CAROL
今日は、小梅とレイさんを伴って、魔石を買いにいく。魔石には天然と人工が
ある。天然魔石はモンスターからドロップし、ランクによって出力が変わる。
IAに使われるのはドラゴンのだったりする。一方、人工魔石は錬金術で
生み出されるもので、術者の技量によってはドラゴンの魔石より上位になる
事がある。父さんが、ノリノリの時にうっかり作ってたりする。
たしか、クロ兄とベル姉のIAはそれが使われてるはずだ。夕霧もかな?
今回、欲しいのはそんな大層な石ではなく、だって僕7歳だし、おこずかい
で買える程度のやつだ。魔石はチャージできるので、使い捨てではない。
限界はあるけど。その性質を利用して空の魔石で訓練する。チャージする
時に、属性や許容量を見極めたり、調整をしたりと主に魔力操作の練習が
できる。満タンにしたものを売る事もできる。
魔力操作自体は、今現在でもそれなりにできる。ただ、いかんせん子供の
身体。魔力量を増やすため、毎日使い切るまで石に魔力を注ぐ。
復活した魔石は、屋敷の維持に使われ、僕のおこずかいになる。
働かざる者、食うべからずである、せちがらい。
向かってるのはキャロル魔導具店。ボタン先生の学園時代の同級生が
やってる店で、いろんな物が売られている。
「いらっしゃいませ、カエデ様。」 うさんくさい笑顔で迎えられる。
「今日も魔石をお願い。だいぶ魔力量も増えてきたから、ランクが上のを。」
「もうですか?さすがガーネット家の方ですね。では、Bランクの物を
用意しますね。」
「ありがとう、それと魔導銃を見せてほしいのだけど。」
「魔導銃ですか?あったかな?ちょっと捜してみます。」 店員さんに頼む。
「銃型希望とは珍しいですね。」
「まあ、趣味というかロマンというか・・。」
そう、キャロルとのやり取りでもわかるように、その取扱いの難しさで銃型は
人気がない。複雑な機構の割に威力が弱いし、広域魔法が使えない。ロッドの
ほうが使い易い。しかし、結局「白華」を使う事になるのだから、この身体に
なじませておきたい。
キャロルに命じられた店員さんが、埃のかぶった箱を二つ持ってきた。
「ああ、これね・・。今はこの2丁しかないようです。どちらも同じ職人が
趣味で作ったピーキーな銃です。」
「見せてもらうね。」
一つ目の箱を開けて、IAに魔力を流すと小ぶりな黒いハンドガンになった。
フォルムは少し丸みを帯びており、円形の大きなダイアルがついている。
このダイアルで属性を変えるのか、おもしろいな僕好みだ。
もうひとつの方にも魔力を流す。すると今度はライフルに。ヘカートじゃん!
たしかにピーキーだ。だがしかし、好き。
よっし、キャロルと交渉だ!
「両方とも気にいったよ。でも、お高いんでしょう?」
「ハンドガンの方が金貨30枚、ライフルの方が金貨80枚ですね。
ガーネット家にはお世話になっていますから、両方あわせて90枚で
どうでしょう?」
う~む、さすがに高い。7歳のお子様が金貨なんて、持ってるわけねーし。
両親にねだるか、だめだ夕霧をもらったばかりだ。と悩んでいると、キャロルが
「私の依頼、受けてみませんか?報酬はこの2丁です。」
「依頼内容によるけど、とりあえず聞かせて。」
「はい、カエデ様はドラゴンにお詳しいですか?」
「まあ、家が家だからそれなりには。」
「では『雷龍』は、ご存じですか?」
「確か、カラーズにもエンシェントにも属さない幻の龍だよね?」
斑鳩時代に何回か会っているので、よく知っている。雷神とつるんで空島の
奥地にいる。
「幻と言われていますが、確かに存在しますし魔石もあります。帝都のお得意様
から欠片をお預かりしていて、チャージを頼まれているのですが、雷の属性を
持っている者がいなくて困ってたんです。お父様のロイド様は雷魔法もお使い
になるので、ご子息のカエデ様も、もしかしてと思った次第です。」
