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ep23:私のこれから

 ナターシャ――私が目を覚ましたのは、あれから数ヶ月後のことだった。


 身体強化魔法で体を酷使(こくし)したのに加えて、魔力切(まりょくぎ)れ・邪神(じゃしん)の呪いの解呪(かいじゅ)、さらには終式封印(しゅうしきふういん)破壊(はかい)魔眼(まがん)能力発動(のうりょくはつどう)など、それはもう沢山(たくさん)の体力と精神力(せいしんりょく)魔力(まりょく)消費(しょうひ)しまくったので、ずっと生死(せいし)さかいをさまよっていたのだ。

 目覚(めざ)めたときには、(さき)んじて(つく)っておいた次元転移魔法(じげんてんいまほう)とその因果(いんが)をリズールが利用したのか、まさかの現代日本(げんだいにほん)集中治療室(ICU)にて、沢山の管と魔法的な機器(きき)に繋がれていた。

 その時の私の第一声(だいいっせい)が、


見知(みし)らぬ天井(てんじょう)だ……」


 となるのは自明(じめい)()だっただろう。

 何にせよ、私は現在(ここ)で生きている。

 ナターシャちゃんとして。



 それから数日後、私が目覚めたとのしらせを聞いて、一番にけつけたのはクレフォリアちゃんだった。

 当たり前のように次元転移(じげんてんい)を行って、個室(こしつ)(うつ)された私の側に(あらわ)れた。

 かなり重要(じゅうよう)なことを説明(せつめい)されたり、話し合ったような気がしたが、やはり昏睡状態(こんすいじょうたい)が長かったのか、何を会話したのか忘れた。

 うる覚えだけども確か、


『私たちの世界(せかい)と、この異世界(いせかい)異文化交流会いぶんかこうりゅうかいを――』


 というワードだけが脳裏(のうり)に残っていた。

 きっとポジティブな話題(わだい)だと思う。



 私の意識(いしき)記憶(きおく)がはっきりし始めたのはそれから半年後。

 現代日本でのリハビリや検査(けんさ)などを終え、『神の手(ゴッドハンド)』と呼ばれてるらしいお医者さんから退院(たいいん)許可(きょか)を得て、異世界に戻ってからだった。


 天使ちゃんに手をひかれるがまま『勇者召喚陣ゆうしゃしょうかんじん』なるものに入り、ユリスタシア領の邸宅(ていたく)内に召喚(しょうかん)された(わけ)だが、その瞬間(しゅんかん)に、異世界中(いせかいじゅう)魔力(まりょく)が私に集中(しゅうちゅう)

 専用(せんよう)に用意された『儀式(ぎしき)の間』を魔力の暴風(ぼうふう)で吹き飛ばしながら、一気にレベルアップしていき、様々(さまざま)なステータスウィンドウが表示された。


 Lvのカンスト・称号(しょうごう)・スキル習得(しゅうとく)がメインだが、あまりにも多いのでざっくりとした説明にとどめる。


 称号は『邪悪(じゃあく)天敵(てんてき)』、『勇者』、『創世白銀の魔王(トワイライト・キング)』など、まぁ強そうなモノが沢山。

 スキルは【次元転移(ワールドダイブ)】・【真贋魔王の手エンド・オブ・エルキング】・【心象世界(アニムス)極小宇宙ミクロコスモス】という世界神(ワールド)級スキルが三つと、『全状態異常耐性ぜんじょうたいいじょうたいせい』・『全精神支配無効ぜんせいしんしはいむこう』・『全即死攻撃無効ぜんそくしこうげきむこう』などのカンスト耐性スキルと、基礎的(きそてき)なスキルのカンスト表記(ひょうき)。スキルの名称だけでもページ数にして十枚分。

 そしてLvだが、邪神レノスの歴史と存在を全消去(ぜんしょうきょ)――完全(かんぜん)討伐(とうばつ)した影響(えいきょう)で、カンストを超えてカンストした。


 表記(ひょうき)Lvは99を超え、Lv9000。

 ステータスは天文学的(てんもんがくてき)数値(すうち)(たっ)していて、デコピンするだけで星を跡形(あとかた)もなくばせる九歳女児(きゅうさいじょじ)へと変貌(へんぼう)してしまった。

