11 また君を失うわけには
ミリア視点
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スレイン視点
私がコリーナと入れ替わってから早一ヶ月、今日はアルドレア王国国王陛下の生誕祭が行われる日だ。
私もこれからスレイン様の妃としてパーティーに出席しなくてはならないので、今まさにドレスアップの真っ只中だった。
「大丈夫ですか?」
おさげ髪の可愛い侍女、リズが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫よ。座っているとコルセットが少しキツイけれど」
「では少し緩めましょうか?」
「いいえ。今の形が綺麗だと思うわ。しばらくしたら慣れるでしょう」
「わかりました。今日はお暑いですし、気分が悪くなったらすぐにおっしゃってくださいね」
「えぇ」
やはり第一王子の妃ともなると、ドレスや装飾品がとても豪華ね。
見栄えはいいけれど、すごく肩が凝りそうだわ。
私の準備が整った頃、白い軍服姿のスレイン様が部屋を訪れた。
なんてお似合いになるのかしら!
黒い髪と青い瞳がいつも以上に映えていらっしゃるわ。
「ミリア、綺麗だ」
「スレイン様も、とても素敵です」
結婚式でのお姿を見られなかったから感動がひとしおだわ。
タキシードもきっとお似合いだったでしょうね・・・。
「では行こうか」
「はい」
スレイン様がスマートに差し出した手に、私はそっと右手を重ねた。
王族や貴族たちが一堂に集まり、大聖堂で式典を行った後、城の大広間で盛大なパーティーが開催された。
パーティーは立食形式だったが、王族席のみ用意されていたので、私は長時間着席したまま来賓たちと挨拶を交わしていた。
「コリーナ様、お顔が真っ青ですよ?」
「え?」
声がした方を振り返ると、馴染みのある女性と目が合った。
「モニカ・・・」
いけない!
私は今コリーナだったんだわ。
「はい。モニカ・ゴードンです。覚えていてくださったんですね」
「え、えぇ。姉のご学友ですもの」
生徒会で一緒に活動していた頃が懐かしいわ。
三年が経っているからか、モニカもだいぶ垢抜けたわね。
学生の頃はもう少し控えめな装いだったのに。
「ご気分が優れないのではありませんか?」
「えぇ。少しコルセットが苦しくて・・・」
「わたくしも丁度お化粧室に行こうかと思っていたところなんです。コリーナ様もご一緒に行きませんか?」
「そうですね・・・」
スレイン様はあちらで立ち話をしているし、私も少しなら席を外してもいいわよね。
私は護衛の騎士に化粧室に行くと伝えて、モニカと大広間から抜け出した。
化粧室にはリズにも付いて来てもらい、コルセットを少し緩めてもらうと少し気分が良くなった。
早く戻らないと、スレイン様が心配しているかもしれないわ。
化粧室を出て大広間へ戻ろうとすると、中庭の方を眺めていたモニカが足を止めた。
「この季節は睡蓮が美しいと聞いたのですが、少し見てみてもいいでしょうか?お城にはなかなか来られませんし・・・」
確かに、王族からの招待がない限り城には滅多に入れないものね。
「そうですね。参りましょうか」
もう少しくらいなら平気よね・・・。
廊下から中庭に出て緑のアーチを抜けると、池一面に広がる桃色の睡蓮が私たちを出迎えた。
「まぁ・・・綺麗ですね・・・」
モニカが嬉しそうに石橋を渡り始めたので、私も彼女の後を追った。
「コリーナ様は毎日この景色を堪能されているのですか?」
「いいえ。こちらまではなかなか来ませんね」
「それは勿体無いですね。私でしたら毎日参りますのに」
なんだか変ね。
モニカはこんなに堂々と話すタイプではなかったはずだけれど。
三年でこんなにも人が変わってしまうのかしら・・・。
「ではそろそろ戻りましょうか。きっと殿下もコリーナ様をお待ちですわ」
「えぇ。そうですね」
歩いて来た道を戻って石橋を渡っていると、モニカが突然声を上げた。
「あっ!ブレスレットが!」
後ろを振り返ると、モニカが池の中を覗き込みながらオロオロしていた。
「どうなさったのですか?」
「それが、大事なブレスレットを落としてしまって・・・」
「それは大変!すぐに警備の者を呼びましょう。リズ!呼んできてちょうだい!」
「かしこまりました」
リズが小走りで大広間へと向かうと、モニカは申し訳なさそうに視線をそらした。
「そこまでして頂かなくても・・・」
「でも、大事なものなのでしょう?」
私もモニカと並んで池の中を覗いてみたが、装飾品らしきものは見当たらなかった。
すると次の瞬間ーーーー
ドンッ
背中を押された私は、真っ逆さまに池の中へと落ちて行った。
「誰かっ!誰か来てください!!」
突然パーティー会場に入って来た令嬢が大声で叫んだ。
「なんだ!?」
「何事だ??」
令嬢はどよめく来賓たちを掻き分けて、なぜか私の元へと向かって来た。
すると近づいて来るにつれ、彼女が見知った顔だと気付いた。
学生の頃、生徒会の書記をしていたモニカだ。
「スレイン様!!コリーナ様が大変なんです!!」
「なに!?コリーナが??」
「池に!中庭の池に落ちました!!」
それを聞いた瞬間、私は走り出していた。
なぜミリアが中庭に?
先程まで王族席に座っていたはずだ!
いつの間に大広間を出た?
彼女は無事なのか?
くそ!
早く!
もっと早く走れ!
石橋の左右を確認しながら走っていると、池の底にうっすらと黄色いドレスが沈んでいることに気付いた。
だめだ!
また君を失うわけにはいかない!!
私は躊躇する暇もなく、池の中へと飛び込んでいた。




