迷いと焦り
「呼び立てたのは他でもない。君達に報告しなければならないことがある」
宇垣は三人を部屋に集め、そう言った。
「日本軍がアヴァロニア侵攻の算段を立て始めた。近いうちに攻勢に出るだろう」
蓮二と結は特段驚くこともなかった。想定していた事の一つであったからだ。シュトラーフェは何か感じるものもないようで、無表情を貫いている。
「具体的な時期とか場所とかは割れてますか?」
「いや、まだ立案段階のようだ。分かり次第教えよう。それで、君はどうするつもりかね」
薄く笑みを浮かべながら宇垣は蓮二に問うた。
「まあ、自分の決めたことをやるだけですよ」
そう言って彼は軽く笑った。
* * *
その後二、三の報告を受け、三人は部屋へと戻った。
「蓮二はさ、どうするの?」
蓮二のベッドに腰掛けた結が、ぼうっと立つ蓮二にそう聞いた。
「それは今後の身の振り方の話なのか、日本軍の話なのか」
「日本軍の話に決まってるでしょうが」
蓮二は苦笑いした。
「止めたいとは思うけどね。いざ友達と戦うかもしれないってなると、怖くて」
そう語る蓮二は俯き、結から表情はよく見えない。
「そう、だね。守、まだ軍にいるもんね」
「守の他に、もう一人居るんだ。たしか、小さい時からの友達」
「それは、戦いたくないって思っちゃうね」
蓮二の言葉に違和感を覚えながらも、追随する結。そして、二人の間には沈黙が訪れた。
何か気の利いたことを言おうとしても、そんな言葉は二人とも思いつかず、ただ黙って虚空を見つめる。
その時、傍にいたシュトラーフェが口を開いた。
「蓮二はあの時、"戦争をどんな手を使ってでも全て消す"と言ってた。その言葉は嘘?」
――いつもと変わらぬ抑揚の少ない声音。シュトラーフェにとっては何気ない質問だったのかもしれない。だが、蓮二にとっては鋭利な刃物のようにすら思えた。
蓮二は一瞬顔を上げ、シュトラーフェを見つめたあと、歯を食いしばってすぐに俯いた。
「ごめん。ちょっと出てくる」
そう言って蓮二は部屋を出た。
追いかけようとするシュトラーフェ。だが、結はシュトラーフェの腕を掴んで止めた。
「私、何を、間違えた?」
シュトラーフェは悲しげな顔で、結に訊いた。目には涙が溜まり始めていた。
結は首を横に振る。
「しょうがないの」
結も悲しさの色が表情に混じっていた。それを隠すためか、優しくシュトラーフェの頭を撫でた。
* * *
――蓮二は悔しかった。
一度心に決めたものが揺らいだ事が、何よりも悔しかった。シュトラーフェに指摘されてようやく気付いたのも悔しかった。
あのままでは、何かに当たってしまいそうだった。それを必死に抑え、部屋を出た。
二人なら、受け止めてくれるかもしれない。
だが、それは甘えだ。
蓮二がそれを許せるはずがなかった。
勝手口を出て、外へやってきた。
廃墟に似せて建物から出る。地下からは分からなかったが、外は雨が降っていた。
蓮二は雨をかき分けるように歩いた。何を求めるでなく、何を目指すでなく。雨は廃墟にこびりついた泥を流し、砂を流し、コンクリートを削る。
蓮二の顔は濡れた。それが雨かどうかは、推し量ればわかるのではないだろうか。
心の動きの描写が難しくて辛いです。




