9/2 封筒
11/20夜中11時を回った道は風通しがよく心地よかった。シフトの変わりを頼まれ三連勤になってしまったが、この時間一人で歩いているだけで心の中にじんわりと温かみが広がっていく。その温もりを包むように秋の風がふんわりを体を撫でた。
車のヘッドライトが体全体を移すし通りすぎるとラーメンを勢いよく啜ったような音が後方から聞こえた。
急ブレーキの音が近くから聞こえ身構え、後方を向くが止まった車付近には人も存在しなかった。ハザードが辺りを明るくし、無事故の証明をしたところでまた、前を向いて歩き始める。
「ちょっと君、止まってくれ」
自分とは無関係。引かれてもないし、眼を飛ばしたわけでもない。それなのに後方から声が自分へと投げかけられたのがわかる。
無視するにしても後々気になってしまうので、抑揚のない声で応答し振り向く。
「なんでしょうか...」
車のライトが後方から彼を照らし、只者ではない存在であると演出するとガタイの良い彼はスーツの内ポケットに手をするりと入れる。
その仕草はスローモーションに見え、走馬灯では映画や漫画で見る悪党どもが拳銃を取り出すシーンが繰り返される。
『不審者を見つけたら通報しましょう』
『危険を感じたら大声を出しましょう』
教師が教えてくれたことは大抵忘れているはずなのに、この二つの教訓は直ぐに頭の中で優しい声で流れた。
しかし、自分の声からは小さく「へい、しり」とスマホを起動させる言葉しかでなかった。もちろん、通報をしてともいう事ができなかった。
「へい、しり」と口に出したと同時にスーツの内ポケットからするりと手首が現れ、甲が現れ、第二関節が見える。
はっきりとは確認できないが何人も沈めたゴツゴツとした手だとはわかった。
「これを、受け取って欲しい」
目を閉じ死を覚悟したのだが、私は生きていた。
それを証拠に男の焦った声が聞こえてきたのだ。
ゆっくりと目をあけると男から差し出されたのは封筒だった。
「早く、時間がないんだ」
自分がぼさっとその封筒を凝視していると封筒が何度か動いた。男がチラチラと手首についたゴツい腕時計を確認していた。
「いや、でも流石に何かわからないものは受け取ることは...どこかにとどー」
自分の中で整理し、最後の言葉を捻り出そうとした時に気がついてしまったのだ。
これは運び屋だ。
この封筒の中には違法な薬物が入っているのではないか。
もしかしたら、この男は誰かから逃げて封筒には何か、大変な事が。命を奪うことさえ躊躇う事がない程の大変な事実が。
頭の中で考えていた事が悲惨になるにつれ、何故だか体は交代し振り向き走り出した。正確には走り出したと思ったら手首を掴まれ、手に封筒を押し込まれた。
「それじゃ、受け取ってくれてありがとう」
男は勢いよく手から離れ、振り向くと既に車に乗り込み発進していた。
どうしようか。
直ぐに警察。これがベストな考えであるのは重々承知しているのだが、男がいない今、この場を少し離れ中を確認してやろうと悪ガキの心が顔を出した。
もし、違法薬物が入っていたのならそれはそれで少し興奮した。だが、使用せずしっかりと警察に届け事情を話そう。
それだけを決め、近くの公園のベンチに座り封筒の中をこっそり覗いた。
覗いただけで確認できるのは紙が2枚入っていること。手に取ると、チラシのような滑る手触り。そして、身に覚えのある手触りだった。
「これは...」
今日は体と言葉が一致しない。
内容を確認、脳内で処理、言葉を出す前に走り出していた。
「大将、これ2枚お願い」
暖簾をくぐると同時に腹から声を出し、スキンヘッドの男へと2枚の紙を渡す。
「具は何にする?」
「チャーシューで」
「あいよ」
11/20・23時59分まで有効。
たった1時間もしない間に恐怖と幸せが共存している。とてもおかしな均衡で1日を締め括ったと思い、感謝を込め封筒の皺を伸ばすと殴り書きで文字が書かれていた。
xxx病院・産婦人科・115号室




