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第七十話 正しい使用方法はいずこへ

 フライパン。主に炒める、焼くなどの調理法で用いられる鍋の一種。

 厳密に言えば炒め鍋とフライパンは別物だが、似たようなものなので俺はそう呼称している。

 材質はアルミニウム、鉄、ステンレス、チタン、琺瑯びき、テフロン加工など様々あり、最も威力が高いと思われるのはチタン――って違う。現実逃避しようとして現実に戻ってくるなよ。


 だめだなこれは。

 インパクトが強すぎて軽いトラウマになりかけている。


 俺がまだパージェスのリットに出入りしていた頃、姉御に言い寄る男が居た。

 流れ者で言葉に南方の訛りがあったので、ラドルゴ語圏の人間だろうと俺は静かに観察していた。

 姉御が大男をブッ飛ばしたところを見たことがあったので、別段心配はしていなかった。どちらかというと、いつブッ飛ばされるのだろうと思っていた。


 そうしたら、邪険にした姉御に切れた男が剣を抜いた。

 さすがにこれは止めないとと思ったが、運悪く周りには誰も居ない。武器もなく、素手で大人に対抗するにはどうしたものかと使えるものを探そうとした時だった。

 一瞬の内に姉御は奥に駆け込んだかと思うと、例のモノを手にしており、男の剣をあろうことかソレで捌いて、殴った。たぶん、かなりの力を込めて。


 ソレがひしゃげる程の力で殴れる姉御がすごいのか、それを受けても死ななかった男がすごいのか。

 怒気を発しまくっている姉御にびくびくしながら、男の状態を確認した俺はチキンなりに頑張ったと思う。

 

 その後もすりこぎ、やかん、厚鍋、まな板などなど。多彩な攻撃方法を姉御は披露してくれた。


 だから何で調理器具なんだ。リットの奥の部屋は一体どうなっているんだ。事務所的なものじゃないのかと気になって気になって聞いたら、住込み用の部屋があったらしい。


 もうその辺りはどうでもいいが、俺の中で調理器具のイメージは変わった。

 今思い返してみても、やはり凶悪性トップはフライパン。僅差で厚鍋がくるが、フライパンの方がリーチがあり使い勝手がいい――


 使い勝手ってなんのだよ……


 だめだ。やめよう。もう考えるのはやめよう。

 どことなく俺と同じような怯えた顔をしながらも、姉御の手から凶器を没収してくれた旦那さんに目礼。


 ありがとうございます。本当にありがとうございます。


 暗茶の髪に同系色の目、性質が顔に出ているとでもいうのか、本当に穏やかそうな旦那さん。

 昨日世話になったばかりだが、またもや世話になってしまった。


「まぁまぁ、知り合いみたいなんだから落ち着いて」


 ぎっらぎらした目をしている姉御を宥めるなんて俺には無理。直視すら無理。

 だから俺は別方向で頑張ろう。


「少年、ややこしいから行ってくれ」


 小声で少年を促すと、少年はこちらを見て小さく笑った。


 ……? 


 思わず離れようとした少年を俺は掴んでしまった。


「?」

「?」


 顔面にハテナを浮かべた少年に、俺もハテナで返す。


 いや、お前今笑っただろ。

 姉御の反応を見て『これなら大丈夫』とでも言うかのごとく。


 一旦――間合い的な意味で――距離を取れば、後は強引にでも逃走しようと思っていたのだが、なんだろう。なんかすごい怖いのだが。どこまでも追っかけてきそうな恐怖感があるのだが。

 これは天啓か? 少年を掴んだ俺の手は天啓を受けたのか? 追われる恐怖を味わうよりは視界に入る中に留めて臨機応変に対応せよと、そう言っているのか?

 いやいや無理だろ。俺動けなくなるだろ。あ、少年の場合は動けるんだっけ? でも確実に動けるか不明だし………いやいやいや。えー……と。あれ? 俺どうしたらいいの?


 少年の腕を掴んだまま固まってしまった俺。


「それにね、彼はイーズァでしょ? ほら、イーズァ。リットにいる君なら知ってるでしょ?」


 絶賛姉御宥め中の旦那さん。

 イーズァというのは少年の偽名か本名か。掴んだ手から伝わる少年の強張りでどちらだろうかとどうでもいい事を考える。


「………ミア。離してください」


 低い声で小さく囁かれた。


 あ。そりゃそうか。少年にも都合というものがあるだろう。


 何気に偽名で言ってくるあたり状況判断すげーなと思いながら手を離し――たところを、別の手が掴んだ。

 気付いたら、俺も掴まれていた。


 俺と少年は掴んだ相手を見た。


「悪いとは思うんだけど、ちょっと説明してくれないかな?」


 薄ら涙目の旦那さんだった。



 ………負けたんですか

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