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第百九話 舞い降りる黄金

 正面から襲い掛かった獣の頭を踏みつけて跳躍し、土手っ腹に脚部から誘導弾を叩き込む。

 同時に両腕を展開させ、左右の獣に超硬電磁鉄条を打ち込んだ。 紐を伝わる電流によって、獣の動きが一瞬止まる。

 青白い閃光を挙げて爆散する正面の獣、その爆風を利用して更に飛び上がり、腕を交差させて左右の獣を空中で叩き潰した。 

 そのまま敵の群れから少し離れた場所に着地し、現状を確認する。 右腕の内蔵式片刃剣は既に折れ、肩部の速射砲も中心から真っ二つに破壊されている。

 だが、敵の数はまだ砂浜を埋め尽くす程残っていた。


「カムロ・アマチがいないのは残念だが、貴様から先に葬らせてもらおう!」


 最早慢心創痍の拙者を見て、敵の一人が満足そうに笑っている。 それに言い返す気力も、今の拙者には残されていなかった。


 船で殿達の帰りを待っていた拙者の前に現れたのは、殿の記憶にもいた異形の怪物達。

 自分で言うのも気恥ずかしいが、拙者はかなり奮戦していたと思う。

 しかし、多勢に無勢覆しきれなかったようで御座る。 最早自爆装置も無いが、こうなれば我が命を賭してでも……


「止めだ!」


 一斉に放たれた敵の火球に向かって、最後の突進を掛けようとした時。 


「……凍海青龍剛功とうかいせいりゅうごうこうの、効果エフェクト発動!」


 どこからか、あの雄々しい声が響いた。


「この魔物モンスター召喚コールされた時、山札デッキ及び手札から、星宿孤翼朱雀せいしゅくこよくすざくを召喚出来る!」


 拙者の眼前で、放たれた数十の火球を防いでいたのは、燃え盛る翼を持った朱い鳥。


「大丈夫か、キカコ!」

 

 こちらを庇うように悠然と拙者の前に立ったのは、最早見慣れたあの背中で――


                             ※

 

「何か手は無いのか……!」


 眼前で展開される戦闘は、どう見てもキカコが不利だった。 戦力の大小はともかく、敵の数が多すぎる。

 キカコが倒されるのを、ただ見ていることしか出来ないなんて。


「ノアさんは武器とか持ってないんすか!?」


 落ち込んだ俺を見かねたのか、アメリアがノアに問いかける。


「かつての戦闘で大部分が失われてしまいましたが、まだ私が使用できる防衛機構はあります」  

「じゃあ!」

「ですがそれはあくまで対召喚獣用、人間相手には使用できないのです」


 ノアは、人類同士の戦争に加担しないよう設定されているらしい。

 異様な格好をしているとはいえ、あの白い仮面集団は紛れも無く人間だ。


「だったら、俺達をあそこまで運んでくれないか! 攻撃以外だったら出来るだろ?」

「人員の輸送だけなら、内部規定にも反しません」

「でも、どうやって海岸まで」


 ここから海岸までは、歩いて何時間も掛かる距離だ。 エレベーターの類を使ったとしても、恐らく数十分は……


「短距離空間跳躍門を開きます」

「……何だか分からないけど、それでキカコの所へ行けるんだな」


 その単語が何を意味しているかは把握出来なかったけど、語感からなんとなく移動できそうな気配がする。 この際、詳細を聞いている時間は無い。


「緊急跳躍になりますので、座標指定に多少の誤差が生じるかもしれませんが」

「それでもいい!」

「では、跳躍を開始します」

 

 あくまで冷静なノアの言葉を最後に、俺達の体は眩い閃光に包まれていた。


「ここは……!?」


 光が晴れてまず見えたのは、空一面を覆う満天の星空。 頭を逆に向ければ、先程まで見ていた戦闘の爆炎が、今は遥か眼下に見える。

 感じるのは涼やかな夜の潮風と、内臓が浮き上がるような……


「も、もしかして」

「落ちてるー!?」


 事の重大さに気付いた相棒とアメリアが、殆ど同時に叫ぶ。

 そう、俺達は砂浜の遥か上空に現れていた。 地面までざっと4、50m、このまま落下すれば、キカコを助けるどころではない。


「俺のターン、ドロー!」


 落下に伴う凄まじい風圧の中で、考えるより先に手は山札へと伸びていた。


「この魔物は、自分のカードを五枚山札の上から取り除いて召喚出来る!」


 条件を詠唱すると共に、手に持っていたカードを下方へと放り投げる。


「其は大海! 其は雷鳴! 鮮やかに清鱗煌かせ、今天空を貫け!」 


 祝詞を唱えれば、空中のカードから、蒼い稲妻が巻き起こった。


召喚コール! クラス8、凍海青龍剛功!」


 その稲妻は空中で竜の姿を模り、空中に鳴り響く轟音と共に実体を持つ。 

 次の瞬間、柔らかな蒼光を纏った東洋龍が、柔らかい腹で俺達を受け止めていた。


                          ※


「ふぇぇ、危なかったっす……」


 ゆっくりと地上に着地した青龍の体から降り、安堵の声を漏らすアメリア。

 

