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Episode0:異世界からの来訪者

───ねぇ、臆病な聖女様。何故、貴女は僕を助けてくれたの?


紅い瞳を持つ少年は『臆病な聖女様』にそう尋ねた。『臆病な聖女様』は少年と同じ、薔薇のように紅い瞳を大きく見開くと、優しく微笑んだ。


───君に、生きていて欲しいから。


たった一言、そう言って聖女は少年の頭を優しく撫でる。それは、少年にとって初めての感覚だった。幾度となく望まれた『死』の中で、聖女だけは少年に『生』を与えた。


彼女の言葉で世界が彩られたその瞬間から、『臆病な聖女様』は孤独な少年の世界の中心になった。


───……変な人…


聖女から与えられた『生』に、少年は紅い瞳を細めて嬉しそうに微笑んだ。


───それは、孤独な少年が『愛』を知った日。







その日は、なんてことの無い普通の日だった。いつものように、学園で生徒が勉強に取り組んでいた時、学園内にある礼拝堂が激しい光に包まれた。


「な、何だ…この光は…!!」


バタバタと足音を鳴らしながら、生徒や教師が礼拝堂に向かう。其処で目にしたのは、激しく光り輝く、女神像だった。


「女神像が光って…!!」


「待て!!女神像の足元に、魔法陣が…!」


今まで起こったことが無い、その光景に誰もが啞然としていた時、女神像の足元に魔法陣が浮かび上がり、魔法陣の上に光に包まれる『何か』が現れた。


「っ、まさか…!!『召喚』か?!」


何かが『召喚』されたのではないか、と生徒がそう叫び、その言葉に生徒はざわつく。教師は、何があっても良いように戦闘態勢を取り、生徒を下がらせた。人々の注目を浴びて、その場に現れたのは──────


「……」


────腹を抑え、血を流す一人の少女だった。目を閉じていた少女の瞼がゆっくりと持ち上がり、その濁った紅い瞳が混乱や恐怖で固まる人々へ向けられる。そして、小さく口を震わせながらも少女は声を発する。


「……だ、れ…」


少女のか細い声が、静かな空間に響き渡った。


「女、の子……?」


「な、なんであんな血だらけで…!!」


「人間が召喚されるなんて、聞いたことねぇぞ!!!」


誰も動けず、誰も何も言えない中でカツカツ、と靴音を立てながら少女に近付く一人の男が居た。白く、長い綺麗な髪をさらりと揺らした男は、少女に回復魔法を掛けると気を失った少女を抱き上げて、ぽつりと呟く。


「───初めまして、異世界からの来訪者」


そうして男は少女を抱き上げたまま、来た道を戻り始めた。その深く紅い瞳を、何処か悲しげに揺らしながら。






─────この世界には、度々異世界からの来訪者が現れる。


…まぁ、所謂『聖女』と呼ばれる存在だ。『聖女』は異世界に召喚され、旅のなかで仲間との絆を深めていく……大体はそんな感じだろう。『聖女とは病を癒して、人々から愛される存在』…それは、とてもありきたりな物語。


これは、そんなありきたりな物語。ありきたりな世界に『聖女』として召喚された、『愛』を知らない少女の物語。

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