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プロローグ 

長かったので前半と後半を急遽分けることになりました。 ご迷惑をおかけして申し訳ございません。


初めての方は前編

雪月花~正義は少女を守り悪に堕ちる~からご覧ください。

12月26日 東京 新宿 ~江蒼 英明~


 穏やかなる日常は、いつだって突然に失われるものだ。


 やれやれとため息をつきながら、俺は一人3年ローンが残った日産を駆る。

昨日はクリスマス。 部下二人は当然のように明日まで休みを取っており、予定のない俺はそんな二人に呪いの言葉を振りまきながら仕事を一人で片付け、日付が変わると同時に帰宅をした。 


 今年で37、当然妻はいない、彼女もいない。仕事一筋15年、警察という組織に入ってまじめだったかと言えばそうでもないが、少なくとも市民の為に命を懸けて戦ってきた。


 だが彼女はいない。 いるのは生意気な部下二人と、この日産だけ。

そして今はその部下さえもおらず、渋々と出動命令に従っている。

 

 不公平だ……。 


 俺が何をしたというのだ。 逆恨みした馬鹿野郎が、きっと俺の人生を狂わせるために四方八方に手を尽くしているに相違ない。

 

 畜生め、見つけ出して即刻射殺してやる。 


「しっかしまぁ、年明けも近いのにテロだ何てご苦労なこって」


 半ば呆れ、半ば関心しながら、俺は逃げ惑う守るべき一般市民達の姿を見る。


 狂乱状態というのが正しい言葉だろう。

女性はハイヒールなど脱ぎ捨てて悲鳴を上げながら走り、男はひたすら髪の毛を触っていた手を必死に振って全速力で駆けている。


 反対車線は車でごった返してクラクションが鳴り響き、それと同じかそれ以上に怒号が飛び交っている。 


 それに対してこちらは気楽なもんで、悠々と現場へと車を走らせる。

曇っているのは心だけだ。


 まぁ二回目とはいえ、先月起こったテロは夜だったからまだ騒ぎも大きくならなかったからよかったが、今回は真昼間に東京のど真ん中でのテロだ。無理もない。


 「まったく……」


 ため息をもう一度漏らしながら、落ち着き払ったナビの声の通り道を左折すると、目的地が見えてくる。


 テロリストが現在立てこもりを続けている場所……新宿 クライムタワー。


「出来たばかりでテロリストの潜伏場所に使われるとは、ついてないねぇ」


 相棒の日産をナビの言うがままに走らせ、そのまま目的地へと到着する予定だったが、予定よりも随分と手前でバリケードが作られていた。

こんなに広範囲を封鎖する意味があるのかと俺は一度思案をするが、作られているものは仕方ないので同業者の人間の近くで一度停車し、人払いの新人君に警察手帳を見せて中へと侵入する。


 これまた作戦本部も随分とビルから離れた所にあるもので、俺は疑問を感じながらも車を止めて外に出ると、待っていましたとばかりに中年の叔父様が腹と頬を揺らしながらせかせかと小走りでこちらにやってくる。


「お待ちしておりました。 貴方が捜査一課の秘密兵器……ですか?」

「秘密兵器かは知らんが、異常事態専門捜査係 江蒼英明だ」


おぉっと周りにいた取り巻きから声が上がる。 確かに、彼らからして見えば聞いたこともない名前だろう。

 

 警察には完全に存在を隠匿された係・部隊がいくつかある。 その代表的なものはSATだ。


 彼らは表立っては活躍はしないが、その存在をほのめかすことによって抑止力ともなっている。 


 だがそれと反面、表立つこともなければ、抑止力にもならないので完全に存在を隠匿されてしまう係りもある、そのうちの一つが俺が率いる異常事態専門捜査係である。


 まぁ、俺の係がどんな仕事をしているのかとか、俺の仕事が堂生きてくるのかというのはこの際問題ではないのだろう。


 なんで異常事態捜査を担当する俺がこんなテロの現場に赴くことになり、部下二人はのうのうと休みを満喫することを許されているのかといえば、答えは簡単だ、上は現在の所属部署ではなく俺の過去の所属部署に目をつけて今回出動命令を出したのだ。


 「対大量破壊兵器専門部隊に所属していたというのは……」

 「悪いがそれはなんともいえないな」


 守秘義務がある……が、もう一度驚愕と感嘆が入り混じったような声が響く。 まぁ当然か、こんな回答をしてしまえば所属していましたよといっているようなものか、別に知られようが知られまいがどうでもいいのだが。


「ったく、俺の出自なんかよりも状況はどうなっている?」


「見ての通り、動けない状況です。 現在の現場指揮の人間は突入を強行しようとしていますが……」


「どうした?」


「狙撃手がいるのです」


「狙撃手?」


「ええ、突入をしようとした部隊が何人かやられて、命に別状はないのですが重症で動けません」


なるほどね、だからこれだけ離れた所に捜査本部を立てているわけだ。


 遠目にビルの入り口を見るが、なにやらガラス片のようなものが散らばっており、狙撃を防ぐようにバリケードが立てられ、その後ろにシールドを構えた警察が緊張した面持ちでビルのほうをにらんでいる。


