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【本編完結】ねぇ、それ、誰の話?  作者: 春風由実


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146.「ねぇ、それ、誰の話?」


 王都に向かう前、咲き始めた花と、沢山の蕾を見た。

 今はその花が散って、花の咲いていた場所には新緑色の丸い小さな玉が残っている。


 去年は見られなかったこの玉が、やがて色付き、果実になると思われた。

 どのように大きくなるか。どんな形で、どんな色に収まるのか。

 アシェルもソフィアも想像すら出来ないこと。


 二人がきらきらと希望を込めた瞳で樹の高いところを見上げれば。

 お返しというように枝葉を通した柔らかい木漏れ日が二人に降り注いだ。



「見て、アシェル!向こう側にも沢山付いているのよ!」


「本当だ。ねぇ、ソフィア。この枝も凄いよ」


「数えましょう!」


「そうだね。記録しよう!」



 喜びを分かち合って、二人はぐるぐると樹の周りをいつまでも回った。

 これからのこと、事実、想像、希望、推測、二人で語ればどれも楽しい。


 それは今では研究以外のことにも及んだ。

 たとえば気持ち──。



「ソフィア。大好きだよ」



 不意に口にしたアシェルの頬は、もう紅く染まらなかった。



「私もなのよ。私もアシェルが大好きなの」



 ソフィアも自然に口にして、いつものように明るく笑う。


 もう二人は、推測から想像し、現実を歪めることのないように、考え、動けた。


 王都で得た経験は、二人を研究者としてぐんと成長させてくれたから──。



 恥じることなく気持ちを告げ合う二人を、隣の樹に寄り添うトム爺は目を細めて眺めている。

 彼もまた、とても幸せそうだ。



「このあとは養蜂箱も見に行きましょう、アシェル!」



「そうしようか。セイブルは後でいいね?」



「セイブルは数日後でもいいと思うのよ!」



 トム爺にお礼を言って、屋敷に戻ってからゆっくり話すことを提案し、お土産を渡すことも伝えて。

 二人はまたゆったりとした歩みで、丘を下りていった。



「実が付いた木で、挿し木も試したいわ。早めに始めた方がいいわよね?」



「そうだね、すぐに準備をはじめよう。また養蜂箱も作って貰わないと」



 丘を降りる間は、二人はよく話した。


 来年の冬になる少し前から。

 二人は雪の降らない地域の領地に移動することになっている。


 アシェルたちは気候による影響をもっと知りたいと願ってきた。

 広大なウォーラー侯爵領内では、地域によって多少気候は異なるが、一続きの領地内での差異には限りがあったからだ。



 この度オーレリア王女が《《二人の友人として》》手配してくれたおかげで、アシェルたちは王国内ではあるが、ウォーラー侯爵領からは、はるかに遠い、気候の異なる他家の領地へ旅をする。


 様々な意味を含んだ友好の証として、王都の騎士と文官、ウォーラー侯爵家の騎士や技術者もこの旅に同行する予定だ。


 アシェルたちは領地でも実験中だから年単位で留守にすることはないが、それでもこれほど長くウォーラー侯爵領を不在にする予定は、二人にとってははじめてのこと。


 アシェルもソフィアも、今から楽しみで仕方がなかった。


 その旅の道中も楽しみなことのひとつで、いくつかの領地に立ち寄り、研究のための調査をすることになっている。

 それもあって長旅として予定が組まれた。



 まだまだ先のことだけれど、すでにしたいことは山ほどあって。

 計画を実行するための準備で、今年は冬も忙しくなるだろう。

 屋敷に留まることは少なくなると思われた。



 道中には、元イーガン子爵家の領地だった土地もある。

 さすがに他家の領地では好き勝手に出来ないが、今や王家のものとなったその場所では、好きにしていいと友人であるオーレリア王女が認めてくれているから。


 アシェルはそこで恩返しの一歩を踏み出すかもしれないし、今回は見送ることになるかもしれない。


 未来はいつでも不確定なものだから──。



 賢者にも予想出来ないことは沢山起こる。



 領地に戻ってから、三日後のこと。

 アシェルとソフィアは、口を揃えて言った。



「「ねぇ、それ、誰の話?」」



 ウォーラー侯爵領内で、この言葉を口にすることになるとは。

 アシェルもソフィアも思ってもみなかったことである。


 それも何度も口にすることになってしまうとは──。



 二人は頭を抱えた。

 領民たちの間で、結婚したアシェルとソフィアが、ウォーラー侯爵領を出て、遠い土地に移住することになっていたのだ。


 早くに始めた旅の準備が、そのように受け止められてしまったようである。

 二人が王都に行ってきた理由も、移住の準備だったと認識された。

 旅の予定が来年であるのに、なぜかもう一月後には領地を出ていくと思われた。



 人間の豊かな想像力には、もはや感服するしかない二人だ。



 誤った解釈をされないよう、他人の意識にも注意を向け振る舞わなければ。

 心に決めたアシェルとソフィアは、固く頷き合う。


 こうして二人は研究者として、さらに成長していく。


 これからもずっと二人、共に並んで。

 蜜蜂のように飛び回って、果樹のように花を咲かせ、多くの実を付けて──。






 【本編 おしまい】


長い話にお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました♡

皆様のおかげで無事に本編を最後まで書くことが出来ました。


今後はアシェル以外の視点による番外編を予定しております。

また楽しんで頂けましたら嬉しいです。

番外編開始までは少々お時間を頂きます。


別の作品も連載中です。

これから新作も投稿予定でいます。

また別の作品でも、皆さまにお会い出来たら嬉しいです!


本当にありがとうございました♡またお会いしましょう。

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