ORPHANAGE
「九十九さん、いる?」
「いますよ。」
「春さんも、連れてきたよ。」
「九十九・・・。」
「久しぶりですね、春。玉藻が動きだしました。」
「はい。カエデから聞きました。」
「隠れるのですか?」
「いえ、今回は逃げずに向き合うつもりです。」
「そうですか・・。決して取り込まれないように。」
「わかっています。」
「九十九さん、質問があって。玉藻って刀を使っていたと記憶してるんだけど
流派とかあるの?」
「特にはないですね。ただ、妖刀『朧月』を使ってました。」
「どおりで・・・。その朧月だけど、今は誰が持ってるの?」
「私が使ってますよ。」
「そう、良かった・・。んっ!とすると玉藻は今、妖術以外武器がないわけだ。
もしかすると、玉藻はダルタニアに隠れてるんじゃあ?」
「武器の調達ですか?」
「うん。あそこならいろんな武器を作れるし、ドワーフは魅了を防げない。」
「・・・可能性は高いですね。どうします?」
「う~ん、カチコミたいところだけど、今はまだ春さんが弱すぎるかな。」
「申し訳ありません。」
「いや、向き不向きがあるからね。気にしないで。」
「春は少し気の弱い所がありまして、三尾なのは私や玉藻と同じですので能力
自体はひけをとらないはずなのですが・・・。」
「考えてみればそうだよね。春さん、ここはひとつ腹を括って刀術と銃を
学んでみようか。」
「わかりました。やってみます。」
「刀術どうしようかな?九十九さんはどっかで学んだの?」
「いえ、独学と言うかツバキの動きを見てですね。それと、私のユニークスキル
に『先読み』というのがありますので。」
「それはなかなか強力だね。タチバナ流+未来予測か・・やばいね。」
「やばいのは自負していますが、先読みは消耗が激しくていざという時にしか
使えないんです。」
「なに事もリスクはあるね。んっ!まてよ、春さんのユニークスキルが変化だと
したら・・もしかして・・。ねえ、春さん。僕に変化できる?」
「できます。」 ボンッと春さんが僕になった。
「さっき渡した刀を構えてみて。」
やっぱり思った通りだ・・僕はトウヤでうちかかる。シュッと春さんが消え
僕の後ろに現れる、間違いない。
「ありがとう、春さん。戻っていいよ。」 春さんは、肩で息をしている。
「どういう事ですか?」
「九十九さんの先読みと同じく、春さんの変化もユニークスキルのようだよ。
しかも変化は姿形だけではなく、能力もコピーできるようだ。さっきの
春さんの動きは、斑鳩流の写月という技でね、素人にはできない技だよ。」
「成る程、それで私が先読みを使った時の様に消耗してるんですね。」
「すごいよ、変化は。これで春さんの育成方針が決まったよ。」
「どうするんです?」
「ひたすら体力作り・・・。」
「ですよねえ・・・。」
春さんが肩で息をしながら、暗い顔をした。
「これはあれだね、九十九さんが先読み、春さんが変化、玉藻が魅了という事では
ないのかな?」
「私もそんな気がしてきました。」
「だとすると玉藻は魅了を使うと、かなり消耗するんじゃ?」
「そうだと思います。」
「なんとかなりそうな気がしてきたよ。」
さて、用事も済んだし聞きたい事も聞けたしガーネットへ帰ろう。
「九十九さん、じゃあまた。この父さんの船は5時間くらいでガーネットに
着くから、たまに戻って森で霊力をチャージして。」
「わかってましたか・・・。」
「まあね、帝都の霊力の少なさは問題だね。原因はわかってるの?」
「いえ、時間がある時に調べてはいるんですが・・・。」
「僕の方でも調べてみるよ、スローな学園生活がままならなくなるから。」
ワイズにも頼んでおこう。まさかワイズのせいではないよな・・・、不安。
「小梅、みんな呼んで。帰るよ。」
「わかった。」
「じゃあ姉さん達、また。クロ兄達に卒業おめでとうと伝えて。」
「わかったわ。気を付けて帰るのよ。」
「うん。」 ベル姉に抱き締められた、ウホッ!
