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第百十話 過去からの脅威

 砂浜での戦いから一夜明け、俺達はいつものように操舵室で朝食を取っていた。

 幸い船体等に被害は無かったようで、今の所は問題なく生活を送れている。


「キカコ、大丈夫か?」


 と、黙って机を囲んでいるキカコの姿が目に付いた。

 あれからキカコはすぐに目覚め、体にも特別深刻な損傷は無かった。 しかし、キカコの体にはまだ彼方此方に戦闘の後が残っており、少々痛々しい。


「面目ない、暫くは戦闘不可能で御座る。 幸い自己修復機能に損傷は無かったので、数日もすれば元に戻る筈」


 顔を俯かせ少し申し訳無さそうに答えるキカコ。 どうやら、昨日の戦闘であまり活躍できなかった事を気に病んでいるようだ。

 キカコの体には動力炉も内蔵されているらしく、特に外部から補給をせずとも各機能を使用可能らしい。 

  

「そっか、治るんだったらよかった」


 その答えを受け、安堵の声を漏らす相棒。


「あんまり気にするなよ、キカコは十分頑張ってたんだから」

「お気遣い、痛み入る」


 一応の励ましを掛けたものの、まだキカコの顔にはどこか憂鬱なものが浮かんでいるように思えた。

 最初は全く表情の見分けが付かなかったけれど、最近はなんとなく心中の感情が察せるようになっていた。

 多分こう言う事は、本人が納得しない限り難しいのだろう。 


「にしても、あいつらはなんだったんすかね」


 朝食の片付けを終えたアメリアが、席に腰を下ろしつつ話に入ってきた。

 あいつらとは、昨夜襲い掛かってきた白い仮面の男達の事だ。


「それが、ボクにもよく分かんないんだよね」

「カムロっちも知らないんすか?」


 首を振る相棒に、アメリアは少し意外そうな反応を見せた。

 何度も襲い掛かられているのだから、普通に考えれば少しは敵の事を知っているよな。


「ああ、正直俺も知らない。 けど、知っていそうな奴に心当たりはある」

「それって……?」

「お前の頼みを聞いたんだし、出て来てくれないか?」


 首を傾げたアメリアに答える代わりに、腰に入れたままの山札デッキに話し掛けた。


「ふ、そう言われては断れんな」


 重厚な声を響かせて目の前に現れたのは、人間の格好をした瑞勾陳ずいこうじん

 相変わらず体の線がはっきりと分かる扇情的な格好で、直視するのを躊躇ってしまう。


「あー! お前は!?」

「うわっ、エロエロっすね……」

「殿のお知り合いで御座るか?」


 突如現れた瑞勾陳に、相棒達は三者三様の反応を見せる。


「知り合いといえば知り合いなんだけど」


 何て言えばいいんだろう。 昔命を懸けて戦った、なんて言えないしな……


「もう少し深い関係、であろう?」


 そう言って、おもむろに体をしだれ掛からせる瑞勾陳。

 突然の事に体が動かず、為すがままに豊満な体を押し付けられてしまう。


「な、なな…… ご主人マスターに触るな!」

「そう熱くなるな、器が知れるぞ」


 敵愾心を剥き出しにする相棒に対して、瑞勾陳は余裕たっぷり。


「何をー! お、大きいからって威張るなよ!」

「確かに大きいっすよね……」


 瑞勾陳の一点を睨みつけて声を張り上げる相棒と、同様にその部分をまじまじと見つめながら呟くアメリア。 なんだか話があらぬ方向に行っているような。


「それで、この方は?」


 唯一冷静なキカコが、ようやく話題をまともな方向に導いてくれた。


「我が名は至神創皇・瑞勾陳しじんそうおうずいこうじん、召喚獣だ」

「ボーちゃんと同じって事っすか? なのに何でこんな険悪な感じに」


 相棒と瑞勾陳の二者を交互に見比べつつ、アメリアは神妙な顔で問い掛ける。


