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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
昔話1 ロビンの話
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Good fellows' Robin 9

「ロビンはシンシアをどう思ってるの?」


大人を見れば大概(たいがい)逃げるというロビンをシンシアは()(つか)まえて、こうして面倒を見ている。

ロビンはサンドイッチの最後の一口を入れた口をもごもごしながら、シンシアをちらりと見た。


「大丈夫、大丈夫、シンシアに怒られるとしたら僕だから」

「……こんなこと言うヤツより、よっぽど()(とう)なことしか言わないと思ってるよ」


とうとう、シンシアが僕を指差してそう言った。

爆破(ばくは)するからには、余所者(よそもの)余所者(よそもの)らしく、泥を(かぶ)るべきなのであるからして、僕としては全然(かま)わない。

ロビンは今度は僕の方を見てから、口の中のものを飲み込んだ。


「……シンシア()はキレイで、やさしいの」


シンシアが眉を上げる。

それなら、と続けて問うてみる。


「他の(まわ)りの人は?」

「……シンシアや()()ぐらいキレイなのはみないの。でも、こわいのとか、かなしいのがいるの」


思い出したのか、少し身を(ちぢ)こめて、だからイヤなの、とロビンは吐息混じりに言った。

さて、そしたらもう一度泥でも(かぶ)ろうか。


「ロビン」


シンシアが口を(はさ)む前に、その続きを言い切る。


「キミが今まで見た中で、()()()()()()()()()()

「……」


身を(ちぢ)込めたまま、ロビンは静かに(まばた)きを繰り返した。

シンシアの視線が気遣(きづか)わしげにロビンに向き、それから突き刺すような非難(ひなん)を込めて僕に向いて、またロビンに戻る。

ロビンは僕を途方(とほう)()れたように見上げて、口を開いた。


「……()()、なんでもわかっちゃうの?」

「まさか。僕だって知らない事、わからない事はあるよ。だから、知りたいし、わかろうとして、いつだって必死に頭を回すのさ。だから、時々気付いたら、ゴールに着いてる」

「……」

「でもね、結局それは僕の思考でしかなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは、()()()()()()()()()()()()()()()何故(なぜ)なら、そうした言葉や概念というものは、究極的に(いつわ)りでしかないから」


そこまで言って、言い過ぎたな、と思う。

いくらなんでも、小学校の低学年が理解できるはずもない。

シンシアの大人気(おとなげ)ないことを、という(あき)れた視線が突き刺さる。


「……難しかったね」

「どういうこと?」


苦笑して言えば、ロビンは()()ぐにそう言った。


「無理して理解することでもないよ、ロビン。こいつはこういう小難(こむずか)しい事を平気な顔して言うんだ」


まったくもって正論をシンシアが言うが、しかし、ロビンは首を横に振った。


「がんばって、かんがえるよ。だから、おしえて」

「……そうだなあ」


どう伝えようか。せっかくならついでに真実がわかるようにしようか。

今回についてはどうやったって、治療(Curatio )には、(vulneris)しばしば(gravior )傷以上(vulnere )の痛み(saepe)がある( fuit.)のだし。


「うーん、そうだねえ、例えば、僕はキミの火傷(やけど)、キミのお母さんがやったんじゃないか、と思った。でもこれは僕の思考・想像であって、ロビンの経験した()()とは全然違うかもしれない」

「……うん、ちがうの。お母さん(Mum)じゃないの」


シンシアが渋面(じゅうめん)を作って僕を(にら)んでいる。

それを横目で見てから、まあそうなると十中八九彼女(おばあちゃん)かと考えながら、ロビンに向かって言う。


「そう。あくまで、僕の頭の中のもので目の前で起きたことでもなければ、経験したことでもない。けれど、言葉でこうして表してしまうことはできる」

「……うそをつけるってこと?」

「そうだねえ、そうでもあるんだけど、例えばリンゴって言ったって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ? でも現実としてリンゴは木だったり、実だったり、花だったり、形態こそ変われど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


今シンシアの眉間に寄ったしわは、どちらかといえば、理解が(およ)ばん、という感情だろう。

ロビンも一生懸命考え込んでいる。


「……えっと、リンゴって言った時に、そこに本当にリンゴがあるわけじゃない?」

「そうだよ。今だってロビンの目の前にはリンゴはないじゃないか。けれど、ロビンはリンゴと口にした。加えて、リンゴって言ったところで、リンゴの何を指してるかは変わるじゃないか、花なのか実なのかとかね。言葉において、それに付随(ふずい)する広範な概念……イメージは常に(ともな)っても、現実的本質……実体を常に(ともな)うとは限らない」


シンシアの眉間のしわが更に深くなったタイミングで、呼び鈴が鳴った。


Curatio vulneris gravior vulnere saepe fuit.:ラテン語の格言。


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