北大陸へと向かう船の上での出来事 ①
船の上。
結構、海が荒れていて揺れている。
魔法を使って身体を固定したりもしているから、睡眠をとったりするのも問題はない。
ただし他の人達は船が揺れるからこそなかなか寝付けないとかもあるらしい。
ちなみに海の上は魔物が多く現れるのもあって、魔物避けの魔法具などを装着しているそうだ。
ある程度の強さの魔物は、これで襲い掛かってこないというのだから凄い。……代わりにその効果が適用されない魔物は襲い掛かってきたりするらしいけれど。
長旅になることは予想されているけれど、正直無事につかないことはないだろうと思っている。
魔物に襲われたり、海が大荒れしたり、船が壊れたりしたとしてもどうにでも出来るだろう。
フォンセーラとノスタは海が荒れているせいで中々休めないというので、夜の時間は魔法を使って寝やすいようにはしてあげることにした。
……ラウレッダ達には「普通なら海に慣れていなければ体調を崩したりするはずなのに」と不思議そうにされた。
魔法を自在に使えることはそこまで広める気はない。ただラウレッダ達には軽く魔法で問題ないようにしているとだけ伝えておいた。ラウレッダ達は特にそれ以上何か聞いてくることはなかった。あくまで北大陸に到着するまでの関係でしかないと割り切っているからだろう。
俺達もラウレッダ達がどういう種族で、どういう暮らしをしていたかとかそういった細かいことは聞いていない。
母さんの信者達の暮らしには興味があるし、北大陸がどんなところかとかは聞ける範囲で聞くぐらい。
それ以上踏み込みすぎないようにはしている。
北大陸はかなり広いらしいし、しばらくは北大陸をぶらつくつもりでもある。だから北大陸の住民たちといざこざなどは起こらない方がいい。必要であれば戦ったり、排除したりはしなければならないだろうけれど。
それにしても揺れてはいるけれど、安定感はあるんだよな。
魔法の技術とか、造船の技術とかが栄えているってことなのだろうか。食べ物に関しては現地調達も多そうで、移動中に網を使って魚の魔物を取ったりなどもしていた。
最初の数日は比較的平和に終わっていたと思う。
特に俺達がやるべきこともないのでのんびりしていた。船の上とはいえ、やっていることと言えば地上と変わらなかった。
あとは釣竿を貸してもらえたので、海が落ち着いている時は釣りをしたりする。ただそれだけでも楽しかった。
地球での旅行だと船よりも飛行機での移動の方が多かったなと思い起こす。
あとは電車とか。船って飛行機よりも移動に時間がかかるからなぁ。
母さんって神様なのに、当たり前の人間の女性の一人として暮らしていたのだなと思うとそれも不思議な感覚になる。
だって母さんが産まれたこの世界は、地球とはあまりにも違いすぎる。それに母さんって俺が想像しているよりもずっと長生きをしているはずだ。
父さんと出会って、結婚して暮らす期間って母さんにとっては短い期間のはず。それこそほんの一瞬ぐらいだろう。それでも母さんって文句ひとつ言わずに、神の力も使わずにただ父さんの奥さんとして生きていたんだよな。
そう考えるとうん、俺の両親って本当に仲が良いなと改めて思う。
母さんや父さんとも会いたいなぁ。母さんが父さんを独占したがっているから、少なくとも父さんに会うのは先のことになりそうだけどさ。
……あれだな、俺がもっと力をつけることが出来たら自分から会いに行ってもいいな。
「咲人、何ぼーっとしているの?」
俺が船の上から海を眺めていたら横にやってきたクラにそう問いかけられる。
他の人達が聞いていないからといって普通に喋っているな……とそれだけ思った。普通の猫として乗船しているはずだから。
クラが喋るだけの力があって、神獣だと呼ばれる存在だと知られたら北大陸の人達にとってどういう扱いになるのだろうか。
俺のこともそうだけど、北大陸が母さんへの信仰心が強い人種ばかりが居るからどうなんだろうなぁ。
なるべく母さんの息子だってバレないで過ごせた方が平和なのだけど、何処まで隠せるやら。
「船に中々乗らないから、ただ海を眺めたくなって」
「ふぅん? そっか。僕も海の上ぶらぶら散歩したいなぁ」
「散歩行くならラウレッダ達に見られないようにな?」
クラなら単身で海の上を散歩に出かけたりすることぐらい簡単である。海の上を歩いたりすることも出来るしな。ただ普通の猫はそんなことは出来ないので、ばれないようにはしてほしいものだ。
「うん。じゃあ、ばれないように散歩する。面白そうな島とかあったら探索してきてもいいなぁ」
「いってもいいけれど、戻ってこれるか?」
海に飛び出し、小さな島を探索して……なんて行くのは自由だけど、この広い海で戻ってこられるのかと疑問だった。
「うん。どうにでも出来る! でも咲人が心配するなら遠くまで行きすぎないようにするね」
クラはそう言って楽しそうに笑った。
それから翌日にはクラはラウレッダ達に悟られないように散歩に向かったようだった。




