第二十七話 出したものはしまってください
やめよう。
窒息させるとなると酸素を動かせばいいが、電波な存在に酸素が通じるか分からない。空気を無くされた日には真空パック坊ちゃんの出来上がり。火傷や切り傷どころではなくなる。
何か無いのか。こっちの常識でなくたっていいんだから。
えーと……防犯グッズ。防犯グッズでいけば、警報音。唐辛子スプレー。スタンガン。
…………出来るかなぁ? 下手すりゃ昇天だよなぁ。
なぁ、雷って分かるか?
俺を包む風が動きを速める。
「まてまて! 落ち着け。すぐにやろうとするな」
慌てて言えば、動きは納まった。
あー焦った。こりゃ駄目だ。スタンガンも無理。電波ちゃん相手に威力これぐらいで~とか調整が難しすぎる。
他に何か無いのか防犯グッズ。使おうなんて考えたことが無かったから他に………
そーだよ! 逆だよ逆! 犯人の思考でいけばいいんだよ! クロロホルムだ! 違った、イソフルラン! いや違ってはないけどイソフルランで!
って、電波ちゃんに分かるかよ!
俺は拳を握りかけたところで、己に突っ込んだ。
結局のところ電波ちゃんとの意思疎通がままならないと、どうにもこうにもやりずらい。うん。同調力は必要だ。
でもまぁこれなら何とかなるだろう。ついでに、坊ちゃんも焦って大技出そうとしているようなので、このあたりで終わりにしないとこちらが拙そうだ。
眠る、眠たくなるって分かるか?
ふわっと風が舞う。
何だか不満げな感じがするのだが、不満という事は分かるという事だろう。
あの坊ちゃんを眠らせられるか?
この問いには、簡単だと言うように動きが早まる。
それを確認していると、ぼっちゃんの大技が完成したようだ。俺も電波ちゃんに頼んでみる。
じゃ、やってみてくれるか。
片手を空へ、片手を地へ向けたぼっちゃんが不自然にたたらを踏んだ。
おーーぉう?
が、ぼっちゃんは踏みとどまり最後の口頭契約を唱えあげた。
「其は波動の素 其は基の要 汝ら集いて爆と成せ!」
坊ちゃんの両手に集まる流れが凝縮され―――
と、そこでぐらっと姿勢が崩れてゆく。既に目に力はなく閉ざされかかっている。
「ぅをいっっ!!!??」
何て中途半端なところで終わっちゃうの!!
そんな危険物持ったまま寝るなよ!! やったの俺だけど! でもそのタイミングは無いだろ!!
突っ込む暇も無い。俺は猛ダッシュ。
口頭契約の内容からして火系統よりの何か。とっておきなのだろうから威嚇程度の威力ではない事間違いなし。それを手のひらに出現させたままとなると完全に自爆。
「せめて消せってんだよっ!!!」
倒れた手から離れかけた見えないソレを思いっきり蹴り飛ばす!
空高く飛んで行ったソレは、暫し経ったところで盛大な爆発を起こした。
あー………なるほどねー………
俺を爆殺しようと。
あの規模だと余波は避けられないし、吹っ飛ばされた地面やら石やらが地味に怖い。
ふぅ嫌な汗かいた。
額の汗をぬぐい振り返ってみると、何故かみなさんずっこけていた。
をいをい皆さん。今の試合のどこにふぁにーな要素があったと言うんだい? こちとら殺されかけてんですよ? そんなにおもろければ変わってくれれば――
あ。いや、寝てる?
教師以外にも学生がかなり居たのだが、学生の方は軒並み野外で昼寝を始めていた。教師の方はふらついているのが二人程、もう三人は真顔でこちらを睨んでいる。
え……え…??
「勝者キルミヤ・パージェス!」
突然名前を呼ばれてびくっとして見れば、スレンダーさんにニッコリと笑いかけられた。
「キルミヤ・パージェス。夢魔の檻を解きなさい」
むまのおり? ……むま……夢魔? 夢魔の檻? ……………あ。はい。
俺は手を横に振りながら電波ちゃんたちに眠りを解除するように頼む。
手を振ったのは、それが魔術でよく使われる解除の型――だったような……
こうしておけば、電波ちゃんじゃなくて魔術によるものと思うだろう。たぶん。
審判のスレンダーさんも夢魔の檻だと思ったらしいし。たぶん、大丈夫。たぶん。
「キルミヤ・パージェス。勝負はつきました。宿舎に戻りなさい」
いつもより丁寧な口調でスレンダーさんは俺に言い、くいっと顎で行けと命じる。
ぼちぼち目を覚ましだした生徒達が何が起きたのかとざわめきだしている。これで坊ちゃんが起きたら卑怯だ何だと言われそうなので、そそくさと退散した方が良さそうだ。
一応礼儀かなと思って、まだ寝ている坊ちゃんに一礼してすたこらさっさとその場を逃げた。