いもしているので、問屋の営業の人が来ても気持ちは晴れやかである。


「最近どうですか? 」

自分の担当外のNさんも、様子を見にやってきてくれた。

「おかげさまで。以前はいろいろとご迷惑をおかけしました」

実はこのNさん、この店の担当ではないが、ちょっと縁があった。前に夢野薬局を立ち上げた時、レセプト用のコンピューターを操作できる人がいなかった。その時にNさんの奥様に週に何日かパートで来てもらい、コンピューターの指導と事務処理の手伝いをしてもらっていた。

夢野薬局の閉店と同時にそのパートの仕事は無くなったが、そのNさんの奥様は明るくてきぱきと働き、本当に良い人だった。


「奥様にも、あの時は本当にお世話になりました」

「いやいや、あんなんでも役に立ったでしょうかね」

Nさんは謙遜して言った。

「いえいえ、本当に助けていただいて感謝しています」

「そうですか。じゃ、私はそろそろ失礼します」

帰りかけた時、ちょっと思い出したように

「ところで……」

一言漏らした。

「ウチのヤツの給料はまだ出ていないんですよ。社長さんから、正社員の二人を先にするから待ってくれって。いや、いいんです。たいした額じゃないからアテにしていないですから」


Nさんはついでのように言って帰っていった。

え???

私は、その後しばらく唖然としていた。

確かジュンちゃんには、薬局長として責任者だから、下から給料を出すから待ってくれと言ったはず。なのに一番下のパートという身分の人には、まだ支払っていないのか?

こっちには上から先に支払うと言ったのか?


またしてもしてやられた。


結局ほほえみ社長は、しつこく払えと言わない限り、誰に対しても永久に支払う気持ちなど無いのだ。最終的にとりあえず私の給料が出たのは、私が社長の事務所まで怒鳴り込みに行ったからに違いない。

いや、もしかするとあの社長のことだから、私の給料は売却先のABCの財布から出させたのかもしれない。今となっては真実は分からない。


日本人の美徳である

「私は後からでいいですから」

という謙虚では通じない相手もある。



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