5-1 4つ目の飴
エリックを好きだと自覚してから考える。
私もらってばっかりだな・・・
気球に乗せてくれて、コース料理をご馳走してくれたし、
ネックレスもくれた。
私も何かお返ししたいな・・・
「彼へのお礼ねぇ」
今日は、友人のルーシーと街へ出ている。
そこで、文房具屋のショウウィンドウにあった、
万年筆に視線が吸い寄せられた。
素敵!
「これなんかいいんじゃない?」
私は思わず言う。
ガラスペンが主流だが、
上流階級の男性は万年筆を使うと聞いた事がある。
エリックが持っているかは不明だが、
便利そうだし、喜んでくれそうだ。
「でも高いわよ」
ルーシーの言葉に、お値段を見てうっとなる。
高い・・・
決して買えない金額ではないが、
気軽に買える金額でもない、
これはいくら便利といっても、普及するには、
まだまだ時間がかかりそうだ。
もっとお金があれば・・・
家に帰って考える。
そう言えば、ルーシーが、
彼氏が賭博についつい大金を使い、
すっからかんになって、
このまま付き合うか考えると言っていたなと思い出す。
賭博か・・・
普段の私なら絶対に手を出さない。
堅実が一番。
でも・・・・ちらりと瓶を見る。
心が読める飴。あれがあれば大金が手にはいるんじゃ。
エリックに向ける気持ちとは、
また全く違う意味でドキドキする。
もし失敗しても、私の財産がなくなるだけだし・・・・
ルーシーの彼氏のように、
ハマって家のお金をつぎ込むような真似はしない自信はある。
試してみようか。
次の休日。
カジノへ行くにはドレスが必要だが、
いきなりドレスで家を出ると不信がられるので、
外出用のワンピースで家を出て、
まずブティックへ行き、ドレスに着替える、
そのブティックで髪まで整えてもらって、
借り馬車に乗ってカジノに向かった。
身分の証明がいるが、一応子爵。
持っていた身分証で、あっさり通された。
中に入ると、マスクが渡される。
それを付けると、カーニバルに来て、
違う自分になった気分になる。
最初は開けた静かな部屋だったが、
ゲーム会場に入ると、いきなり賑やかになった。
大量のコインが行きかう音。
がやがやと騒がしいものの、
ある程度の身分の者しか入れない為か、
上品な空気ではある。
その事にほっとしながらゲームを見て回る。
ルーレット・・・・ジョーカー・・・・
最新のゲームらしく、
スロットという機械のゲームもあった。
いくら休日とはいえ、こんなに沢山の人が、
ゲームに興じているのにびっくりする。
2時間ぐらい、じっくりとプレイを見て、
これだというゲームに決める。
ゲームは単純。
トランプ全部から、何のカードを引いたか当てるだけのゲーム。
おそらく初心者向けの賭け事なのだろう。
ハートやスペードといったマーク、
数字を提示し、当たり具合によって、
お金が増えたり減ったりする。
「このゲームをするわ」
私は丸い真っ赤な椅子に腰かける。
飴を口に含み心を読む。
『ハートの3』
私は手渡された紙に、ハートの3と書く。
掛け金は100万ポンド。
私のほぼ全資産だ。
手が震え、緊張で心臓がどくどくと煩い。
参加者全員が書き終わった所で、
カードがめくられる。
「ハートの3!」
そして、参加者の書いた紙が確認され、
私の紙が捲られた時、ざわつきが起こる。
「ハートの3だ!」
「当たった!?」
「どんなトリックだ」
「凄い幸運だな」
いろんな声が飛び交う。
私の100万ポンドは一気に1000万ポンドとなった。
続けて、もう一度参加する。
今度は幾分か冷静に紙に書く事ができた。
『クローバーの11』
私はクローバーの11と書く。
そして、カードが捲られ。
「クローバーの11」
私のカードが確認されて、
ざわつきは最高潮になった。
「2度も続けて?」
「こんな事があるのか?」
「詐欺ではないのか?」
少し雲行きが怪しくなったので、
私は席を立つ。
「1億ポンドです」
完全に当てた為、1000万ポンドの10倍になり、
1億ポンドになってしまった。
正直、これ以上は怖い。
飴ももうなくなりそうだし。
私は慌てて外に出ようとする。
すると、
「レディ?賭博場のルールはご存じでない?」
「?何か?」
「これは失礼、初めて見る顔ですしね、
私はライアン・ギルバート、
このカジノの胴元です。
ルールとして、一定以上稼いだ参加者は、
私と対戦してもらう事になっています」
「負けたら?」
「もちろん、その代金を頂きます」
つまり、あまりにも稼いだ人には、
プロである胴元が対戦して、
お金を返してもらうシステムになっているという事ね。
このルールが、本当に正しいのか知識はないが、
ここで事を荒げるのは得策ではないと思う。
「勝ったら?」
ライアンは面白そうに、
「もちろん代金を支払いますよ」
と、笑顔で言った。
負けるなんてありえないと言った、余裕の表情だ。
対戦ゲームはライアンが決める。
ゲームはカードゲームだ。
私はほとんど経験がない、
これは負ける事が決まったようなものだろう。
ギャラリーがずらりと私の周りを囲み、
異様な雰囲気が出来上がる。
心臓がどくどくと音を立て、頭がふらふらする、
緊張感で何とか意識を保っているような感じだ。
震える手を何とか抑え、カードを捲る。
心を読める飴の力で何とか戦おうとする。
しかし、ライアンは先の先の先まで、
戦略を組み立て対応してくる。
心が読めても、それらを上手く利用しきれず、
どうしても手に迷いが出てしまう。
負けるかもしれない・・・・。
何とかゲームにはなっているが、
このままだと押し切られると、焦りが生まれる。
その時。
『このカードを入れ替えて・・・』
ライアンが腕元に隠したカードと、
自分の手持ちのカードを入れ替えた事が分かった。
私ははっ!と反応する。
「ジャッジ!」
思わず叫んだ。
これは相手が詐欺行為をしたと分かった時、
審判に確認を求める事ができる制度で、
もし、本当に詐欺をしていたら、
相手の負け、詐欺をしていなかったら、
言い出した方の負けになる。
どちらにしてもこのまま対戦しても負ける、
なら、これに賭けた方がいい!
そうして、ライアンのカードが確認される。
「ハートの12、捨て札にもありましたね」
カードは1枚つづのはず、
それが2枚あったという事は、詐欺だという事だ。
ライアンはどこか呆然として。
「俺の負けだ」
そう言って、握手を求めて来た。
会場内から大きな拍手が送られる。
結局、1億ポンドは10億ポンドとなり、
8000万ポンドで家の借金を返し、
無事にエリックへのプレゼントの万年筆を手に入れたのだった。




