35 彼の想い
彼は確かにエニフィール様だったのだけれど・・・。
「びっくりしましたよね?すみません」
シャツを羽織りながら笑った彼は、雰囲気がだいぶ変わっていて。
「エニフィール様、ですよね?」
「はい。僕です」
「でも、ずいぶんと大人っぽく・・・」
「はい。今の僕は22歳ですので」
「えぇ??」
私よりも5つも歳上なの??
「どういうことですか?まさか・・・」
「五年後の未来から来ました」
やっぱり・・・。
もしかしてエニフィール様は。
「私を助けるために未来から・・・」
「はい。遅くなってしまってすみません。僕の予定では結婚式の日に戻れるはずだったんですが・・・でも間に合って良かったです」
彼がわざわざ未来から助けに来てくれたということは、未来で私に何かが起こったということだわ。
「もしかして、私は本来ならあの川に落ちて亡くなっていたのですか?」
私の質問にエニフィール様は気まずそうに目を逸らした。
「エニフィール様、教えてください」
私が彼の金色の瞳をまっすぐに見つめると、彼は自分の知る未来の話をしてくれた。
私は今から三日後にあの川の下流で遺体で発見されたらしい。
そして私の遺体がアルドレアに戻ると、すぐに告別式が行われたという。
「それで、エニフィール様は私を助けるためにここへ・・・」
「はい。五年後に、体ごと過去に戻れる魔法を作ることが出来たんです」
簡単なことのように彼は言うけれど、その魔法を作るためにどれだけの時間と労力を費やしてきたのか、私には想像すら出来なかった。
それに・・・。
「エニフィール様、過去に戻って来てしまったら、もう未来には戻れないのではありませんか?」
「はい・・・。でも、僕が未来に戻る必要はありません」
「え?」
「ミリアさんが無事にアルドレアに戻れば、この世界の僕は過去に戻る魔法を創造する必要がなくなりますから」
どういうこと?
では、目の前にいるエニフィール様はどうなってしまうの??
まさか・・・。
「私がアルドレアに生きて戻ったら、エニフィール様は」
消えてしまう?
私は恐ろしくなってそれを言葉にすることが出来なかった。
そんなのだめよ・・・消えてしまうなんて。
私が恐怖に震えていると、エニフィール様が私の肩を掴んだ。
「ミリアさん、落ち着いてください」
「だめです・・・そんなこと・・・」
「ミリアさん、大丈夫です・・・。ミリアさんが死んでしまう絶望を味わうくらいなら、これくらいなんともありません。あなたを助けたら今の自分が消えてしまうことは初めからわかっていたんです。ミリアさんが気にすることはありません」
なんてことなの・・・。
どうしてそこまでしてしまうのですか・・・。
あなたの生きてきた貴重な五年間を、どうしてそんなに簡単に捨ててしまえるのですか?
どうして私をこんなにも・・・愛してくださるのですか・・・。
「ミリアさん?」
私はこれまで、彼の想いにずっと気付かないフリをしてきた。
そしてそんな彼の想いを利用していたのよ。
「ゔぅ・・・」
それを認めた瞬間、耐えきれなくなった。
彼の気持ちの重みに。
私の罪の深さに。
このまま押し潰されてしまいそうで、息が出来なかった。
「ミリアさん!」
エニフィール様は倒れそうになった私の肩を抱き寄せた。
まるで私がバラバラに壊れてしまわないようにと強く、そして優しく抱き締めてくれた。
「ごめ、なさい・・・」
私は彼に謝ることしか出来なかった。
「大丈夫です。大丈夫ですから・・・」
エンフィール様はまるで子供をあやすように私の頭を撫でてくれた。
その声と温かな手がとても心地よくて・・・。
私はいつの間にか彼の胸の中で眠ってしまっていた。




