31.戯れが過ぎた日
アシェルは分からないよう、小さく息を吐き出した。
下がっているローワンの手がひらりと揺れて、親指と人差し指で作られた丸を確認出来たからだ。
何を言われても断っていい。
はっきりと分かるよう拒絶してやれ。
前置きも謝罪も要らない。
端的に断るだけでいい。
──全部ローワン様がいつもなら言わないことだった。それもあんなに強く言うなんて。
それだけこの王には問題があるということになる。
──さっきのローワン様の言葉も気になったな。この王様はウォーラー家に理解ある大臣たちの同席を妨げたんだ。
アシェルは憂いてしまった。
成人したばかりであるのに。
──この国大丈夫なのかな?
今は国政が問題なく回っているのかもしれないが、この王はいつか大きな事をしでかして、取返しの付かないことになるのではないか。
そうなったときアシェルは何が心配かと言えば、ウォーラー侯爵家の人たちや領民たちに影響を与えないかという点に尽きる。
アシェルの憂いは王が話すほどより強まっていく。
「なんと嫌と申すか。誰よりそなたを優遇し、誰より給金も弾んでやろうぞ?」
「陛下、お戯れはそこまでにと申しましたよ?」
「つまらぬことばかり言うではない。声掛けくらいいいではないか」
「それよりどうかお望み通り、二人には研究の話を聞いてやってください」
「本当につまらぬ男ぞ。あーよいぞよいぞ、何を話そうかと悩まずともよい。難しい話はわしの前でしなくてよいからな」
──これはローワン様も怒るわけだよ。王様は養蜂の話を聞きたくて俺たちを呼んだはずなのにね。
「しかしのぅ。本当にそなたは美しい。ウォーラーなんぞには惜しい男よ。本当に惜しいことを。それにしても……ふむ。ウォーラーの娘がこれとは……」
アシェルは動かしてもいないのに、顔が引き攣ったように感じた。
王の御前で見せる姿勢ではないが、前から右手を伸ばして、左腕に添えられた手を握り締めてしまう。
驚きに揺れた温かい手は、ゆっくりと向きを変えてアシェルの右手を掴んだ。
「とても不釣り合いであるな。そなたもそう思っているのではないか?わしの前では本心を晒すことを許そうぞ。もっと美しき女が良かろうな。そうだ、側近になるならば、これも用意してやろう」
このときばかりは、ローワンよりもアシェルの発言が早く出た。
「さすがは陛下。ご慧眼をお持ちなのですね。実は私も夫婦として不釣り合いだと思っていたのです」
えっ?という小さな音は、王の大きくなった声に掻き消された。
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