 皆パトカーを盾に、様子と犯人の出方を伺っているといった様子だ。


というか、狙撃手がいるならこうして呑気に俺たちは突っ立ってていいのだろうか……いまさらだがとりあえず少し日産の背後に回って盾の代わりとする。 というか言えよお前ら。


「犯人の要望は?」


「何も……」


「人質は?」


「一人……」


「身元は割れているのか?」


「えぇ、現防衛庁長官です」


「マジかよ……」


 呆れても言葉は出た。 よりにもよって元上司かよ。


どうりで俺が選ばれるわけだ……最悪の場合俺と人質を交換するようにという魂胆か……あの無能な狸爺なら平然とやりかねない。

 

 あぁ、早く仕事おわらせて帰りたい……美人なねーちゃんだったらよかったのに……いや、よくないな、不幸になった美人なねーちゃんはいないんだ。それだけで十分じゃないか 英明。


「どうして誘拐されたカルロスとジルダはどうした?」


「はい、対大量破壊兵器専門部隊からの報告によると……誘拐されたと思われる日、夜中に一人でお忍びで外出していたとの報告があります」


 あれならやりかねないな……税金使ってキャバクラ行くのが趣味だったからな、その帰りにでもやられたのだろう……十分に考えられる話だ。くそ、余計にモチベーションが下がる。

 

 まぁしかし。 死んだ人間を悪く言うのはよろしくはないので俺は心の中だけにこの言葉をしまい、ため息だけを漏らす。


「突入にはおおむね賛成だな。恐らく人質はもう生きてはいないだろう。だからそのつもりでことを運ぶぞ」


「……生きていないと、どうして分かるので?」


「身代金も逃走用の足がかりも何の要求もないんだろ?」


「ええ、まだ確定となったわけではないですが」


「恐らく敵の目的は一人でも多くの人間の殺害だ。奴等には俺たちの常識なんて通じねーよ。 目的は金でも私怨でもない。 テロリストとして、神だかなんだか信じるものの為に、一人でも多くの命を奪うことが出来ればそれでいい……そう考えているということだ。腕のいい人間を連れてきたんだろう。東京のど真ん中で民間人を数百人殺すよりも、次から次へと湧いてくる戦える人間を殺したいって意志が読み取れる。いくらこっちが多数だからとはいえ 人質がいればうかつに手を出さなくなるし、もしくは強行突破を狙ってきたら狙撃で足並みを崩す……て算段だろう」


「……っ完全に手の平の上。 どうしたものでしょうか」


「まぁ、やり方はおいおい考えるとしてだ。まずは状況を整理したい……どういう流れで、どうしてここにテロリストが潜伏しているって騒ぎになった?」


「はい、始めはただの通報でした、慌てた様子で会社に銃を持った人間が押し寄せて来て、乗っ取られたと」


「なるほど、それで?」


「我々警察がその要請を聞いて駆けつけ、外に逃げ出してきた従業員を保護。彼等の話と、人質の身体的特徴や、容貌、そして犯行声明より人質が現国防長官であることを断定。中に入ろうとした所で数人が打ち抜かれて重症を負い、交渉をしようとしたネゴシエーターが右耳を打ち抜かれて病院に運ばれた、その搬送が終了した所で江蒼警部がいらっしゃいました」


 ここまでは相手の思惑通りことが進んでいるという印象だ。

従業員が逃げ出せたのも、人質が国の重要人物ならば一人で十分ということだろう。

 

 今のところ死人が一人というのは不幸中の幸いといった所か。


まだ100パーセントというわけでもないため、安易に突入しろとか命令は出来ないが、もし突入することとなったらその責任は強行突破をもくろんでいるらしい捜査一課の方に背負ってもらおうそうしよう。


 「現場を見せろ」 

 「はい」


 現場は厳重にバリケードが立てられ、銃弾が通らないようにその後ろからシールド部隊が隙間のないように立って俺たちを守っている。


シールドは黒色に染められていたために上手く先を見ることが難しかったが、それでもある程度は把握することができた。


 「ふむ、随分とガラスが散乱しているな。 それと……なんだあの線と鳥は?」

見ると、そこには数羽の鳥の死体が白い線の内側に落ちて絶命していた。

白い線はチョークで書いたかのようなつたない線であり、それがビルの周りに大きくぐるっと落書きがされている。


首をかしげると、小太りの叔父さんは困ったように返答をする。

「あの線は我々が到着する前には既に……あと、あの鳥は遊んでたのか、同じ人物に狙撃されていました。邪魔だから撤去しようとも思ったのですが、狙撃手がいるためにそのまま放置なのです」


 ふむ……最初から白い線が引いてあった、となると犯人が用意したものと考えるのが妥当だろう。そうすればこの汚い手書きの線にも納得できる。

だが、だとするとどうして何のために?



 俺は少しその疑問に頭を悩ませると、同時に銃声が響き、どさりと新しく狩りの餌食となった野鳥が、俺たちの目の前に落ちてきた。


               

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