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第八十九話 連行

 俺は狸の家を出ようとして、ふと足を止める。


「ご子息様?」

「なぁレース、髪の色を変えるのは嫌か?」


 レースは首を傾げた。


「嫌じゃないけど、できないよ?」

「え? なんで?」


 染粉とか使えばここでも普通に髪の色は変えられる。

 俺もそれで黒髪にしていた。


「だって、あたしは魔の力があるもの」

「マの力……魔力? 魔力があると出来ないの?」

「魔の力はね、ちょっとしたヨロイなの。ほかの人の力から身をまもるためなんだって。

 だから髪を染めようとしても無理だよ」


 あれ? でも俺染められたんだけど?

 あぁ、魔術は無理ってことか。


「染粉っていう、魔術じゃないものなんだけど」

「魔じゃないの?」

「そう」


 レースは眉根を寄せて考え込んだ。


「………できるのかな?」

「じゃあ後で試してみよう、それまではこれ被っててね」


 俺の外套を被せ、引き摺る裾を括りあげて手を繋いで外に出る。


「あー、それと俺はミアだから。ご子息様じゃなくってそっちで呼んで」

「ミアさま?」

「ミア。様って言われるような事は何一つやってないから」

「ミア?」

「はいはい?」


 レースはくすくすと笑って俺の手を握り返してきた。


 ……まずい。すんげー犯罪臭い。


 俺は笑ってるレースのフードを深くして西下区に足を向けた。

 日も暮れかかっているから早目に休める場所を確保したいが、報酬を貰わないと手持ちの金がまぢで無い。

 キョロキョロしているレースを見ると、屋台の軽食でも買ってやりたいがそれも出来ない。


「レース、こっち。それは後で」


 肉汁滴る串焼きに釘づけになっているレースを引っ張って大通りから外れた通りにあるリットに入る。

 もの珍しそうに広くも無い、内装も無いリットの支部を珍しそうに見渡すレースと一緒に列に並び『静かにね~』と人差し指を口に当てて見せる。

 レースは意味を理解した様子でこくこくと頷き、自分の両手で口を塞いだ。


 本当、小動物みたいだわ。


 真面目に口を塞いでいる姿が可笑しくてこっそり笑っていると順番が回ってきた。


「次の――やっと来たわね」

「ちゃんと今日中に戻って来ましたよ?」

「お馬鹿。閉店ぎりぎりよ。はいこれ」


 じゃらりと皮袋を台に置かれ、俺は姉御の顔を見た。


「手続きは?」

「やっといたわよ。私が立ち会いって事で証拠になるんだから」


 さすが………さすが姉御です。手際の良さとか気配りとか最高っす。だからモテモテだったんですよ。いや、きつめの美人さんっていうのもありますけど。


 普通ならここで面倒くさーい手続きにちょーっと足止めされる。だいたい三十分ほど。


「有難うございます! 腹減り過ぎてやばかったんです! まぢ感謝っす!」


 落涙しながらへこへこ頭を下げてさぁごはんだーとばかりにレース連れて飛び出そうとしたら、ガシリと肩を何かに捕まれた。

 

 振り向きたくないけど、コレ、振り向かないと外れないよね? 外れないんだよね?


 さっきとは違う涙を流しながら振り向くと、ぎょっとしたような顔をした姉御がいた。

 え? なんで? と思ったら、俺の手を辿った先、レースを見ていた。


「ミア君…………どこから浚ってきたの?」

「ちょ、エリーゼさん! 何で犯罪!?」

「だってあなたが女の子と一緒に居たところ見たことが無かったから」

「誰がこんな物騒なとこに女の子連れて来るんですか。常識で考えてくださいよ」


 姉御は何故か心底驚いたという顔をした。


「あなたが常識を言うなんて」

「そこですか! そこに驚いたんですか!」

「まぁそれはともかく」

「……慣れましたよ。最近多いんですよ。スルーされるの。あれ? 最近だっけ? ずっと?」


 言ってて悲しくなってきた。

 姉御はそんな俺は完全無視でレースの視線に合わせるように腰をかがめている。


「ミア君のお友達?」

「え………」


 レースの視線に、俺は傷心旅行から早々に帰還させられた。


「お友達っていうか、初めましてだったかな?」

「はぁ?」

「あ、名前はレース。絶賛迷子中だったんで、お家まで送ろうかと」

「はあ?」

「という事で、宿まだ取ってないんでそろそろ行かせてもらっていいですか?」

「何言ってるの。うちに泊まればいいでしょ。どうせ今から行っても宿屋には嫌がられるわよ?」

「……ぐぅの音も出ない」

「はいはい、さっきからお腹は正直に鳴ってるわね。

 レースちゃんも、お話し聞かせてね」


 姉御、おどしてやんないでください。まだまだ社会経験皆無な感じの子なんですから。

 頷く事も出来ずに俺を見つめるレースを後ろに隠し、俺は頭を掻いた。


「あーすんません。この子ちょっと人見知りするんで」

「みたいねぇ……本当に浚ってきたとかじゃないのよね?」


 後半、囁く様に尋ねられて俺はじと目で姉御を睨んだ。


「ちーがーいーまーす」

「わかった。わかったわよ。拗ねないでよ」


 いやだから頭を撫でようとしないでくださいよ。


「ちっ」


 避けたからって舌打ちしないでくださいよ。


「ほら行くわよ」


 がっちり腕を掴まれて外へと連れ出された。

 本当は宿を決めたらちょっと行きたいところがあったのだが、この分では今日はもう何も出来ないだろう。


 なるべく早くグランに連絡取りたいんだけどなぁ……


 嘆息して見上げた空は既に紺色。ぽっかりと空いた日の世界の穴のように月がその身を晒していた。


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