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第四十一話 新境地?

 早朝のひんやりした空気を吸って伸びを一つ。


 ひと眠りして、状態は完全に元に戻った。

 ここまで持ち直せたのは間違いなく青年のおかげだろう。ついでに、腹も括らせてくれた。


 あんな若者が必死に足踏ん張って生きてるっていうのに、おっさんがじたばたしてたら情けない。

 正直どうなるか分かったもんじゃないが、それはそれ。まーなるようにしかならない。

 考えてもしゃーない事を考えないのは得意だ。


 朝餉の用意をしていると、ごそごそと坊ちゃんが起きてきた。柔らかそうな金髪に寝癖がついてるのが可愛くて頬がひくつくが我慢。

 坊ちゃんは物凄く不機嫌そうな顔をこちらに寄越して、すぐに逸らして木々の合間に消えた。


 ほげーっと様子を見ていた俺は、ふと閃いた。


 あの坊ちゃん、もしかしなくとも末っ子じゃないだろうか?

 そうならあの態度は………寝癖のごとく、かわいい。


 上の兄弟たちへの対抗心はあれども、力に差があれば乗り越えるのは難しい。だが、自分を認めさせたい。自分の力を認めて見て欲しい。そんな欲求をどう表現していいのか分からず、他者を威嚇し従える事でしか接触が出来ない。なんといじらしい。


 ………別に俺はロリコンでもそっちの趣味があるわけでもない。本当に。


 歳の近い男兄弟だと壮絶な権力争い意地の張り合いになってしまうが、ある程度離れると『仕方ないな~こいつは~』って感じになってくる。俺の場合精神年齢(なかみ)はおっさんにまで達しているので弟というよりは子供…………子供?


 え? あれ? ………精神年齢でいけば坊ちゃんが子供って……俺いまいくつだ?


 変な焦りで無意味に鍋をかき回してみる俺。だが、雑穀がかき回されて沸騰の対流と合い合わさり複雑な動きをし始め、芸術的なまでに俺の動揺っぷりを現していた。


 二十七で途絶えて、こっちで十七、通算四十……四……………………


 把握はしていたつもりだが、何となしにしか考えて無かったので改めて自覚すると物凄い衝撃だった。


 うゎー……四十四て………四十四て……………嫁なし子なし職なし四十四て……

 いやいや、分かってる分かってるよ。十七なんだから、末席貴族の十七なんだから職ないのも嫁なし子なしなのも分かるよ。

 でもね、四十四だよ? たぶん俺の兄弟みんな結婚してんじゃね? 可愛い嫁さんもらって子供に囲まれてんじゃね?

 あのままあっちで生きてたとしても俺が可愛い嫁さんもらえたとは言い切れないけどさ! でもなんか想像すると、あの奥手の兄貴が嫁さん貰ってるとか! あぁー………駄目だぁ………めでたいと思う反面、負けた気分に…………くっそ見とれよ! 外人顔負けのグラマーねーちゃん捕まえてやる!

 …………いや、冗談だけど。そんなねーちゃん目の前にしたら緊張して何も話せんと思うけど。

 所詮俺はどこへ生まれようとも変わらぬチキンくおりてぃ。嫁さん出来る自信なんて皆無だ――

 

 ――って考える自分が悲しいな~


 ………。


「…………なんか………たき火ってあったかいな……」


 朝っぱらから自爆してしょんぼりしながらたき火に手を翳していると、坊ちゃんが戻ってきた。

 坊ちゃんは何も言わず鍋を見つめだした。


 無言で鍋を見つめる一年二人。


 ……まぁ、少年や青年の無言の威圧に比べれば平気なんだけどさ。


 ちらっと周囲へ視線を向ければ、早朝という時間帯で頭がぼんやりしているのか、他の班もさほど会話は見られない。

 だが、さほどであって皆無ではない。ぼそぼそと何がしかの会話をしており、お互いに叱られ具合を慰め合ったりしている気配がある。


 視線を戻し見れば、依然鍋を注視している坊ちゃん。

 見ようによっては『腹減った~ メシまだ~?』に見えないことも無い。


 あ、もしや昨日の味付けが気に入らなかったとか?


 持ってきた調味料は限られているので、いつも学食で食べているような至極の味は出せないが、それなりに食べれるものではあったと思う。現におかわりもしてくれていたので、アウトでは無かった筈だ。


 ………ひょっとして『俺の方がうまく出来るぜ!』的な?


「貸せ」


 不意に坊ちゃんが口を開いたかと思うと、俺が持っていた杓子を奪ってかき混ぜ始めた。


 え……マジで『俺の方がうまく出来るぜ!』なの? ……ちょっと俺、自信無くすんですけど。

 何気に自炊して自画自賛してた自分が痛くなってくるんですけど………既に傷を負ってる(自爆したての)俺にはこれ以上の追撃は辛いんですけど……


「何故、力を隠す」

「いや全力だよ。この味が俺の全力だよ……」


 四十四の限界だよ。それで駄目ならお手上げだ。好きにしてくれ。


「……………違う。これは……味は……うまいと思う」


 ……へ?


 驚いて顔を挙げると、ものすっごい複雑そうな顔があった。

 一瞬俺の脳みそはフリーズしかけ、すぐに冷凍解凍。瞬時に導き出していた推測を再び思考に引き戻す。


 ……え、と? 今の、デレ? デレっすか?








 っ! デレ入りましたーーーーー! 








 なにこれ!? すげえ! おくさん、生デレだよ!? しかも予想外の俺様坊ちゃんの生デレ! やべえはまる! いやはまらん! はまるってやばいだろ俺! 何考えてんだ! うわ混乱してる! そして褒められて微妙にこそばい!


 何言ったらいいの俺? 何したらいいの俺? さっぱり分からないんですけど!!

 昨日はどん底まで落とされて復活した途端に豪華イベントって、何ナノこの状況! いや豪華って何で俺、コレを豪華だと捉えてるわけ!? 俺そっちなの!?


 若干どころでなく盛大に慌てふためき興奮しつつ、長年培ってきたポーカーフェイスで「そりゃありがとう」と何とか、返す。


「別に………褒めたわけじゃない」


 褒めてるよぉ!? 十分褒め言葉だったよ!? これ、女だったら伸される男が多いんじゃね!?


 やばい。俺の精神が別な意味で削られている。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。俺に変な趣味はない。何、たかがデレだ。男のデレだ。


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