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罪の銀翼  作者: 富嶽 ゆうき
第一章 日本奪還作戦
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本土上空決戦 後編

 

 ――少しばかり時を遡る。まだ両陣営が対峙した頃だ。


 シュトラーフェと蓮二は用意された格納庫の中に留まっていた。日本軍はすでに出撃している。シュトラーフェは人の姿のまま辺りをうろついている。蓮二はベンチに座って考え事をしているかのようにぼうっとしていた。

「始まりそうだ」

 シュトラーフェが沈黙を破る。ついに戦端が開かれるようだ。

「止めるわけにもいかない。ただできれば人を殺したくない。……わざわざ人が多く死ぬ選択肢を選ばなくたっていいじゃないか」

 蓮二は呟いた。誰に対して話しているのか自分でもわからなかった。頭の中を様々な思考が羅列して回る。収拾がつかない。

「アヴァロニア優勢と見た」

 時々シュトラーフェが戦況を呟くが、頭に入ってこない。意識が深い谷へ落ちていく。だんだんと辺りの音が気にならなくなった。目を閉じる。光が瞼によって遮られたそこは暗闇だ。


 だがそれを突き破ってシュトラーフェの一言が刺さる。

「昨日会った人……結、だったか。やられそうだ」

「なんだと……!?出るぞシュトラーフェ、助けに行く!」

 蓮二がそう叫ぶと、彼女は何も言わずに姿を変えた。飛び乗る。

 コックピットが閉じられたと同時に障壁が展開され、建物を破壊しながら飛び上がる。音速を優に超え、戦場へと(はし)る。



  * * *



 あまりの速さに気が動転しそうだったが、理性で強引に押さえつけ、結を探す。

「あそこだ。突っ込むぞ」

 シュトラーフェが発見したようだ。応える前に方向が修正された。超高速で空を抜けつつ、刃を取り出す。

 結は三機に囲まれていた。動いておらず、抵抗する様子はない。諦めているのか。

 シュトラーフェは、刃を振らずに構え、襲いかかろうとするアヴァロニア機の横を通り過ぎた。目で追えない急起動で三機を一度に屠る。その間も、結の機体は動かなかった。

「来たからには、逃げるわけにもいかないか」

 なんとか自分の感情に折り合いをつけ、陣形のほつれへ集中して来る敵を迎え撃つ。

 シュトラーフェが参戦した今、そこに隙と呼べるものは無かった。



  * * *



 一方アヴァロニア陣営。

 進む中隊規模のオスカー達がたった一機に墜とされていく。パットンには理解できなかった。

「戦略が……戦術機に潰されてたまるか……畜生!」

 あれが過去に報告のあった不明機だろうか。それを軽視したツケを今、払わされることとなった。

「そいつに戦力を集中させろ。絶対に破壊するんだ!」

 だが、焼け石に水。それは数を物ともせず、オスカーが次々と撃破される。

 さらに、それに手一杯になってしまったせいで包囲が完成されてしまった。

 パットンは悔しさに歯噛みする。何よりも、戦略が意味を成さなかったことが悔しかった。たった一機に全てを止められたのだ。

「……撤退しろ。全力で逃げてこい」

 なんとかその一言を絞り出した。包囲されている現在、彼等が逃げ出せるかどうかはわからない。それでもこの惨状を鑑みれば、それ以外の選択肢はなかった。



  * * *



 結局、帰投できたのは出撃した数の三分の一ほどだった。壊滅的被害だ。すぐに回復できる規模ではない。

 日本方面軍の主力が敗れた今、日本軍の侵攻を止められる戦力は、パットンの元になかった。

 矢継ぎ早に拠点が攻め落とされ、日本の領土が取り返されていく。如何なる策を講じても、シュトラーフェの前には無力だった。その圧倒的性能で何もかもをねじ伏せる。恐怖ですらあった。

 いくら工作員を使って情報を集めようとしても、情報はほぼない。彼等がただ一つわかったのは、罰を意味するその名前だけであった。


 ――そして、数ヶ月後。

 アヴァロニア軍は完全に日本から撤退した。

シュトラーフェのかませ犬のような立ち位置のアヴァロニア軍が少し可哀想にも感じます。

自分でやっておいて何を言うかって感じですが。

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