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第四十三話 手にした力は

 次期当主の長兄と軍に入り功績をあげる次兄。

 なら、第三子()は?

 

 長兄程の賢さもなく、次兄程の剣技の才能もない、私は。

 

 父上も母上も、兄達も、教師達も、誰も、気にしない。

 血が滲むまで剣を握っても、どれだけ勉強をしてみても――

 

 決まった会話を交わし、決まった作法を繰り返す。

 共に暮らし、共に食事をしてみても、手が届かぬほどに遠い。

 視線が私に向けられても、意識は私に向けられない。

 

 十三の時、無理やり魔術の素質が無いか調べて、あると分かった時、やっと抜け出せると思った。

 やっと、やっと………


 来る日も来る日も勉強した。分からない事は分かるまで、知らない事は説明できるまで。

 私はサジェスの人間。優秀でない者はサジェスの人間ではない。

 魔術を扱える者はそれだけで優遇されるが、私はそれに甘んじる気はない。


 私は優秀な成績を収め、そして魔導師団員になる。軍の一部でありながら、個人に与えられる裁量権は時に将軍をも凌駕する魔導師団員。そうすれば――


 なのに……なんで……なんで…あんな……

 

 

 

 

 貴様は何をしているのだ? 恥さらしが

 

 

 

 

 違う! 違う! 私はっ! 私……は……………

 

 

 

 

 サジェスの者なら、力を示してみよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倒木や落ち葉、蔦が足をすくって思ったように走れない。

 心臓は爆発しそうな勢いで限界を訴え、息は追いつかず目が霞む。

 邪魔な外套は既に脱ぎ去り、聞いた場所へと急ぐ。

 

 ここまで来て邪魔などさせない。

 

「待てって!」


 パージェスの声。

 

 誰が待つか。

 私は力を示す。貴様などに邪魔させない。

 

 手が切れ、頬が切れるのも構わずせり出す小枝を押しぬけて――見つけた!

 

 一段低く窪んだ黒い地面に不自然に一輪赤い花が咲き、その周りを青水晶のような色合いの玉が空に制止して取り囲んでいる。

 

 転がり落ちながら近づき、

 

「触るなっ!!」

 

 聞いた事のない怒声に、一瞬身体が硬直した。

 

 振り向けば、青ざめた顔をしたパージェスが木に手をついていた。

 

 

 パージェスが顔色を変えている。焦った様子で、こちらを睨みつけて。

 あの眠るばかりの、やる気のない、何に対しても感心のない、パージェスが。

 

 

 口が、笑みに吊り上がった。

 

 

 なんだ? 何に焦っている? 私が力を手にするのを恐れているのか?

 

 

 はは……………ははは……………………はははははははは!!!


 

 なんだ貴様も同じか! 所詮卑しい腹の子だものな! 何も無ければ追い出されるだけだものなあ!? 所詮隠している力というのも大した事が無いのだろ!?

 だがな、これは私のものだ――貴様などにくれてやるわけがない!

 

 

 血濡れた手を水晶の一つに叩きつけると、パージェスの眼が大きく見開かれた。

 

 

 貴様の顔を見てこれほど愉快になるとは思いもしなかったなあ?



 パリッと、薄いガラスが壊れるような音がして、血がついた水晶がボロボロと崩れ、他の水晶も反応して次々に崩れ去ってゆく。

 そして最後に残った一輪の花に、そっと手を伸ばした。

 

 真紅の花は、触れるとほろりと花弁が落ちた。


 一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚……

 

 落ちても落ちても花弁は減らず、夢幻の色香が溢れるように次から次へと赤が増え、気付けばあたりは真紅に染まっていた。


「……え?」

 

 足元も、右も左も、空さえも、全てが真紅に染まりきっていた。

 

「これは……そうか、私を守る力か」

 

 従順な様にほくそ笑み、私を包むように重なった花弁に手を伸ばす。

 今必要なのは守りの力ではなく、示す為の力。揺るぎようのない、絶対的な力を示すのだ。


「私に、従え」




〝汝 相応しき者なれば〟




 …………え?




 くぐもった不明瞭な声が聞こえたかと思うと、伸ばした手の先に、花弁が伸びて人に似た形の何かが形成された。

 胴から下は花弁に埋もれ、そこから先は男とも女ともつかない不気味な人型。顔はなく、のっぺりとした表面だけがこちらを向いている。


「な、なんだ……これは」


〝汝 憎悪を求めるか〟


「ぞうお?」


〝汝 嫉妬を求めるか〟


「し、嫉妬?」


〝汝 混乱を求めるか〟


「混乱?」


〝汝 血を求めるか〟


「……血?」


 問われる言葉の目的が分からず、徐々に戸惑いが膨らむ。

 

 

 なんだ……これは………これはなんなんだ? 力が得られるんじゃないのか!?

 

 

 不気味な声に、不気味な人型。膨らんだ戸惑いに恐怖が混じり、本能的に後ずさった瞬間――突然のっぺりとした顔が横に割け、巨大な目玉が剥いてこちら見た。

 

 

 

〝汝 宿主にあたわず〟

 

 

 

 全ての花弁が今まさに覚醒したかのように一斉に目玉を剥き、すべての視線が硬直したまま動けないこの身に突き刺さった。


とりあえず今のうちに謝っておきます。ごめんなさい、坊ちゃん。


それは置いといて、坊ちゃんが手に入れようとしたものは

『赤』『真紅』とくれば、今までの中で出てきた名詞に繋がるのは一つ。

でもそれって結局なんですか。という事については、次以降で出る予定です。

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