20.財布拾った事件
「敬子ちゃん、話があるの」
ある朝、ジュンちゃんがやけに深刻な声で話しかけてきた。
「どうしたの? 」
「実は昨日歩いていたら、道でお財布を拾ってしまったの。それで中を見たら、二万三千円入っているの。どうしたらいいと思う? 」
そう言って私に黒い二つ折りの財布を見せた。
中を数える。ひぃ、ふぅ、みぃ。
確かに二万三千円入っている。
「じゃあ、昼休みに駅前の交番に届けよう」
思わず出た言葉だった。
「それが……」
ボソッと話し始める。ジュンちゃんの相談というのは、ここからだったのか。
「本当はそうしないといけないんだけどね。でもね、今はお給料が止まってしまって生活が苦しいの。一円でも欲しい時なの。だから……」
そこで止まってしまった。私は見せてもらった財布をジュンちゃんに返し
「このお金、もらっちゃってもいいと思うよ」
ジュンちゃんはすでに決めていたようである。ただ、その言葉を私に言って欲しかったのだ。
「いいんじゃない。クレジットカードが入っている訳じゃないから。落とした人も、もう諦めているよ」
「そう、良かった」
ジュンちゃんには後押ししてくれる人が必要だったのである。
少したってから、急にジュンちゃんが話しかけてきた。
「ねえ、敬子ちゃん。ピザ食べない? あのお金で」
「大丈夫なの? 使ってしまって。ジュンちゃんが全部もらっておきなよ」
「ピザくらい大丈夫。一緒に分けようよ」
そう言って、その日はデリバリーのピザを頼んだ。ジュンちゃんの良心にとっては共犯者が必要であり、私はピザで買収された。
届いたピザを半分切って、残り半分を入れた箱を持って、私は二階の整体院に行った。
「こんにちは。お昼にこちらでピザを取りました。これは、おすそわけです」
「あ、そう。ちょうどいい。社長もいるから。社長、ピザが届きました」
日出夫はジュンちゃんの苦労を知らない。




