27.初めて見る顔
※※※引き続き本文中に「耳が悪い」という表現を使っております。物語上の言葉で、現実にどなたも侮蔑する意図はございませんが、言葉に不快さを感じてしまう方はどうかブラウザをお閉じください。お手数おかけして申し訳ありません。※※※
<以下から物語の続きです>
「そうか。子爵は父親としての躾け、教育のための発言だったと言うのだね?」
途端に顔色が戻っていく子爵を眺め、アシェルは疑問を抱いた。
──ローワン様をよく知らない人には、これが普通の反応なのかな?
アシェルならここで安堵するなどとんでもない。
次のもっと強い攻撃に備えて、身体を固くしているところである。
しかしながらイーガン子爵はそれは安心した様子で「そうです、そうです」と頷いていた。
ローワンの一層深まる笑顔から読み取るものはないのだろうか。
「それはおかしいな。それでは子爵は耳が悪いということになる。しかし調子はいいのだったね?私の声は聴こえているかい?」
「へ?は、はい。それはもう絶好調でして。侯爵様の素晴らしいお声もよく聞けてございます」
「聴こえているなら確認しよう。除籍も終えて、すでに子爵とアシェルくんは他人になったことを報告したはずだが。子爵は常日頃から他家の子どもの躾を行っているとでも言う気かな?」
「え、いえ……あ、除籍……そ、それでも私は父親ですので。倅の教育義務は私にあるものかと」
「アシェルくんが無事成人したことも報告したね?子爵は成人してなお、躾けが必要だというお考えか?」
「そ、それも父親だからです!ほら、長く会いませんでしたので、子どものうちによく躾けられておりませんでしょう?ならばこそ出来るだけ早くと、今日は気が急いてしまいまして。先ほどは侯爵様の前で大変な失礼をしてしまいました。いやぁ、お恥ずかしいですな。はっはっはっ」
室内で笑ったのは子爵だけだった。
ローワンの顔からも笑みが消えていたのだ。
──ローワン様?
アシェルは目を大きく開いて、ローワンを見詰めてしまった。
「つまりこの七年、アシェルくんを預かり教育してきた我がウォーラー侯爵家に子爵は不満があると。私も預かり親代わりをしてきた身として、これは確認せねばならない。どこがどう不満か、ここで言ってみたまえ」
笑みなくローワンから放たれた言葉に、ぎょっとしたのは子爵だけではない。
──もしかしてこれがローワン様の本気のお怒り?
今まで本気ではなかったんだと知った途端、アシェルは我慢を忘れ、手を胸の前で交差し左右の二の腕を擦った。
読んでくれてありがとうございます♡
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本日入れ忘れていた閑話『侯爵令嬢ソフィアの憂いと決意』を2話追加しました。
読まなくても本編に影響はありませんが、良ければ合わせてお楽しみいただけますと嬉しいです。




