30.これが王様
ゆっくりと重厚な扉が開いていく。
鮮やかな色がまず目に入った。天井と壁をキャンパスにして壮大な人物画が描かれているのだ。
その絵を追っていけば、それぞれが同じ物語の場面を切り取り描かれていることが分かった。
──神話の絵だね。これは凄いや。
一方で床は真っ白で、おかげで置かれたものが良く目立った。
壁際には棚に壺などが飾られているが、何より目立つのは中央の椅子。
アシェルが大きな椅子に腰掛けた白い服を纏う男性の姿を目に入れたところで、声が掛けられた。
「おぉ、待っていたぞ、ウォーラー侯爵。そちらがそなたの娘と例の子息か」
ローワンを先頭に、アシェルとソフィアは横に並んで部屋に入った。
アシェルは左の肘を曲げ、そこにソフィアが右手を置いて、社交界で男性が女性をエスコートする際の姿勢を保っている。
ローワンが足を止めて腰を折ったところで、後ろに続いていたアシェルとソフィアもその場で歩みを止めて、二人同時に頭を下げた。
「我が娘ソフィアと、我が義息アシェルにございます。陛下、他の方々の姿が見えないようですが?」
ローワンはすぐに頭を上げたが、アシェルとソフィアはまだ頭を下げた姿勢を保った。
白い床とお互いのトラウザーとドレス、靴だけが見えている。
──細かい刺繍が入っているんだ。これが離れるときらきら光って見えていたんだね。
なんてアシェルがソフィアのドレスの柄に気付きを得ている間も、ローワンと国王が会話を続けていた。
「そなたの娘らのために下がらせたのだ。成人して間もないのだろう?多くいては緊張し、よく話せまい」
「まったく不要なご配慮ですが。感謝しておきましょう」
「そなたはどうしてそう……まぁよい。そこの二人も、顔を上げよ」
言われてようやく、アシェルとソフィアが同時に姿勢を正す。
王はアシェルだけを見た。
「ほぅ。これはまた。よい、もっと近うよれ。よいよい」
振り返ったローワンが頷いたので、一歩前に出たアシェルとソフィア。
しかし王は「もう少し近うよれ」と言う。
「陛下。二人ともに慣れぬ場所です。若い者たちですし、お戯れはそこまでに」
「むぅ。そなたは本当につまらぬ男だ。しかし見れば見るほどに……美しい男であるな。話に聞いた通り、いや聞きしに勝る美しさぞ。常に側に置きたい美しさだ。どうだ、わしの側近にならぬか?」
舐めるように全身見られたのち、顔を凝視されても、アシェルは真直ぐに前を向いていた。
ソフィアはアシェルの腕をぎゅっと強く握っている。
「陛下、お戯れはそこまでにと」
「そなたには聞いてはおらぬわ。どうだ、わしの側近になりとうないか?」
「お断り申し上げます」
淡々と答えたアシェルは、ちらとローワンの背中を見やった。
──これでいいんですよね、ローワン様?
読んでくれてありがとうございます♡




