143.知られぬ罪と罰
王族、貴族に関わる重要な制度だ。
これから少しずつその制度を発展、改良していくにしても。
最初から十分な検証を行って、ある程度の形にしてから、実行に移してはどうか。
この意見には、ウォーラー侯爵家も含め、皆が賛同を示した。
しかしどのように検証していくか、具体的な議論では意見が割れた。
高位貴族たちは家門から恥を晒す者を出したくはなかったし。
ならば下位貴族で検証を行えばいいかと言えば、先に彼らがウォーラー侯爵領で学び始めるところが気に喰わない。
しまいには、他家で学ぶこと自体を疑問視する声まで出て来る。
噂のあの話ではないが、王族や貴族が教育を通し良からぬ思想に洗脳されたらどうするのだという危険性まで議論されるようになった。
むしろ禁じてはと、ローワンの話を無かったことにしようとした者まで現れた。
確かに高位貴族としては、その方が都合は良かったかもしれない。
けれども彼らは、ウォーラー一族の知恵を家門に入れたいという欲をどうしても捨てられなかった。
高位貴族たちの議論は白熱し、いつまでも話はまとまりそうになかったが。
これを止めたのもまた、ローワンの発言となる。
ローワンは《《ある論文》》を引用して、ウォーラー侯爵領が他家の貴族を受け入れたことでおそらく生じるであろう事例を上げていった。
まるで見てきたように語るローワンに、そこまで分かっているならば、もう検証は要らぬのでは?と思った貴族たちは多くいたが。
彼らはやはり黙して、一通りの例を述べ終えたローワンの提案を飲むと決めた。
自分たちが恥を知らずに済むうえ、ウォーラー侯爵家が厄介な一家を回収してくれるならば、有難いと思ったからだ。
そしてこの提案に、王家も救われている。
実は元イーガン子爵家の当主一家の扱いについて、王家はとても困っていた。
高位貴族たちにも意見を求めたが、手を出した過去をこれ以上探られたくない彼らは、イーガン子爵家に関することについては発言をしたがらない。
元イーガン子爵家の当主一家は、全員自分たちでは不正を認識していなかった。
当主として把握出来なかったことは罪ではあるが、これは家名を失うことで十分に処罰を受けたと見なせるだろう。
ならばあとは放免するだけ。
平民として勝手に生きていけ──と単純に処理することが、王家には出来なかった。
一家は高位貴族についてペラペラと語った後。
そのうえ元とはいっても、アシェルと血の繋がった家族であることに変わりはなく。
一家揃って悪意には疎く、容易に騙されやすい性分にあるときたら。
どこで誰に利用されるか分かったものではなく。
将来の憂いがないよう消したいと願う貴族と、何かに使えるかもしれないと囲っておきたい貴族の思惑は、王家にも手に取るように分かっていたし。
最も恐ろしい懸念は、一家が他国の者に利用されることだった。
だからといって王家には貴族でなくなった一家を監視付きで生涯守ってやる義理もなく、王城に残すなら適当なところで結局は消すことになる。しかしそれには、ウォーラー侯爵家にお伺いを立てねばならない。
ならば他家に預ける道は……高位貴族はこの場では検討もしたくないようだ。
オーレリア王女は、有難いとばかりにローワンの提案に即座に賛成を示して、貴族たちはこれに倣った形で決着が付いた。
こうして他家の貴族がウォーラー侯爵領に学ぶためやって来る未来は、少し先の話となったが。
それでも将来は、ウォーラー一族の教えを受けた者たちが、この国の中枢で活躍していくことになる。
彼らはきっとウォーラー一族の研究時間を奪うことなく……そうは上手くいかないだろうとウォーラー一族は考えている。
この世は分からないことで溢れているから研究を続けられることを、ウォーラー一族は知っているから。
ウォーラー一族はあらゆる想定をしても、絶対に未来をひとつと決めることはない。
これは元イーガン子爵家当主一家にも適用される。
彼らは知らぬところで、歩む未来が決定したが。
その先は……彼ら次第か。あるいはまだ導かれるか。
元イーガン子爵家当主一家の預け先は、ローワンが引用した論文の著者、セイブル・ウォーラー。
このセイブルは新制度立案のための検証における責任者に決まったが、まだ本人はこれを知らず。
アシェルたちから告げることになっている。
──本当に好き勝手してくれたね、セイブル。願い通りになったんだから、しっかり罰を受けて、頑張ってよ。一人でね?
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