89.孤軍奮闘してきた日々
今や精神的に追い詰められたジャスパー・ニッセルの脳裏には、苦労してきたこれまでの日々が思い出されていく。
オーレリア王女は、その顔を知る祖父の代から王家に問題があったと認識しているが。
ジャスパーからすると、王家の諸問題は先々王、オーレリア王女の曽祖父から始まっていた。
色狂いの王と影で揶揄された先々王は、欲望のまま次々と側妃を増やし、その結果として多くの子に恵まれたからだ。
沢山いる王子を前に、当時の貴族たちが次代の王を巡り揉めずに済んだことは、偏に先々王の正妃の人徳のおかげだったと考えられる。
彼女は増え続ける側妃らをよくまとめ、自身の子である第一王子以外が王位を夢見るようなことはなきよう、時には数いる王女たちの降嫁も利用して、貴族たちを上手く誘導していった。
幼いジャスパーが憧れた女傑である。
しかしそれがかえって責任感のない凡庸な王子たちを育み、先々王の正妃亡きあとには貴族たちの統制も崩れ、子孫の代へと国難を呼び込むことへと繋がった。
『欲があるから成長する。逆も然り』
というのは、若き日にジャスパーがある人から聞いた忘れられない言葉のひとつだ。
ジャスパーの内側の思い出を残すその場所に、先ほど聞いたばかりの言葉が追加されていた。
『欲を掻いては、全を失う』
「まさか、そうだったとは言いませんよね?どこかの家ひとつの話なら……まぁそんなこともあり得るのかもしれませんが。どの家のご当主さまにも報告ひとつ上がらなかったなんて。そんな謀ったようなことは、まず起こらないでしょう?だけどそうすると、おかしいですね?」
あろうことか、アシェルが頭を下げる王女に背を向けた。
護衛たちがまた分かりやすく顔で態度で憤っているが、よく我慢して声は出さない。
王族を守れる存在かというと甚だ疑問だが、王女への忠誠心は高いらしい。
「自分の子どもが側にいる者たちを遠ざけるようなことをしていたら。まずはそれを止めますよね?あぁ、ここでも甘やかしでしょうか?そうだとして、甘やかすほど大事にしている自分の子どもが側にいる者たちを遠ざけて何をしているか、調べないご当主さまはいるでしょうか?」
アシェルの視線が落ちた。
その美しい目は、ジェイクではなく、ジャスパーを捕えている。
「こいつらが計画してきたことなんか、高位貴族家のご当主さまには簡単に調べられましたよね?しがない下位貴族の生まれで得た知識しかない私が考えるに、王子さまの関与を知っては、まず我が子を関わらせないよう動くと思いますが。たとえばこれが、王家に厚い忠誠を誓う高位貴族の場合には、まずはどうなさるのでしょう?教えていただけませんか、ニッセル公爵?」
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