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第九十話 絡み酒?

 目の前で酒の入ったカップを傾けるエリーゼさんを俺はどうしたものかと眺める。


 にしても姉御のとこに泊めてもらって良かったー……

 言動が幼い気がしてたけど、日常的に使う道具の使い方も知らないとはな。

 あぁ違うか。道具は生活環境に左右されるか。


 最難関だったのは風呂。家庭に風呂なんてないから大きな桶をつかって身体を洗うのだが、レースにその概念が無かったので姉御が一つ一つ教えてくれた。着替えの服も姉御が貸してくれて着方も面倒を見てくれた。さすがにこれは俺では無理だ。

 食事はナイフとフォークを見たことも無いと言って棒状態。こっちは俺でも教えられるかと思ったけど姉御が楽しそうに教えてくれて、俺はそれを眺めているだけ。


「ねぇ、あの子どこの子?

 地方から出てきたにしてもナイフとフォークを知らないのはちょっとね?」

 

 二階で寝ているレースを見上げるように天井に視線を向ける姉御。

 

「旦那さんは今日戻らないんですか?」

「質問に質問を返さない」


 ガツンとカップが頭に振り下ろされた。痛かった。


「エリーゼさん、今のは完全に『姉御』ですよ。見事なまでに『姉御』です。また『姉御』って呼びますよ。広めますよ」

「うふふふふふ。そうなったら私は『姉御』としてあなたを教育し直さなきゃね」


 俺の頬にぐりぐりとカップを押し付けないでください。酒臭いです。俺一応まだ未成年です。ちょっと考慮してくれるとうれしいなー……なんて、いえはい。すすめられてないから大丈夫ですね。そうですね。


 目が据わってるような気がするけど、あれは直視したらだめだと俺の本能がガンガンに警鐘を鳴らしている。


「えーと……俺もどこから来たのかっていうのは分かってないんですけど」

「それでどうやって家まで送るのよ」

「そこはそれ、超能力でですね」

「またわけの分からない事を……んじゃああっちは?」

「あっち?」

「イーズァ。なんでミア君がイーズァと知り合いなの」

「あぁ、イーズァですね。呼びづらい事この上ないイーズァですね。エリーゼさんもお知り合いですか?」

「そんなわけ無いでしょ。あのイーズァの知り合いなんて聞いた事ないわよ」

「あのってどの? っていうかあの覆面フードでよく相手が分かりましたね」


 姉御は頬杖をついて酒臭い息を吐いた。


「私じゃなくて旦那がね。

 旦那はイーズァを見たことがあるのよ。旦那はグレリウスの出身だからね」

「あれ? そうなんですか?」

「言ってなかった?」

「ないない。近衛所属だからてっきりいいところの次男か三男かと」

「旦那が!? それはないわ!」


 あっはははははと笑い、バンバン机を叩く姉御。


 この姿を姉御に懸想していた連中に見せてやりてー……


「旦那はね、もともと傭兵だったの。で、パージェスに来て……って旦那の事はいいのよ。何でミア君が知り合いなのかって事よ」


 あ。立ち返った。さすがだなー、酒入っても本道忘れないとか。


「あいつそんなに有名なんですか?」

「有名よ。一部の傭兵とか、グレリウスとかでは。知らないの?」

「知らないですねぇ。あんまり言われたくないのかな」

「…………何で喧嘩してたの」


 数段低い声に、俺は言葉を濁す。

 姉御が心配してくれているのはわかるが、あれは情けなさすぎるので言いたくない。


「ちょっとした意見の相違でして」

「敵対したとか言わないわよね?」

「むしろ逆?」

「逆? 逆でなんで喧嘩するのよ」

「いや、そうなんですけど……」


 口ごもる俺をじっと見て、姉御は『あぁ』と頷いた。


「そういえばミア君は子供扱いされるの嫌ってたものね」

「……子ども扱い?」

「ほら、パージェスに居たとき時々喧嘩騒ぎがあったでしょ? ミア君ちっちゃかったから常識ある奴らは巻き込まれないように守ろうとしてたじゃない。それをあなたは子供らしからぬ冷めた目で要らないって言ってたでしょ」

