10.ジュンちゃんの夢
「お金が必要なの」
ここに転職する時、ジュンちゃんは言った。
やりたい事を自由にやらせてもらえる。理想の薬局を作りたい。そういう理由もあったが、ジュンちゃんが転職を考えた無一番の理由は給料だった。
ジュンちゃんと日出夫は夫婦二人だけ。二人とも働いている。そんなに生活に困るはずではなかった。ところが二人で働いていてちょうど生活に少し余裕が出てきたとき、魔が差した。そういう時代だったのだろう。
仕事の合間に、インターネットによる株の取引きを始めた。始めの頃は面白いように株価が上がり、二人の給料の何倍もの利益がほんの数時間で稼げるようになった。それに味をしめ、その金を元手に、さらに借金をして株を買い続け、そして株は暴落。株券は紙くず同然となり、莫大な借金だけが残った。
その時のままの給料で返済していくと、ほぼ死ぬまで働き続けてやっと返せるか返せないかという計算になった。そこでジュンちゃんは今より給料の良い新しい仕事を探し始めた。そこで出会ったのが、ほほえみ社長である。
「私、これだけの年収が欲しいのです」
ジュンちゃんの訴えに、社長は二つ返事で了承した。
これで万事解決。借金は早めに返済が終わり、生活は何とか楽になる……はずだった。
ところがその後すぐ、ダンナの一流企業からの転職。
そしてこの新しい働き口の何やら怪しい雰囲気。
それでもここで働いて、借金を返さなくてはならない。
「私、夢を見ちゃったの。それが借金になっちゃった」
ため息をつくジュンちゃん。
いやいや、ジュンちゃんは目が覚めたけれど、この上の階にいるダンナは、まだまだ夢の続きを見ているように思う。