「まあ……その、色々あってな」

「むぅー」


 言葉に詰まる俺をじっと見つめ、相棒はまだ不機嫌さを隠そうともしていない。

 相棒は瑞勾陳に対して凄まじい敵意を見せている、それこそ、単に敵対していたという以上のものを。 けど、そこまで嫌う理由があったかな。


「さて、何故我を呼び出した?」


 ようやく俺の体から離れてくれた瑞勾陳は、丁度正面に立ってこちらの顔を見つめた。


「幾つか聞きたい事があるんだ」

「よかろう、久しぶりに体を動かして、我は気分が良い」


 ゆっくりと体を伸ばし、くつくつと妖艶に笑う瑞勾陳。


「まず一つ、お前は昔の戦いで人間に味方した召喚獣なんじゃないか?」

「え……?」

「ふ、随分昔の話を持ち出したな」


 相変わらず悠然とした態度の瑞勾陳に対し、更に話し続ける。


「ここから先は推測なんだけど」  


 かつての戦いの最中、人類は召喚獣を相手に劣勢を強いられていた。 しかし、人類側に付いた瑞勾陳の強大な力によって、召喚獣側に傾いていた戦局はなんとか均衡を保てる程度には持ち直せた。

 一つの大陸に逃げ込んだ僅かな人類は、そうやって均衡状態を保ちつつ、どうにか生き延びた。 それが、あの大陸で暮らす人々の祖先。


「けど多分、お前の力は強すぎたんだ」


 戦争が終わった後、もう瑞勾陳の力は必要なかった。 恐れを抱いた人間達は、次第に瑞勾陳を疎んじるようになり、そして遂には存在ごと封じ込める選択をしたのだろう。


「だから、お城の地下に封印されてたんだ」


 サモニスに召喚獣の技術が伝わっているのは、かつて人間に協力した召喚獣と最も近かった人々の末裔だと考えれば説明が付く。


「まあ、大方はその通りだな」


 そこまで聞き終えて、瑞勾陳は満足そうに頷いた。


「で、ここからが本題だ。 お前が言っていた脅威っていうのは、あの仮面集団の事じゃないのか?」


 ここで一旦言葉を切り、瑞勾陳の反応を伺う。 瑞勾陳は目を瞑って何かを考えているようで、そこから感情は読み取れない。


「あいつらが言ってた事、まだ全部分かった訳じゃないけど、なんとなく察しはついた」


 今まであいつらが襲い掛かってきた時の言葉からは、単に命令されたから排除するという盲目な意思しかなかった。 

 けど、こちらに来てから戦った何人かの様子は違っていた。 

 約束の地、安らかな祝福。

 言葉の意味は分からないが、ただ従っている以上のものがそこにはあった。

 

 恐らく、それはこの場所に関係しているのではないのだろうか。 かつて高度な文明が栄え、召喚獣との戦いによって滅びたこの場所と。 

 まだ推測の域を出ないが、この場所で彼等は何かを計画しているのでは。 それこそ、俺達が暮らしていた大陸に及ぶ程の、とても大きな何かを。 


「半分、だな」


 長い沈黙を破り、ぽつりと瑞勾陳は呟いた。


「えっ?」  

「お前の考え、半分は正解だ」


 戸惑うこちらを見てふっと軽く笑ってから、尊大に話し出す瑞勾陳。


「奴等について、我は知らん。 我が知っているのは、恐らく奴等を率いているものについてだ」

「それって人間? それとも召喚獣?」

「知りたければ、実際に会ってみる他無いだろうな」

「会えって言われたって……」


 そんな事を言われた所で、まるで手掛かりが無いのにどうやって会いに行けば。


「……奴に会いたければ、ここから更に南東を目指せばよい」


 こちらの困惑を察してくれたのかは分からないが、瑞勾陳は言葉を続ける。 


「そこに、世界の中心がある」


 それは、俺達を更なる戦いに導くものだった。

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