諭吉が羨ましそうに見ている・・・。
「あら、諭吉君も抱き締めてほしいの?」と言ってアリ姉が諭吉を抱き締めた。
「肋骨が痛い。」 諭吉は首を絞められた、良かったな諭吉・・。
帰りはのんびりと船旅を楽しもう。春さんのユニークスキルがわかったのは
収穫だな。魅了も完全ではないという事もわかったし。
明日はそんな事などという、怒涛のケーキの仕込み。ギャップすげえ・・。
さっ、夕食だ。何を食べようかな?リビングに行くとみんな集まっていた。
「諭吉は明日、仕込みだね。」
「そうだな。」
「僕もケーキの仕込みを手伝うよ。小梅達は先週と同じ感じで。」
「わかった。」
「週末は松月庵に入るよ、シュリ叔父さんが居ないからね。」
「そうか、そうだったな。」
「松月庵にも孤児院から派遣されると思う、明日の朝、婆ちゃんに確認するわ。」
「わかった。」
「春さん、夕食後ひと休みして体力作りね。」
「・・・わかりました。」
デザートも食べ、自由時間。
春さんの体力作りに、小梅達が付き合うようだ。僕は自室で考え事。
ダルタニアに行くとなると、イド君で傍までいって地下は別な移動手段がいる。
小梅達に頼むか・・う~む、あっ、バイク。戻ったらテストしよう。
使えそうだったら、人目の無い所で乗る分には問題ないだろう。
あとは魅了対策か、昔読んだ小説だったら聖水とか霊水をぶっ掛ければ解けるんだ
けどな。霊水はたっぷりある、ダメ元で用意しておこう。
婆ちゃんに孤児院の事も確認しなきゃ。ふぅ、こんなもんかな。
僕も少し、身体を動かしておこう。訓練場へ行く。
「カモナ、ゴーレムお願い。」
「かしこまりました。」
僕用のゼロ君クラスのゴーレムで、気を抜くと怪我をする。封魔ブレスをはずし
桜花の剣で戦ってみよう。身体強化なしでどこまでやれるか・・・。
来た!さすがゼロ君、速い!オートで結界が発動、動きは見えてるが身体が追い
つかない。結界のお陰で怪我はしないが・・全然だめだな。結局、身体強化を
してかろうじて勝利。これは、むずかしい。身体強化の時間を延ばすか、逆に
封印して素の身体を鍛えるか・・・。う~ん、よし!身体強化は非常時に使おう。
毎日1回、ゼロ君ゴーレムと戦おう・・。ああ、スロライ・・・。
いつの間にか来ていた諭吉も、ゼロ君ゴーレムに挑戦するようだ。
忍者の諭吉もスピード命だ。だが、ゼロ君ゴーレムは諭吉より速い。
結果、1撃で吹っ飛ばされてエンド。
「強えーな、このゴーレム。」
「僕は身体強化なしで、1日1回挑む事にするよ。」
「俺にもやらせろ。スピードで忍者が負けちゃだめだ。」
「確かに。」
その後、小梅達を呼んでお風呂。春さんはへとへとで木の葉のように小梅達が
起こす波の上を腹だして漂っていた。がんばれ!春さん!
