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怪異から論理の糸を縒る  作者: 板久咲絢芽
1-1 逆さまの幽霊 side A
12/209

11 ロビンの言い分

(はら)う。


その言葉に、ちくりと真由(まゆ)の胸が痛んだ。

それが誰かわからなくても、それでも助かってほしいと願った別の心優しい誰かの残滓(ざんし)

それが真由(まゆ)が見た怖いものの正体だというなら、実害というには(あま)りに些細(ささい)なそれを消すというのは――


「同情なんか、マユがする必要はないよ」


真由(まゆ)の思考を()ち切るように、ぽつりと、ロビンがそう言った。


「本来、もう息絶(いきた)えたウワサだったんだ。それがまた流されて、そしてキミや交通事故にあった子が()()を見た。それは、そうとは知らなかったとはいえ、墓を(あば)くような行為だったと言える。静かに眠らせてあげるのが、一番いい」

「……」

「オリカが対処すれば、ウワサが流れたところでそう簡単に顕在化はしなくなる。だから、同情するぐらいなら(いの)るべきだ。安らかに眠れ(R・I・P)って」


それでも、真由(まゆ)は感情的に納得(なっとく)がいかない。

ロビンが苦笑する。


「マユ、さっきもオリカが言ったでしょ? 優しい人がいるから怪談は作られる。でも、それ自体、本当に優しいこと?」

「え……?」


青い目が射抜(いぬ)くように真由(まゆ)を見ている。

暗がりでもいやにはっきりとしたその真昼の空のような青は、(かす)かに発光しているようにさえ見えた。


「勝手に同情して、勝手にそうだったらいいなんて希望を押しつけて、死人に口なしとは言うけれど、それって本当に優しいこと?」

「……」

「さっきも行った通り、それは墓を(あば)いて、その死体を(さら)し物にするような行為だ。でも、その一方で確かに死者に栄誉を押しつけるような行為だ。そして、何より、誰もがそうであればいい、と考える」


得体(えたい)の知れない青い目は、心の内まで見透(みす)かすように、真由(まゆ)の視線を()()める。

あの逆さまの人影の時のように、目が離せない。


「誰もが、そうあった方が(よろこ)ばしいと思うから、荒唐無稽(こうとうむけい)が起きる。どんな世界も、思ったより、理屈は通用しない。だから、そうあってほしいなんて同情なんてするべきじゃない」

「……」


それでも、不快や恐怖はなかった。

ただ、その言葉に(したが)うように、真由(まゆ)は自然と、こっくり(うなず)いていた。


「……目撃者の思いはなかったことになるんじゃない。あったけれど、正しい形に収まる。それを喜びこそすれ、悲しむ必要はない……いいね?」

「……わかり、ました」


自然と、真由(まゆ)の口がそう(こぼ)す。

(こぼ)すと同時に、真由(まゆ)の頭の中はうっすら(やわ)い霧がかかる。


――それでいい。それでいいのだ。

だって、専門家がそう言うのだし、真由(まゆ)にはその真偽(しんぎ)見極(みきわ)めるための能力はない。

何より、きっと、これ以上首を()()んでいい問題でもない。

それは、迷惑になるとかそういうものではなく、そう、他でもない、真由(まゆ)自身が平穏に生きるために――


R・I・P:「Rest In Peace.」あるいは「Requiescat In Pace.」のイニシャリズム

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