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ほほえみ社長  作者: とみた伊那
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16.顔見ればわかるだろ

一回目の給料はごたごたの末に出たが、それから二か月後、再び給料が止まった。

今度は社長にお金が無いことは皆が知っていた。


いくら患者さんが来なくても、契約は契約である。ジュンちゃんも私も年俸で契約したので、決められた給料は支払ってもらわないと。二人は社長のところへ向かった。


「皆さんにはご迷惑をおかけしてしまって申し訳ありません。大丈夫です。最初にお話ししたように、私は岐阜にビルを持っていて、毎月そこから家賃が入りますから。来月一日になったら、そこのテナントのエステティック・サロンの家賃が入金されます。皆さんのお給料は、それで十分まかなえますから」

笑顔だけは相変わらずだ。


「こんな調子でやっていかれるのかしら。私たちはともかく、問屋さんの支払いとかは、ちゃんとやっているのかしら。支払いができていなくて、薬が入らなくなったら私たちの仕事はやっていかれない」

そんな話をしていると、ちょうど薬問屋の所長、ダンディー黒岩がやってきた。


「黒岩さん、こんにちは。お世話になっています」

「どうした、うかない顔して。ちょっと社長に話があるから」

黒岩はそう言うと、二階に上がって事務所に入っていった。


「黒岩さんに薬代の支払い、どうなっているか聞いてみようか」

と話している時、事務所から黒岩が出てきた。話を切り出したのは黒岩のほうだった。

「君たち、給料はちゃんと出ているのか? 」

「え、ええ、まぁ……」

何と答えるべきか。

「それより黒岩さん、そちらの支払いはちゃんとされているのですか? 」

「俺? 俺のほうか」

黒岩はニヤリと笑った。

「支払いがどうなったか、顔を見れば分かるだろう」

私は黒岩の顔をじっと見た。

カッコイイ。

男らしい。

この、感情をはっきり表に出さないところが日本男児の美学だ。

しかし美学はさておき、私にはこの時、顔を見ても支払いがどうなったかはさっぱり分からなかった。


黒岩が帰った後、ジュンちゃんに確認した。

「私も分からなかった」

との返事。良かった。私だけが特別鈍い人間だったのではないようだ。


この時、お互いにもっとハッキリ答えていれば、被害はもう少し小さくとどめることができていたのに。


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