翌朝ガーネットに到着してたので、そのままランニング。春さんは遅れているもの
の、がんばって走っていた。祠に参拝して素振り、春さんの木刀を頼まないと。
食堂へ行くと子供達が集団で食べていた。そっか、院の子供達だな。
たくさん食べて大きくなれよ、などと思いながら僕達も朝食を頂く。
院の子供達は、僕達に興味深々だ。そりゃそうか、同じ子供だったわ。
そこに婆ちゃんとシスターが来た。丁度いいと、僕達を子供達に紹介する。
「初めまして、カエデ・ガーネットです。ここの次男をやらせてもらってます。
こいつはユキチ・ショウゲツ、蕎麦屋大将です。そして、小梅は雷猫で、
美月はヤタガラス。イチとニイは狛犬です。春さんは三尾の妖狐で修行中です。
みなさんは、ガーネットの未来です。たくさん食べて学んで遊んで、でっかい
人間になって下さい。」
「人じゃない・・・。」「可愛い・・。」などとざわざわしている。
「みんな、静かに!」 リーダーっぽい女の子が注意する。
「初めまして、カエデ様、皆様。私はロシエといいます。この中では年長です。
パティスリーの方で働かせて頂いてます。この度は孤児院の移転、ありがとう
ございます。みな、暖かい布団においしい食事で大変喜んでいます。
このご恩は必ずお返しします。」
「あ、いや・・。そんなに固くならないで。同じ子供の僕が言うのもおかしい
けど、子供の仕事はよく遊び、よく学べだよ。楽しくやろう、みんな!」
「はい!」
婆ちゃん達は、ニコニコとその光景を見ている。
とりあえず自己紹介も終わり、それぞれの食事に戻る。食べ終わり朝礼だ。
「お早うございます。今日ですが、僕はパティスリーの仕込みに入ります。
ミランダさん、どんな感じですか?」
「はい、バロン様に店舗の拡張をして頂いたので行列はかなり緩和できるかと。
仕込みの方は、ロシエとリンクが入ってくれたのでほとんど終わってます。
あとはパイ系の仕込みですね。」
「おお、それはすごいね。2人はやっていけそう?」
「はい。2人ともパティシエ志望なので真剣に取り組んでます。あと、飲みこみ
もかなり早いですね。」
「将来、楽しみだね。松月庵も今日は仕込みだけど、新しい人はいるの?」
「はい、マツリとタクの2名です。料理人志望で、蕎麦は知らないそうです。
院の方で料理の手伝いをしていたので、包丁はある程度使えます。」
「了解。諭吉、よろしく。」
「丸投げか・・、わかった。それと明日、牡蠣蕎麦をデビューさせる。」
「あれは、旨かったなあ・・。美月はユキチのサポートを。小梅達は明日
忙しくなるから今日は自由にして。ミランダさん、婆ちゃんの所に寄って
から行くね。じゃあ、そんな感じでよろしく。」
ノックして中に入ると、爺ちゃん婆ちゃんが居た。
「カエデちゅわん。」
「お早う、爺ちゃん。孤児院の移転ってもう終わったの?」
「ええ。今は子供達の教育カリキュラムを作成してる所ね。基本の読み書きは
必修にして、それ以外は自由に選択できるようにしようと思ってるわ。」
「ミランダさんのとこの2人、諭吉のとこの2人。それ以外にも働きに出る人
いるの?」
「そうね、年長で読み書きをクリアーしてる子が他にもいたから、ソフィアの
所に3人、ロバートの所に1人。あと、年長ではないのだけど本人の強い
希望でガークの所に1人ね。」
「そうなんだね。んっ!ソフィアって誰?」
「なにを言ってるの、メイド長じゃない。」
し、知らなかった・・。マリア先生のお母さんはソフィアっていうのか・・。
あれ?昔、聞いた事があるような・・・イカルガの時だな。
「優秀な子供達は、学園にも送り出すつもりよ。」
「それはいい考えだね。」
「ところでカエデちゅわん、ダルタニア共和国の奴らが少々、領内に入り
込んどる。暗部にマークはさせておるが一応注意しておいとくれ。」
「ダルタニアが・・・。」
これは思ったより早く、玉藻とやりあうのかな?まっ、ライブで考えよう。
今日はパイ作りだ。
「バート達もシュリ君達もおらんからな。まあ、わしと婆ちゃんとソフィアが
いれば事足りるがな。」
と言って、ニヤッと笑った。そういえば爺ちゃんの得物ってなんだろう?
「了解。注意しておくね。」
執務室を後にして、パティスリーへ向かう。厨房ではパイ作りが始まっていた。
「ミランダさん、僕は何パイ?」
「ミートパイ、お願いします。」
「了解、何個?」
「800個、お願いします。」
「うひょぉ~、了解。」
「あのう・・。」
「なに、ロシエさん?」
「カエデ様が、お作りになるんですか?」
「カエデでいいよ。そうだよ、800個なんて楽勝さ。」
「貴族様ですよね?」
「まあ、一応、貴族様だね。」 ミランダさんが笑いながら説明する。
「ロシエ、カエデ様はね菓子作りの天才よ。私の師でもあるのよ。」
「「えっ!」」 リンク君も驚いている。
「よしてよミランダさん、師だなんて。成行き成行き。それはそうと
ミルクレープは今回、出すの?」
「はい、試験的に160個程。」
「あれも、旨かったなあ・・。きっと人気商品になるよ。」
さてと、ミートパイミートパイ。
「カモナ、手伝って。」
「かしこまりました。」