「……あー…………要らんと言った覚えはあります」

「全く可愛くなかったわ」

「可愛いとか言われたくないのでおっけーです」

「イーズァもあなたを子ども扱いして、それであなたが反発したって事ね」


 俺は強いんだーとか言ってしっかり体調不良の少年にノックアウトされちゃったわけで………間違っては無い気もするのが微妙だな。


「でも何で彼があなたに固執するのかしら? どういう関係なの?」

「エリーゼさん。探ってます……よね? イーズァの事」

「探って何が悪い。あなたは知らないだろうけど、イーズァって言ったら――」

「エリーゼさんエリーゼさん」


 遮ると、姉御は不機嫌そうに顔を歪めた。

 俺は苦笑しながら減ってきたカップに酒をつごうとする姉御の手を掴んで止めた。


「旦那さんに心配かけちゃ駄目ですよ」

「旦那はミア君がしゃべるなら大丈夫って言ってた」

「俺はイーズァの事は知らないんですよ。だから大丈夫じゃないんですかね。

 って事で、見ざる――はともかく、言わざる聞かざるでいきましょう」

「……それでミア君は大丈夫なの? 気にならないの?」

「まぁ。見ていればそれなりに人となりはわかるじゃないですか。違ってたらあはははって事で」

「笑いごとじゃ済まされない事だってあるのよ」


 目がまじになっている姉御に、俺は肩の力を抜いてへらっと笑う。


「笑いごとですよ。俺の責任でどうこうなる範囲なら」

「あなたね」


 姉御は顔を引き攣らせ、俺を睨んだ。


「まぁまぁ、大丈夫ですよ。俺だって危険かどうかぐらい考えますから。

 それより酒を飲んでるのって旦那さんの帰りが遅いから?」

「違うわよ」

「昨日は飲んでなかったですよね」

「いつも飲むわけないでしょ」

「それを聞いて安心しました」

「ちょっと! 酒乱だとでも言いたいの!?」


 俺はぱたぱたと手を振り、姉御の腹を指さした。


「お子さん、いるんじゃないんですか?」

「………え……?」

「お酒はあんまり良くないですよ。その子にまでまわっちゃいますから」

「………………………え?」


 呆然として俺と自分のお腹を見比べる姉御。


 あ、違ったか。


「……いるの? わかるの? なんでわかるの?」

「違ってる可能性大ですけど、おかんが下の子を身ごもった時と感じが似てるっていうか。なんとなくなんですけどね」


 常日頃から恐ろしいまでのサバサバ具合を誇っていたおかんが、そんときは絡み酒をしてきたのだ。俺はまだ小学一年だったのに、目の前で酒をくらって説教をおっぱじめられて、ほとほと疲れた記憶がある。

 姉御もレースや少年の事は気にはなるだろうが、普通ならここまで突っ込んでこないような気がした。遠回しに『話す気はない』と言えば、子供の時の俺に対してでも引いてくれるのが姉御だった。


「兄弟、いたの」

「居ましたよ。兄も弟も妹も。俺は次男でした」

「………過去形なのね」


 あ。


「あはは。他意はないです。エリーゼさんが過去形で聞くから」


 前の生の話を出してしまった。いやいや、別に生き別れとかそういう類じゃないんでそんな泣きそうな顔をしないでくださいよ。泣き上戸は面倒だから勘弁してください。


「今も生きてると思いますよ。ちょっと連絡が取れないだけでみんな元気にやってると思います。兄貴なんか嫁さん貰ってるかと思うと腹立たしいほどですけど」

「腹立たしいって、喜んであげなさいよ」

「男兄弟は複雑なんですよ」


 水を汲んできて酒のカップを取って代わりに水の入ったカップを置くと、姉御は無言でそれに口をつけた。


本当の絡み酒とはこんなものではない! と、思われた方。

全くその通りですねー。

相槌を録音してエンドレスで流して寝たくなります。


愚痴はおいといて、改訂版を4月あたりにと言っていましたが

現状一章のキルミヤと青年パートまでしか完成しておりません。

坊ちゃんと少年とクロクロ(を入れるかはまだ未定)のパートが残っておりますので、それが出来たら一旦あげたいと思います。

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