 矢印と数字(グラハム数)で表されるステータスってなんだよ。


 もっとも、強すぎてまともに生きられないので、魔力切れによる意識混濁(いしきこんだく)が消え、正気(しょうき)を取り戻して即座(そくざ)に【心象世界(アニムス)極小宇宙ミクロコスモス】を使い、ステータスを世界で二番目に強いヤツ+1万辺りの固定値(こていち)変更(へんこう)した。

 一番目はもちろん私だ。

 余った力は、爆心地(ばくしんち)となった儀式の間に泣きながらやって来たスラミーに与え、魔力に分解(ぶんかい)してもらった。

 結果(けっか)、スラミーは膨大(ぼうだい)な力の一部(いちぶ)吸収(きゅうしゅう)し、究極進化(きゅうきょくしんか)して完全体(かんぜんたい)になった。

 具体的(ぐたいてき)に言うと王冠(おうかん)が付いた。

 スライムの王になったらしい。よくわからん。


 ……で、だ。

 私を(のこ)して()(ずみ)となった邸宅は、天界(てんかい)修復(しゅうふく)チームによって三日で復元ふくげんされ、今ではエンシア王家、ガーネット公爵家(こうしゃくけ)、そして――ユリスタシア()()家の御三家(ごさんけ)が利用する、一大住居(いちだいじゅうきょ)になっている。

 ユリスタシア家が公爵家になれたのは、純度(じゅんど)100%の魔石生産(ませきせいさん)による鉄道事業(てつどうじぎょう)成功(せいこう)と、一年前に突如発生(とつじょはっせい)し、突如収束(とつじょしゅうそく)した『アンネリーゼ事変(じへん)』への多大(ただい)なる貢献(こうけん)みとめられたから。

 ようは、私の(すご)さがようやく異世界で(みと)められたってことだ。

 (おそ)いにもほどがあるけどね。


 現在(いま)の私は九歳で、時期(じき)は十月。

 初等教育(しょとうきょういく)のために邸宅近くに作った(まな)()にて、私と同じ学生向けのカジュアルな魔導服(まどうふく)で、友人のクレフォリア・エリオリーナ、領民(りょうみん)のフォリアや深雪(みゆき)さん――私があまりにも深雪(みゆき)さんと呼ぶので、入学(にゅうがく)さい本名(ほんみょう)に変えたらしい――を含む女児軍団(じょじぐんだん)と天使ちゃんが、お父さんからの基礎訓練(きそくんれん)授業(じゅぎょう)、『校庭(こうてい)でのランニング』を()せられているところを(なが)めていた。

 男子達は私が詠唱(えいしょう)を創り、リズールが代理(だいり)で作成した絶対に死なないダンジョン『永久不死(とこしえ)迷宮(めいきゅう)』の第一層(だいいっそう)攻略(こうりゃく)()り出している。


 もちろん()領地(りょうち)(たみ)皆聡明(みなそうめい)で、息子や娘を学び舎に入れ、自身も迷宮でLvを上げながらステータス・スキルを上げて農耕効率(のうこうこうりつ)を上げる、という手法(しゅほう)()み出した。

 (かれ)らが産出(さんしゅつ)する魔石のおかげで領内(りょうない)(とみ)え、迷宮周辺(めいきゅうしゅうへん)商品街(しょうてんがい)品物(しなもの)が飛ぶように売れ、物流(ぶつりゅう)人流(じんりゅう)(さか)んになってユリスタシア領内での経済活動(けいざいかつどう)活性化(かっせいか)し、王国内(おうこくない)める地位(ちい)盤石(ばんじゃく)となる。

 素晴(すば)らしい好循環(こうじゅんかん)だ。


 学び舎の経理(けいり)事務(じむ)担当(たんとう)するリズールとお母さんから言われたが、一部地方貴族(ちほうきぞく)子女(しじょ)子息(しそく)からの入学願書(にゅうがくがんしょ)殺到(さっとう)しているらしい。

