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出戻り令嬢は無愛想博士と語りたい  作者: 小埜我生


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思わぬトラブル

「やめてくれたまえ、こちらにいる」

その声に振り返ればそこには一人の男性が立っていた。


「あ、失礼いたしました!はじめまして....パキン博士?」

助手がやめたとの事だったからおそらく本人だとは思う。

シルバーの髪は長らく整えていないのか目元が隠れており、シャツにも皺と土汚れ。

まぁ、自分も研究者の端くれだったから研究中の身だしなみを怠る気持ちも分からなくはない。

「・・・そうだが、君は誰だ?」


「本日よりお世話になりますアエミリアです。よろし「ちょっと待ちたまえ」

挨拶を遮られた。


「は、はい」

少し間が空いた後眉間に拳をあてていた博士が口を開いた。


「まずお世話とはどういうことだ?」


「えっと、ここで助手として雇っていだだけると」


「何だそれは?私は知らないぞ」


「「・・・・・・・」」

二人して黙って見つめ合った。人違いか?と思ったが男性は、パキン博士で間違いないと言うし。

私は平静を装っていたがそれはたいそう戸惑っていた。


「・・・ここの住所は誰から知ったのだ?」

沈黙を破ったのは博士で、面倒そうにそうこぼす。


「マゼータ先生です」

私は先生からの手紙を鞄から取り出す。


「マゼータ?」


「はい。学園で師事していただきました」

先程までの怪訝さを滲ませる雰囲気から驚きに切り替わったようだ。


「その手紙拝見しても良いか?」


「あ、はい、どうぞ」

私は先生からの手紙を渡した。

博士は手紙を開いて中身に目を通す。


「・・・・確かにこれは奴のサインだな」


「先生は私の学生時代の恩師で今回私にここを紹介してくださったんです」


「しかし私は返事など返していないし、そもそも奴からその旨の手紙など届いていないが」


「「・・・・・・・」」

再び二人して顔を見つめ合わせた。

お互いに嘘はついていないのにかみ合わない。

どういうことだろう。

その問題を解決したのは私達ではなかった。


「おーい、いつもの荷物運びますぜ。って、二人して玄関前で何してんだ?」

門から歩いてきたのは、木箱を抱えたルドルフさんだった。


「いや、連絡の行き違いがあったようでな....箱を貸してくれ!!」

何を思いついたのか博士は木箱を指さした。


「あ、あぁ。ちょっと重いから玄関前に置かしてもらいますぜ」

ルドルフさんは、博士の様子に驚いていたようだが木箱を玄関前に置いた。

置かれるとすぐに博士は木箱を開け、中を漁った。

箱の中をチラリと覗くと書類や手紙の束がぎっしり詰まっている。


「........これか」

博士は、手紙を一通取り出し、開封する。


「嬢ちゃん、こりゃどういう事だ?」

私達のただならぬ雰囲気を察したのかルドルフさんが私に尋ねた。


「私を博士に紹介してくださった恩師の手紙が届いていなかったようで」


「それじゃあ仕事先がなくなっちまったのか?」


「かもしれません・・・」

行き場がなくなればこれからどうしよう。実家には当然帰れない。先生もすでに隣国に向かっているだろうし。


「まぁ、そうなったら俺がどっか紹介してやるから安心しな!」


「・・・ありがとうございます」

不安げな表情を浮かべる私を気遣ってくれたのだろう。

ルドルフさんは、胸に拳を当ててガハハと笑ってくれた。


「勝手に話をすすめるんじゃない」


「お?先生何か分かったんですかい?」


「あぁ、どうやら手紙の一部が他の地域の便に紛れていたようだ。そのせいでマゼータと私の連絡がずれ、それが原因で彼女が別件の返事を了承として受け取ったと思われる」

博士から数枚の手紙を差し出された。

確認すると確かに私を紹介するといった手紙と研究についての手紙など消印を見れば日付にかなりずれがあった。


「つまり件の手紙がよそにいってしまってここに届く前に博士は別件について了承した手紙を先生へ送り、それを先生は私のことを了承したと勘違いしたという事ですか」


「おそらくな。マゼータは昔からそそっかしいところがあったから」

博士が眉間に皺を寄せそう言ったが確かにと思ってしまう。

普段はとてもしっかりしている尊敬できる先生だったがたまに変な失敗をされていた。


「先生、話してるところ悪いがそろそろ他の荷物を運んでもいいか?」

ルドルフさんがそう切り出した。


「あ、ああ。頼む」

博士が返事を返すとルドルフさんは荷物を取りに行ったのか馬車へと走って行った。


「他の方は広場で受け取られていましたがこの家の荷物は届けてもらえるんですか?」


「・・・・こちらからと王都からの手紙や資料も多いから手間賃をだしてお願いしている」


「そうなのですね」

会話が途切れてしまった。

ルドルフさんを待つ間、無言の時間が続く。

これからの事を相談したいとは思ったが先生の勘違いだったのなら私を雇うなどしないかもしれない。

友人の教え子など博士からしたらただの他人ですし。

無理にお願いしても困らせるだけかもしれない。それならば本当にルドルフさんに何か紹介してもらうか?せめて今晩の寝床だけは貸してもらえるだろうかと考えを巡らせていた。


「・・・君はマゼータの元で研究に参加していたのか?」


「え、あ、はい。学生時代だけでしたが。」


「卒業してからは?」


「・・・・個人ではしておりました」


「じゃあ助手の雑務は出来るな?」


「雇っていただけるのですか!?」


「・・・出来るのかと聞いている」


「出来ます!!」


「ふぅ、では仮契約を結ぼう」


「仮ですか?」


「ああ、君が使えるか分からないがどうやら事情がありそうだ。一時的な滞在先として住みこみで働いてもらう。他に職場が見つかればそちらに行ってもらってもかまわない」


「・・・わかりました。パキン博士、改めてよろしくお願いいたします。アエミリアです」


「・・・ユリウス・パキンだ」


「話はまとまったみたいだな」

ルドルフさんが木箱を抱えて戻ってきた。


「はい、こちらでお世話になることになりました」


「そりゃよかった。先生も助手が出来たら楽になりますな」


「・・・一人の方が気楽だ」


「先生、またそんなこと言って」

ルドルフさんは困り顔でこちらをちらりと見たが気にしてないと笑顔を返す。


思いもよらないトラブルはあったが私はこうしてパキン博士のもとで働けることになった。

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