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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
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18.種まき

さて、そんなこんなで火の車の経営だったが、私たちもただ漫然と手をこまねいていた訳ではなかった。

「私、自分のやりたい事があるの」

「私も」

最初に、お互いがそう言ってこの薬局を始めた。


ジュンちゃんがやりたいのは薬局製剤だった。

薬局で売っている薬というものは、決められた工場で作られ、そこの検査で合格した製品でなければ売ってはいけない、バファリンとかルルのようなものである。

しかし何品目かの薬に限って、薬局内で製造し、それを販売してよいことになっている。『夢野薬局風邪薬一号』のようなものである。この薬局内での製造の上手い下手によって、一般で売られている薬よりもずっと安くて良い製品ができたり、とても売り物にならないようなものになったりする。

ジュンちゃんは何年も前からその作り方を勉強し、技術を磨いていた。


しかしそれを始めるにあたって、一つの関門があった。

その薬局製剤を作って販売するには、役所から許可をもらわなければならない。

“その役所の許可をもらうためには申請料として五万円が必要である”


もちろん社長に頼んでも、五万円などというお金は永久に出てこない。

何度か社長を説得して、何か月かかかってレジの売上金をためて五万円を絞り出し、薬局製剤の製造許可を得ることができた。


私がやりたいのは漢方だった。

私もそれについては専門の師匠について何年か勉強していたので、少しは知識と経験があった。

これも、始めるにあたっての資本金などある訳がない。拾ってきた木箱の蓋に、墨で『漢方相談』と書き、看板にした。漢方の調剤に使う専用の道具も、ボール紙を組み立てて手作りした。


こうして少しずつ工夫していった末、開局して数か月後には処方箋調剤の他に、薬局製剤と漢方相談という、ある意味質の高い薬局となった。


その結果どうなったか。


これはどちらも種まきである。

看板を掲げていきなりお客さんが詰めかけるという種類のものではない。まず一年目に少しばかりお客さんが付き、リピーターとなって口コミで広まり、少しずつ成長していく。五年か十年で何とか軌道に乗っていくというものである。それまでの期間は処方箋調剤でつなぐ。その代わりそれがうまくいけば、医者からの処方箋に左右されず、自分たちの実力だけでやっていかれるようになるのである。


最初の年、少しばかり薬局製剤が売れた。漢方を買いに来たお客さんも何人かはいた。

そして、この薬局自体が種まきだけで終わった。


もしあのまま薬局が続いていたら、あの時に蒔いた種は今頃、青々と葉が繁る立派な樹になっていたかもしれない。

そんな夢を今でも見ることができる。そのための時間を与えてくれた、貴重な時間だったのかもしれない。


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