 彼らも、これからダンジョンを中心とした産業革命(さんぎょうかくめい)が始まると分かっているようだ。

 私の夢――貴族と平民が混在(こんざい)し、(とも)たかめ合う小説・漫画的世界の学園(がくえん)誕生(たんじょう)する未来も近い。


「ふふ、これからどんどん楽しくなるね。この世界が」


 木陰(こかげ)寝転(ねころ)んで微笑(ほほえ)んでいると、一人の精霊騎士(せいれいきし)空色髪(そらいろがみ)軍服少女(ぐんぷくしょうじょ)がやって来た。

 斬鬼丸(ざんきまる)とシュトルムだ。


「なぁ、ジークリンデ」

「ナターシャ殿、話があるであります」


 私は掛けていた銀縁眼鏡(ぎんぶちめがね)を外し、二人を見た。

 ナターシャの眼は両目(りょうめ)とも蒼色(あおいろ)だった。


「どうしたの?」

「沼地の主を退治(たいじ)し終えた(むね)を伝えに」

「おお、お疲れ様。『世界第二位』は強かったでしょ」


 沼地の主――世界ランク二位、極星龍(きょくせいりゅう)メギドラゴン。

 私が邪神(じゃしん)レノスの存在感(そんざいかん)を消したことで、屍龍(しりゅう)にならない道を歩んだ龍。

 ここまでの因果(いんが)は変わらないが、ほんの一人だけ、未来が変わった人類種(ヒューマン)が居る。


(いな)拙者達(せっしゃたち)と共に、(なが)れの冒険者(ぼうけんしゃ)討伐(とうばつ)に加わったおかげで楽だったであります」

「ああ、そいつは大振りの大剣(ドラゴンスレイヤー)(あつか)赤茶髪レッド・ブラウニッシュの男でな。確か名は――」

「オースベルグ?」

「――そう、オースベルグだ! よく知ってるなジークリンデ」


 名はオースベルグ。

 旧スタッツ国、現マグナギア魔導国唯一(ゆいいつ)白金(プラチナ)級冒険者で、私がギルドに『生存確認(せいぞんかくにん)して欲しい』とせっつかれていた男性その人だ。

 シュトルムと斬鬼丸の二人は、少し戸惑(とまど)うような素振(そぶ)りを見せながらも、次のように言った。


「実はなジークリンデ。その冒険者が退治した龍と仮の契(ハーフ・ミスラ)を結んでしまって、私たちも竜の山脈(ドラゴンズバーグ)とやらに行かねばならなくなった」

(ゆえ)相談(そうだん)しに来たであります。ナターシャ殿(どの)(しば)しの間、(たび)に出ても()いでありますか?」

「んー……」


 私は一瞬(いっしゅん)思考(しこう)

 うん。どうせやらなきゃいけないことだし、こうしよう。


「行っていいよ。私も付いてくから」

了解(りょうかい)した」

御意(ぎょい)。ではナターシャ殿、早速(さっそく)でありますが、(むか)えの者が来ている領地北部(りょうちほくぶ)に」

「おっけー。ちょっとお父さんに伝えてくるから待ってて」


 眼鏡(めがね)をかけ(なお)し、立ち上がって大きく伸びをした私は、父に『諸事情(しょじじょう)竜の山脈(ドラゴンズバーグ)に向かう』という話を伝えた。

 父は娘にこう返した。


「つまり、竜族(ドラゴン)との親交(しんこう)を深めるためかい?」

「こんななりでも『新魔王(しんまおう)』だからね。そろそろ顔見(かおみ)せしないと、相手(あいて)面子(メンツ)が立たないと思って」

「魔王は大変だなぁ……分かった。領地は僕が守るから、行ってきなさい」

「行ってきます」


 父から送り出すように頭を()でられ、私は斬鬼丸とシュトルムの元に戻る。

 途中(とちゅう)火照(ほて)った顔の友人達や天使ちゃんを(はげ)ますように軽く手を振りつつ、木陰(こかげ)の二人と合流(ごうりゅう)してユリスタシア領北部に向かった。

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