28.家族というもの
※※※引き続き本文中に「耳が悪い」という表現を使っております。物語上の言葉で、現実にどなたも侮蔑する意図はございませんが、言葉に不快さを感じてしまう方はどうかブラウザをお閉じください。お手数おかけして申し訳ありません。※※※
<以下から物語の続きです>
「そ、そんな。不満など!とんでもないことにございます!私は侯爵様のご対応のすべてに満足しておりますとも!」
「満足してなお、子爵がアシェルくんに何を躾けることがあるのだ?」
「そ、それは……父親としてですね……私は父親として……時に言わねばならないことというものがございまして……えぇ、成人した二人の息子にも、まだまだ厳しく言うようにしておりますものですから」
「それがひれ伏せることなのか?」
二の腕を擦っていたアシェルの手が止まった。
「え?ひれ伏せ……えぇ、それは……はい、父親としてですね……父親として……」
ローワンに睨まれ、イーガン子爵の声は消え入りそうに小さくなる。
「イーガン子爵。私が最も聞き捨てならなかったのはね、すでに成人し、子爵とは縁も切れて、晴れて我が義息となったアシェルくんに、ひれ伏せろと言ったことなのだよ。この発言については、今一度どういうことか説明してくれるかい?」
「む、むすこですか?」
「娘との結婚も報告したはずだよ。これはもう確信せざるを得ないか。イーガン子爵はとても耳が悪いか、あるいは──」
ここでローワンに笑顔が戻った。
「やはり子爵はウォーラー侯爵家が余程気に入らないとみえる」
「ひっ。違います。そのようなことは!」
取り出す言葉だけ当たったが、予測とは掛け離れた結果に、アシェルはローワンを見詰めてしまった。
ローワンもすぐに視線に気付いて、隣に座るアシェルを見ると、子爵向きとは変えた笑顔を見せる。
穏やかで温かいその笑みに、アシェルの胸はぎゅうっと詰まった。
──俺のことで怒ってくれていたんだ。それも本気で。
アシェルは今でも、十一歳まで身を置いていたあの環境の影響を断つことが出来ていないのだろう。
胸にそっと手を当てたアシェルに自然に生まれた微笑は、あまりに美しいもので。
それをちょうど助けを求めようとしたイーガン子爵が見てしまった。
「お前っ!父親の窮地に喜んでいるのか?なんて奴だっ!」
「義息に何かな、イーガン子爵?またひれ伏せようというのか?」
「ひっ。違います。違うのです。あ、あれは言葉の綾と申しますか。えぇ、ただの比喩でして。実際にひれ伏せという意味ではなく」
「ではどういう意味か?」
「ど、ど、どういう意味かと問われますと……そ、そうです。そのようなことは、私も言っていなかったのではないですかね?侯爵様が少しばかり聞き間違えられたのかもしれないと……おい、そうだな?」
見られたところでアシェルが頷くわけはなかった。
「聞き間違いか。では子爵は、やはり私の耳が悪いと言うのだね?」
「いえいえ、そんなことは!──いえ、ですからあの、違うのです。そうではなく──」
イーガン子爵が急に立ち上がった。
「と、と、とにかく。倅はうちの子ですから。おい、今日のところは一人で帰るが、一度戻って来るんだぞ?お前がなくても、こちらには話したいことがたっぷりあるんだ。偉そうに忙しいなどと言っていないで、急ぎ戻って来い!誰が生み育てたか、忘れるな。優先するのは、家族だろう?分かったな?帰って来るんだ!……で、では侯爵様。ご用件は承りましたので、本日はこれにて失礼いたします」
捲し立てるようにそう言い残して、イーガン子爵は逃げるよう去っていった。
──ローワン様の仰った通りだ。子爵邸には行かない方がいい。
ローワンへの尊敬心を深めながら、アシェルは温まった身体が今度は軽くなっていくように感じられた。
──これで終わったんだ。
アシェル・イーガンはもうどこにもいない。
これからは、アシェル・ウォーラーを名乗り生きていく。
ソフィアの夫、そしてローワンの義理の息子としていつまでも──。
──平民ね。また何か大きな勘違いをしていそうだけれど。もうどうでもいいか。
十八歳。
アシェルはまだ知らなかった。
言葉の通じない者というのはまた、予想出来ない行動を起こすということを──。
読んでくれてありがとうございます♡
やっと晴れましたが、レモン彗星は探せませんでした。
暗いところに行かないと見えないかなぁ?
前回奈良時代、次回は西暦3100年代ということで、過去と未来を感じたかった~。




