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第百十一話 新たな旅路へ

 銀色の壁面に囲まれた無機質な室内は、照明が無くとも十分な光に包まれている。 

 小さな体育館程の広さをくまなく照らしているのは、目の前の蒼い球体。


「では、もう行かれるのですね」


 その球体から、男性とも女性とも受け取れる声が響く。


「ああ」


 ここは、滅びた街の遥か地下。 俺達はノアに別れを告げに、再びこの場所を訪れていた。


「ノアは、ずっとここにいるの?」

「ええ、それが私の存在意義ですから」


 相棒の問いかけに対し、さもそれが当然の事であるようにノアは答える。 


「地上に緑が戻り、この場所が必要なくなるまで、私の使命は続いていくのです」


 例え数百、数千年経ったとしても、ノアは自分に与えられた役目を果たしていくのだろう。


「そっか……」


 あくまで冷静なノアの返答を受け、相棒は少し寂しげだった。


「色々ありがとな」


 過去の事実に着いて教えてもらった事、キカコを助ける為に砂浜まで運んでもらった事。 接した時間は少なかったが、礼を告げるには十分だ。


「こちらこそ、久方ぶりの対話、楽しませてもらいました」


 その言葉の中で、無機質な声色に喜色が混じったように感じたのは、気のせいではないと思いたい。


「そうだ、最後に聞いておきたいんだけど」


 これから俺達が向かう目的地、瑞勾陳ずいこうじんの言う世界の中心について訪ねてみた。


「恐らくそこは、中央集積拠点施設の事かと」


 街の名前にしてはえらく無機質というか、まるで軍事施設みたいだな。 


「正式な名称は、時の流れと共に忘れ去られてしまったようですが、遥か昔から人々の集まる大きな都市でした。 それ故に戦争では真っ先に標的になり、召喚獣の大部隊によって跡形も無く破壊された筈ですが……」


 既に破壊されている……? だったら、今行っても何も無いんじゃ。 そんな所にあの仮面達は集まっているのだろうか。


「そこに行くにはどうすれば?」


 続けて、その中央なんとかまでの行き方を訪ねる。 疑問はあるが、何にせよ行ってみなければ始まらない。


「この街とは陸続きの場所にありましたから、人間の足でも一週間程で辿り着く筈です」


 陸路を使った一週間の旅、それはまた、新たな別れの呼び水でもあった。  


                             ※


「じゃあ、アタシ達は残ってるっすよ」


 陸路で目的地に向かう事を告げた俺に、アメリアは予想外の言葉を告げた。


「いいのか?」


 船の番をして貰えることも含め、それは願ったり叶ったりの申し出だった。 それだけに、何故アメリアが自分から言い出したのか疑問に思ってしまう。


「無理矢理付いてく程、アタシも子供じゃないっす」


 そこで一旦言葉を切ったアメリアの顔には、いつもの飄々としたそれとは違うものが浮かんでいた。


「……予想はしてたけど、外の世界がこんな風になってるのを見て、結構驚いたんすよ」


 自分にあったのは、ただ未知なるものへの好奇心だけ。 実際に滅んだ街の光景を目にし、過去に起こった出来事を知って、今までに経験の無い感情が沸き起こったとアメリアは言う。


「もう暫く、色々考えてみるっす」


 真剣な顔をしてそう告げるアメリアに、俺は無言で頷いた。 


「アメリア殿と船の護衛は、拙者にお任せあれ」

「任せたぞ、キカコ」

「承知!」


 威勢よく構えを取るキカコの頭を撫でれば、元気な返事が帰って来た。 


「二人共、ボク達が戻ってくるまで元気でね」

「勿論っすよ!」


 ぱぁっと明るい笑顔になって、アメリアは相棒と手を握り合う。


「じゃあじゃあ、最後の晩餐を」


 地下への往復ですっかり腹を空かせたのだろう、もう席に着いた相棒は、夕食を今か今かと待ち構えている。


「それは縁起悪くないか……」

 

 不穏な言葉遣いを咎めつつ、俺も席に着く。

 何時も以上に気合の入ったアメリアの料理は、ここ暫くでは一番に美味しかった。


                           ※


 それから一夜明け、俺達は旅立ちの時を迎えようとしていた。 幸い空模様は雲ひとつない晴天で、爽やかな太陽が少し眩しい。


「忘れ物は無いよな?」

「うん、大丈夫」


 相棒と共に、街とそれ以外の境目、舗装された道路がぷつりと途切れた場所で立ち止まった。

 ここから先は、草木一本生えていない赤茶けた荒野が、地平線の先まで続いている。


「そういえばさ、ボクの背中には乗っていかないの?」


 歩いて一週間程の距離なら、相棒の背中に乗っていけばもっと速く到着する筈だ。


「何があるか分からないし、それに……」


 けれど、その手段は選ばなかった。 

 大渦で襲い掛かられたように、空でも機械が見張りをしているかもしれない。 


「見ておきたいんだ、色々」


 この地がどうなっているのかについて、単なる興味以上のものがあった。 アメリアに触発された訳ではないが、道中の光景を見逃してはいけないような気がしていたのだ。


「ふーん」


 渋々納得した様子の相棒は、気のない返事を返す。  


「では、出立するとしよう」


 隣から響いた妖艶な声を合図に、俺達は一歩踏み出した。


「ああ……んん?」


 ちょっと待て、今の声は……?


「いつの間に!?」


 俺の隣に、気付かない内に実体化していた瑞勾陳の姿があった。

 相変わらず露出の多い格好だが、日焼けとかしないのだろうか……?


「何を驚いている、さっさと進むぞ」

「え、えらそーに! 待て!」


 一人先に進んで行く瑞勾陳と、その背を追いかける相棒。


「はは……」


 これからの道中に幾許かの不安を感じつつ、俺もまた歩き出す。 この先に、果たして何が待っているのだろう。

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