レイさんがピクリとする。落ち着いてレイさんとアイコンタクト。なる程、
確かに僕は雷を使える。斑鳩がオールだったから。小梅も頭の上で身じろぐ。
小梅も使えるもんな。しかし、気になる事がある。
「確認なんだけど、帝都で雷といえば『雷帝』だよね。まさか
関係者じゃないよね?正直、関わりあいたくないんだけど・・。」
ちなみに両親は、がっつり関わっている。
「気がつきますよね。関係者ではなくて本人の依頼です。カエデ様と同い歳の
娘さんがいらっしゃって、プレゼントするIAに組み込みたいとの
事なんです。」
「いやいや『雷帝』なんだから、自分でやればいいのでは?」
「力が強すぎて、石が耐えられなかったそうです。」
なに?制御できないの、脳筋か!いや雷筋だな。これからは「雷筋」と呼ぼう。
欠片って言ってたもんな。
雷龍の魔石は直径50センチ位ある。討伐して得るものではなく、気に入った人に
プレゼントという謎の習性だ。その為「けっこう、ストックあるよ!」って
言ってたな。「ありがたみぃぃぃ~!」って突っ込んだ覚えがある。
かくゆう僕も何個かもらった。「箱庭」の動力源として役だっている。
さて、どうする?銃は、まじ欲しい。しかし、「雷筋」の娘なんていうフラグは
へし折りたい。同い歳なら学園編で会うかもしれないし・・・。
う~ん・・よし!
「仕事は受けるよ、銃が欲しいし。約束して欲しいんだけど、誰がチャージしたか
は絶対秘密。『雷帝』にも両親にも、できる?」
「もちろんです。商人は信用第一ですし、カエデ様には未来を感じております。
グッフフフ・・・。」 やばない?この女。
「あと、欠片全部チャージするから、小梅とレイさんの口止め料を用意して。
小梅は魔力回復のネックレスを、レイさんには小太刀のIAを。」
レイさんの咳払いが聞こえたけど、気にしない。
「了解しました、すぐに準備いたします。」
キャロル太っ腹と思うかもしれないが、雷の魔石はレア中のレアで、虹貨が
何十枚もいる。しかも相手が「雷帝」なら、大儲けだろうからこれ位のおまけ
は当然である。しばらくして必要なものを持ってキャロルが戻ってきた。
銃は仕事の完了時に受け取る事にして、魔石は空間魔法の施されたクマさんの
ポシェット・・・。
「おい!なんでクマ!」
「いやいや、カエデ様の年齢で怪しまれないプリチーなものを、
ゲヘへへ・・・。」
今、プリチーって言ったよね、プリチーって。クッ、確かに「僕7歳」だった
SAM値が、ガリガリ削られる。レイさんは「可愛い・・。」と顔を赤くしてるし
小梅は毛を逆立てている、頭の上で・・爪痛いから・・。
「とにかく2週間後に持ってくるよ。」
「よろしくお願いします。」
帰りの馬車の中で、小梅にネックレスを付けてあげる。尻尾ふりふり嬉しそう。
目がクリックリ、可愛いな。レイさんにIAを。
「まじで内緒にしてね、僕の将来に関わるから。」
「カエデ様、別にワイロを貰わなくても黙ってますが、
それよりなぜ私が小太刀だと?」
「いや、だってレイさん、他のメイドさんと違って母さんの弟子でしょ?
それに身体の動かし方を見てたらわかるよ。」
「それだけで?」 とつぶやいている。
「まあ、せっかくだから使ってよワイロ。」
「わかりました、ではありがたく。」
レイさんが魔力を流すと、小太刀に変形。夕霧と同じ黒刀、流行ってんのか?
「はじめまして、主。名づけをお願いします。」
「カエデ様が付けてくれませんか?」
「えっ!僕が・・・う~ん、夕霧と同じ黒刀だから夜霧なんてどう?」
「夜霧・・・いい名前ですね。あなたの名前は夜霧です。」
淡く光り、パスが繋がった。
「カエデ様、一生、一生大切にします。」
重い、重いよレイさん。そんなやりとりをしてる間に屋敷に到着。
魔導銃の為にがんばるぞー。
あっ、小梅も手伝ってね。臭い物を嗅いだ猫の顔をした。
それから、2週間、僕と小梅のデスマーチが始まった。