「アメリアはキカコを頼む!」

「分かったっす!」


 張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、キカコは気絶していた。 動けないキカコを任され、重たい体を背負って船へと走るアメリアを見送る。


「青龍雷撃迅!」


 挨拶代わりの一撃が青龍から放たれ、地面を抉る蒼い雷撃によって数体の魔物が消滅する。


「現れたな、カムロ・アマチ! 安らかな祝福の為、今日こそ貴様を葬る!」


 しかし、敵の戦意はまだ衰えていないようだった。

 眼前には数十体の魔物が蠢き、今にも襲い掛かろうとこちらの隙を窺っている。

 と、視界の端に、アメリアが船の扉を閉める光景が入った。 どうやら、二人は安全に逃げられたようだ。


「相変わらず何言ってるか分かんないけど、襲ってくるんなら容赦しない!」


 二人を巻き込む心配が無いのなら、遠慮なく全力を出せる。

 彼らが何故こちらを目の敵にするのかは分からないが、身にかかる火の粉を払う事に迷いは無かった。


「星宿孤翼朱雀の、効果発動! 自分の生命力ライフを半分支払うことで、山札デッキ及び手札から、迫帝白虎蓐収はくていびゃっこじょくしゅうを召喚出来る!」


 効果宣言と共に、目前の虚空に新たな札が現れる。


「果てし無き荒野を駆ける猛虎よ! 我が命に応じ、その雄々しき爪牙で敵を葬れ!」


 その札を握り、猛々しく祝詞を唱え出した。

 

「召喚! クラス8、迫帝白虎蓐収はくていびゃっこじょくしゅう!」


 目の前に現れたのは、宝石の様な白い毛皮に包まれた猛虎。


白虎獣殴葬びゃっこじゅうおうそう!」


 登場するが早いか、白虎は凄まじい勢いで敵陣に突進し、数体の魔物の胴体を鋭い爪で引き裂き、凶悪に尖った牙で頭を一気に噛み砕いた。


「ぐっ、まだ……まだ負けられん!」


 敵の数は減ることなく、それどころか増えているようにも感じられた。 

 魔物を呼び出している仮面の男を倒さなければ、何時まで経っても決着が付かないだろう。 


「自分のフィールドに、迫帝白虎蓐収と凍海青龍剛功が存在する時、この魔物は手札から召喚出来る!」


 あいつを呼び出すために必要な四体の魔物は、互いに補い合う効果を持っている。

 だが、一枚を引くだけでは足りず、少なくとも二体は自分の手で手札に揃えなければならなかった。 また、魔物を呼び出す際に妨害が入る事もM&Mではよくある話だ。 

 それもあって、あちらの世界であいつを呼び出すことは、実践では有り得ない浪漫と呼ばれていた。

 まあ、俺はそもそも四枚の魔物を持ってすらいなかったのだけど。


「大地震わせ現れしは、天地に終わりを告げるくろの化身!」


 それがこうやって自身の手で四体を揃えることになるとは、巡り合せの妙を感じてしまう。


「召喚! クラス8、天翁真夢玄武てんおうしんむげんぶ!」


 丁度魔物達と俺を挟んだ対角線上に、地中から土砂を巻き上げて黒い蛇の尾を持った亀が現れる。

 俺の傍に青龍、右前方に白虎、左前方に朱雀。 これで四体の魔物が、丁度正方形の形に並んだ。


「待たせたな、お前の出番だ!」


 左手に持っていた四枚の札を、一つに合わせて宙に掲げる。


「四つの獣を一つにし、輓近ばんきんに覇を広げん! 神威轟かせ、現下に降誕せしは四神のおう!」


 一つの大きな札は空中で輝き出し、余りの光量に周囲全ての動きが止まる。


「クラス10、至神創皇・瑞勾陳しじんそうおうずいこうじん!」


 眩い黄金色の閃光を放ちながら眼前に現れたのは、巨大な竜頭の魔人。

 全長はゆうに百mを超え、全身の光で周囲を真昼のように照らしている。

 背部に八対の翼を持ち、胴体に中華鎧の明光鎧めいこうがいを着込んだ雄々しい姿を見て、かつて感じた威圧感以上の頼もしさを感じていた。


「これで終わりだ! 黄龍激弄覇こうりゅうげきろうは!」 


 魔人の両手から放たれた金色の波動が、視界に移る全てを包み込む。

 圧倒的な光の渦が通った後には、塵一つ残されてはいなかった。 

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